はつこい
スマホの普及で、恋愛が簡単に出来るようになった昨今。
今を遡る事、数十年前、昭和。
スマホも携帯も留守電もない、黒電話時代。
今ならもっと上手く恋を出来るかもしれない。
そんな「私」の、不器用ながらも楽しんでいた、恋のお話です。
これは、私がまだまだ幼かった頃のおはなし。
野に咲く花の、たくさん、たくさーんある花の中の一本の、恋のお話です。
A県にある自然豊かなとある町。そこが私の生まれた所。いわゆる田舎と呼ばれるところ(笑)
幼い頃から小さかった私だけど、元気で健康で運動はそこそこ、勉強は出来る方だったから、小学生の頃はリーダー的存在だった。
そんな私の恋のスタートは、小学2年。
学校の近くに、当時有名だった廃ビルがあった。そのビルにある、ガラスケースに入れられた日本人形。その子の髪が伸びるって言う、良くあるホラー話が話題になっていた。
ある日、そこへ行ってみよう!という話になって、私と、今でも仲良しの親友シイ、同級生の男子、緑川とテラの4人で行く事に。
廃ビルに行ってみると、窓ガラスはほとんど割れてるし、中は雑然と散らかっていた。棚の上には、あの有名な日本人形が割れたガラスケースの中に飾られていた。
当時は携帯やスマホなんて無いから写真を撮るなんて考えは無くて。ただただ、私達の記憶に頼るという感じだった。
だから、少しウロついて帰ろうってなった時、シイが、
「なんか、髪、右だけ伸びてる気しん?」
って言い出しても確認出来ないから、みんな怖くなってダッシュで逃げ出て来た。
去り際に、テラが石を投げて窓ガラスを割った。
「何やってんのー」
とか話しながら帰っていたら、急に土砂降りに見舞われた。
「オレがガラス割ったからかな…?」
「ビルの中入ったからとか…?」
もう、みんな怖くなって、とりあえず私の家で雨宿りしようって話になった。
私の家は、両親と兄、敷地内の別宅に祖父母と曾祖母が住んでいた。母は専業主婦だったので、だいたい家に居てくれていた。
だけど、この日は珍しく母が居なかった。
仕方がないので、タオルを持って来て濡れた体を拭き、おやつを探してみんなで食べた。
食べながら廃ビル探検の話とかいろいろ話をしていたら、急に緑川が、
「おまえら、好きな人とかいるの?」
って言い出した。
当時はまだ小学2年だったから、本当に好きかどうかはわからないけど、私は実はテラが良いと思っていて、シイは多分だけど緑川をいいと思っていたと思う。
そんな感じだったから、4人で廃ビル探検に行こうって話になったんだろう。
「えー、そっちは〜⁇」
なんて言う、よくある問答を繰り返して楽しんでいると、また緑川が、
「今からジャンケンして、負けた人同士がキスしよう!」
って言い出した。緑川は4人兄弟の末っ子で年の離れた兄がいたから、ませていたのかもしれない。
私達は、
「えー!」
とか、
「何言ってんの⁈」
とか言いながらも、キスという甘美な響きにドキドキしていた。私達は言葉とは裏腹に、好奇心に駆られていたのだ。
ジャンケンで、女子はシイ、男子はテラに決まった。私はテラの事を良いと思っていたけど、そこはやっぱりまだまだ幼い子供、シイとテラのキスに興味津々だった。
キスは、シイがソファに寝転んで、テラが横からキスをすると言う、プリンセスの話に出て来るスタイルに決まった。
だけど、やっぱりドキドキして恥ずかしくてなかなか出来なかったから、私と緑川は後ろを向いて見ないでいる事になった。私は初の生キスシーンを見れなくて、ちょっと残念に思っていた。
シイとテラのキスが終わって、ひとしきり盛り上がったら、緑川が、
「もう一回やろうぜ」
と言い出した。
私達はまた口では反対しながらも、緑川の提案を受け入れた。
次は女子が私で、男子はまたテラだった。私はちょっと嬉しかった。
スタイルはシイの時と同じで、シイと緑川は後ろを向いていて、私達はプリンセススタイルでキスをする事に決まった。
私はドキドキが止まらなかった。もうドキドキを超えてバクバクだった。目を閉じていると、テラが小声で、
「好きだよ。」
って言って、キスをした。
キスは今で言う、チュッってするバードキス。まぁ小学2年だからそんなもの。
うわぁ〜って興奮していると、
「もう終わった⁇」
と、緑川達が聞いてきた。私が「うん」って言おうとしたら、テラが、
「まだ!」
って言い出した。私が戸惑っていると、テラは小声で
「もう一回していい?」
と聞いて来た。私は良く分からないまま、いいよ。と言って目を閉じた。
テラはもう一度、私にチュッとキスをした。