らすこい19
お昼に合わせて学祭に行くと、想像以上に人がいてびっくりした。カノ曰く、このキャンパスは特定の学部しか無いから規模としては小さいらしい。それでも私の知ってる中で一番賑やかな学祭だった。因みに、カノは同じ大学だけど学部が違うから、別のキャンパスで4年間を過ごしていた。
大学だけじゃなくて地域の出店もあるから、ご当地グルメや農産品も売っていて、しかも野菜とかは安いから、老若男女が訪れていた。これは、花火の時には劣るけど、歩くのが大変そうだ。
「とりあえず、ヨシくんの所行っていい?」
「うん。そーしよ。」
入り口でパンフレットをもらって、地図を見ながらヨシくんのブースに向かった。ヨシくんは研究室で体験型のイベントをしていて、子供や親が何人か集まっていた。
「あ!カノ〜さわちゃん。」
「久しぶり〜」
対応を終えたヨシくんが気付いてくれた。実はヨシくんに会うのは2回目なんだけど、ヨシくんの距離の詰め方が早いからか、それ以上に会ってるよーな気分になる。
「キーチの研究室のブースはもつ煮やってるよ。」
ここね。と言ってヨシくんは教えてくれた。私はカノをチラッと見た。カノはサッと目を逸らした。これは、言わなくていいって言ったのに、ヨシくんに話してるな。
「あはは!」
その様子を見ていたヨシくんが笑った。
「ごめんねーでもさ、頼み事した身としては気になるじゃん。純粋に。キーチも何も話さねーしさぁ。」
まぁ分かるけど…キーチの女性不信を心配してたもんね。
「あ、でもキーチには来るって話はして無いよ。だから夜はうちに泊まっていーからね。」
「ありがとう。」
「じゃあ、休憩になったら連絡するね。楽しんで来て〜」
「分かった。頑張ってね〜」
私達はヨシくんと別れて、学祭へ繰り出した。
「キーチん所行く?」
カノに聞かれて、ちょっと悩んだ。やっぱり連絡すれば良かったかなぁ。ブースに居たら居たで、連絡してくれたらいいのにってなるのも気まずい気がして来た。居なければ居ないで…ちょっと寂しくはあるけど。
「めんどくさいなぁ。今からでも連絡したらー?」
「冷たいなぁ。いーよ、連絡はしないけど、もつ煮は食べたいから行こう。」
カノの煽りに乗せられた感満載だけど、お腹も空いてるし、もつ煮も気になるし。
ブースに行ってみたけど、キーチは居なかった。ホッとしたよーな、寂しいよーな。本当に私めんどくさいわ。
「キーチってゆーか、人が少ないね。」
ヨシくんのブースは体験型だからかスタッフが多かったけど、キーチのブースは2人しかスタッフが居なかった。
「前日までに大量に作るから、当日は結構楽って言ってたよ。」
私がそう言うと、カノはニヤけながら、ふーん。と言った。いちいち意味深な返しをするなぁ…まぁ、いーけどさ。
私達が空いてるテーブルを見つけてもつ煮を食べていると、
「あれ?カノ?」
と、声を掛けて来た人がいた。
「あー!久しぶり〜!」
どうやらカノの知り合いだった。話の内容からすると、サークルが一緒っぽかった。…あれ?しんちゃんもサークル一緒だった気がする。いや、なんか気まずくなって来た。
話が終わって去ってから、
「今の人って、しんちゃんとも知り合い?」
と私はこっそり聞いた。
「ん?あーそうだわ。でも特別仲良かった人では無いから、きっと大丈夫だよ。」
カノはまた意味深に言った。私が話してないしんちゃんとの出来事とか、カノはたまに知ってるから、しんちゃんから連絡がいってるんだろうな。そして、その内容が私への愚痴っぽいから、心配してくれたのかも。
「ここだけの話、私はしんちゃんよりキーチ派だから、キーチを選んで欲しいんだよね。」
カノは周りを気にして言った。え?自分がしんちゃん紹介したのに?
「そーなの?」
「うん。しんちゃんも優しいと思うけど、キーチはいい人だと思ったもん。あんまりなく無い?初めて会った人をいい人って思うの。」
まぁ無いよね。確かに、メールやり取りしてる私も、いい人だなぁって思ってるけどさ。
「でも全然進展しないから、期待には応えられないかも。」
私がそう言うと、カノはちょっと考えてから、
「ちょっと思ってるんだけどさ、もう言ってもいい?」
と、今まで以上に意味深に言った。
「決めるのはさわちゃんだから、左右されないで欲しいんだけど、」
前置きをしてから、
「さわちゃんって、キーチを好きだよね?」
と言った。
「それはそーだね。」
私が言うと、
「違う違う。しんちゃんよりって事。」
と、カノは言った。…んん?
「それは、分かんないな。」
「まぁ、タイプが違い過ぎるからね。でも、この前からちょいちょい、そーゆー発言してるよ?」
「…え⁈」
「やっぱり、気付いて無いんだね。」