5話:そして運命が転がり始める ~高橋悠太~
【11月20日】
例の説明会から2日経ったが、心の中はまだそのことでいっぱいだった。あの明るい雰囲気と自主性、そしていきいきとした生徒たち。あんな高校生活を送れたら、どんなに楽しいだろうか......
「…………橋……おい高橋って!!」
「あぁ!高橋って俺か、」
裕臣の言葉で我に返る。
「おいおい休み明けだからってぼぉっとすんなよ」
「いやお前いつも会長って呼ぶからさ、」
「あ、俺今高橋って呼んでたか」
物思いに耽っていた、なんて言ったら笑われそうだったから咄嗟に苦し紛れの言い訳をしたが、信じてくれたようだ。
「あ、そんなことはどうでもいいんだ。高橋、お前外山高校行ってきたか?」
「あー行ってきたよ」
あれだけTLM以外はどうでもいいと言ってしまった手前、迂闊にこの興奮を伝えなどすれば笑われてしまいそうだ。
「まあ、思ったよりはいいとこだったかな」
「……もっとなんかないのかよ」
「ないってば。この間も言ったろ、TLMにしか興味ないって」
これでもう後には引き返せなくなってしまった。
でもまあ、これで裕臣も諦めてくれるだろう。
「そうかあ……じゃあ資料とか持ってないか?」
意外な言葉に驚く。
「資料?なんでそんなもの……」
「いやぁ、小学生のとき、俺も外山の説明会行ってさ。そのときもらった冊子が凄い面白かったから、今年のも見てみたいなと思って。……もしかして、持ってないのか?」
「持ってるよ」
俺は渋々説明会で貰った冊子を取り出した。
……書き込みを熱心にしていたのがばれたら厄介だから見せたくなかったのだが。
「おぉ、凄いな。クラブとか委員会とかのことについて詳しく書いてあるし、なんかポップで読みやすいな。生徒アンケートのネタセンスもあって面白いな……」
裕臣がいちいち声に出して感想を言うお陰で、机の周りにはいつの間にか人だかりができていた。
皆口々に感想を言い合っている。まったく、静かに読んでほしいものだ。
「本当に凄いね。こういうの作ってる先生って、やっぱり高校のことなんでも知ってる様な先生なのかな」
「それは違う!」
一瞬で教室中が静まりかえる。
「この冊子は全部外山高校の生徒だけで作り上げられているんだ!それも、執行委員会がね。この生徒アンケートやクラブ紹介、印刷や製本に到るまで、全部執行委員の手で行われているんだ!」
「え?この冊子全部!?」
「そうだ。しかもそれだけじゃない。学校説明会てやった映画やクイズ、校舎案内にパワーポイントでの説明、その会議、台本、撮影、部屋取り、パソコン打ちも、1から、いや、ゼロから作り上げているんだ!」
……しまった。
教室は静まり返ったままだった。この空間の中で俺だけが浮いている。
俺は軽く赤面しながら席に着いた。
「高橋、お前やっぱりTLM以外も気になってたんだな」
そう言って裕臣が笑いを堪えている。
もうこうなっては本音を出すしかない。またしらばっくれてもからかわれて終わりだろう。
「はぁ、そうだよ、俺はあの説明会にいって感動した。自分がやってきたような生徒会なんて足下にも及ばないような外山高校の執行委員会に入ってみたい。そして、自分の手であの学校説明会を作り上げてみたいんだ」
何を熱弁しているのだと、またからかわれるかと思ったが、案外違う言葉が返ってきた。
「行って良かっただろ?学校説明会」
行って良かった。その言葉をぎゅっと噛み締める。
「あぁ。ありがとな」
裕臣の協力もあり、無事、本気で入りたい高校を見つけることができた。俺はきっと外山高校に入ってみせる!
「……ん?まさか裕臣お前、最初からこうなると分かってて!」
「んな訳あるかい」