2話:歓談ときっかけ ~橘立夏~
【11月17日】
私の名前は橘立夏。中学3年生。絶賛青春満喫中!家から徒歩10分の、練麻区立桜川西中学校に通ってる。最近は部活も引退し、受験勉強頑張ってます!
今は数学の授業中。この間のテストが続々と返されている。
「次、橘立夏さ~ん」
「はーい」
川島先生に呼ばれる。
普段は明るい私だが、今は受験前、しかも得意な数学ということもあってそれなりに緊張している。小走りでいそいそと教卓へ向かう。
ペラッ
「よく頑張りましたね。他の教科もこの調子で頑張って」
「はい!」
良かったぁぁ。ほっと胸を撫で下ろすとともに笑みが込み上げてくるが、外見では至って平常心だ。
ゆっくりとした足取りで自席へと戻る。
「すごーい立夏!また数学1位!?」
「いいなぁ~私なんかとは大違い」
「そんなことないって~」
彼女達は私の友達で、稲葉かなめと西宮碧だ。3年生になってからクラス替えで同じクラスになり、部活動や委員会での接点はないけれどよく一緒にいる、所謂イツメンだ。
勉強の方はこんな調子で、全教科の合計点は学年 top5 を一年生の頃からキープし続けている。今回もまぁ大丈夫だろう。残り3ヶ月、高校受験に向けて順調そのもの!
…の、はずなんだけど……
「そういえば立夏、高校どこにしたの?」
「え!......ま、まぁ、それなりのところかな」
もう一人のイツメン、親友で幼馴染みの田中明日香だ。彼女とは小学一年生の頃からずっと同じクラスで、家が近いこともあり、よく私の世話を焼いてくれる。
「えぇー勿体ぶらずに教えてよー」
かなめが横から口を挟んでくる。
「まぁ、立夏はどんな高校でも行けるもんねぇ」
「だからそんなことないって!」
3人とも笑っている。良かった、なんとか誤魔化せたようだ。
別に、私だって教えたくない訳ではない。みんなみたいに、志望校を共有し合い、励まし合いながら受験勉強したい。......ただ、無いものはどうしようもなくて……
そう、私はまだ志望校が決まっていないのです!!
◇
【その日の放課後】
「それでさぁ、私、丼草高校目指してるんだけど、もう英語がヤバくってさぁ、」
先程のメンバーで集まって話している。最近は、塾の時間までこうして4人で談笑するのが日課となっている。
「あ、五時だ、私そろそろ帰るね」
「あ、私も帰らないと」
碧が切り出すと、それに合わせてかなめもそう告げた。2人は同じ塾に通っているのだ。
「うん、じゃあね~」
「バイバーイ」
「また明日ね~」
「碧!明日は休みだよ!」
「あぁそっか。じゃあまた月曜日に!」
「うん、バイバーイ」
明日香と二人きりになったが、会話は続く。
◇
最終下校時刻も近づいてきたので、そろそろ帰ろうかというときだった。
「そういえばさ立夏」
「ん?」
「明日って、空いてる?」
「え、空いてるけど、、なんで??」
どこかへ遊びに行こうとしてるのだろうか。……でも、夏休みが明けた頃に、『受験が終わるまでは遊びに行かない』と、明日香の方から約束したはずだ。その約束を明日香が自分で破るとは考えにくい……
などと立夏は思い倦ねるが、その答えは明日香によってすぐに出された。
「明日さぁ、外山高校の学校説明会があるんだけど、ちょうど塾のテストと被っちゃってさぁ、それで立夏に代わりに行って、説明とか聞いてきてもらえないかなぁって......どう?」
そうだ、明日香は外山高校目指してるんだっけ。いつもお世話になってるんだし、たまには明日香に恩返ししないとね。
「うん、いいよ!」
「ほんと!立夏ありがと~」
「任しといて!ばっちり聞いてくるから!!」
という訳で明日は、自分の志望校もまだ決まってないんだけど、外山高校の学校説明会に行くことになりました!この出来事が、自分の人生を変えることになるとは知らずに……