7話:小さな目標 ~高橋悠太~
【4月7日】
真新しいブレザーに身を包んだ俺は、1年F組へと足を踏み入れた。
「(ここでこれから1年間過ごすのか……)」
在校生が掃除してくれたのであろう。清潔感と生活感の入り混じった教室で、何人かの新入生が緊張した面持ちで自席に着いていた。30分前に来たが少し早かった様だ。
いそいそと自席に向かい着席する。前から2列目だ。
知り合いがいるはずもないので、話す相手ももちろんいない。俺は生徒会長をやっていたが、元々内気な性格だ。初対面の人、特に女子と話すのは困難。中学のときは同じ小学校の友達がいたからなんとかなったが、このクラスに知り合いはいない。今日の目標は、誰かと一言でも会話することだ。
まぁ、どちらにしろ皆が来るまでは暇なので、机の上にあった『ライセンス』という水色の表紙の冊子を読んでみることにした。
◇
いつかの学校説明会で貰った冊子に酷似していた。内容は変わっているが、同じ雰囲気を感じる。外山の行事やクラブのこと、外山の特色、委員会、ルールについてなど、幅広い内容が盛り込まれていた。中には生徒アンケートや外山生度チェック、ら~めんまっぷなど、読んでいて楽しくなるようなコンテンツもあった。
やはり制作は執行委員会だった。これでますます執行委員になりたいという思いは強まった。
夢中になって読んでいると……
ツンツン
ビクッ
背中を誰かにつつかれた。思わず驚いてしまった。振り返ると、
「そんなに驚かないでよぉ」
「ご、ごめんなさい」
女子だ。やや茶色がかった髪を肩下まで下げている。
「なんで謝るのさ!」
「ご、ごめん」
おどおどしっぱなしで自分でも恥ずかしい。
「はぁ、まぁいいや」
そう言うと彼女は立ち上がり、まだ来ていない俺の右隣の椅子にちょこんと腰かけた。なにがしたいのかさっぱり分からないが、悪い人ではなさそうだ。
彼女は身を乗り出し、俺が机に置いたF組の名簿を指差して言った。
「私、橘立夏。これからよろしく!」
おおぉ!自己紹介されてしまった。これが高校のノリというものだろうか。それとも青春というやつだろうか。
どちらにしろ内気な俺には到底できない。さきの彼女の台詞に対しても、ようやく振り絞って出た返答が……
「俺は高橋悠太って言います」
どこの商社マンだよ!
せっかく話しかけてもらったが、おそらく今ので俺がコミュ障だと気付かれてしまっただろう。もう話しかけてはくれまい。
「んー堅いよ。同級生なんだからタメでね」
「あ、はい」
いきなり話しかけてきたからチャラいのかと思ったが、案外学級委員タイプなのかもしれない。
「これからよろしくね!……えっと、なんて呼ぼう」
「んー……高橋とか?」
まぁ無難に名字でいいだろう。
「オッケー、じゃあ私のことも橘って呼んで」
「うん、これからよろしく」
「こちらこそ!改めてよろしくね!」