8話:大きな決意 ~橘立夏~
【4月7日】
「じゃあ立夏、またあとでね」
「うん、またね」
別クラスにになった明日香に別れを告げ、自分のクラスに向かう。
お母さんに買ってもらった紺色の制服は少し大きかった。座席表を確認し私の在籍する1年F組の教室へと足を踏み入れた。
「えーっと……あ、あそこか」
集合時間10分前。教室の机は既に3分の1近くが埋まっていた。自席に座り、辺りを見回す。
席を立って別の生徒と話している人もいるが、ほとんどの人は座っておとなしくしていた。
今日の私の目標は1つ、自分から誰かに話しかけることだ。
思えば小学校の時から、私は明日香にくっついてばかりだった。明日香の友達が自然に、私の友達になっていった。
今日から明日香は別クラスだ。初めてのことで不安も多いが、良い転機になるだろう。
とりあえず近くの人に話しかけたいんだけど…………よし。
ツンツン
ビクッ
「そんなに驚かないでよぉ」
「ご、ごめんなさい」
肩を叩くつもりだったのに身長が足りず背中になってしまった。
「なんで謝るのさ!」
「ご、ごめん」
大きな背中に似合わないおどおどした態度だった。
「はぁ、まぁいいや」
とりあえず仲良くなりたい。ガツガツ来るタイプではなさそうなので、こちらから攻めてみることにした。私は立ち上がり、まだ来ていない彼の右隣の椅子に腰かけた。
F組の名簿を指差して、
「私、橘立夏。これからよろしく!」
彼は驚き、困惑した表情を浮かべている。自分の感情がすぐに面に出てしまう、正直なタイプだと悟った。
「俺は高橋悠太って言います」
どこの商社マンだよ!
初対面だとひどく緊張してしまうのだろう。
「んー堅いよ。同級生なんだからタメでね」
「あ、はい」
「これからよろしくね!……えっと、なんて呼ぼう」
「んー……高橋とか?」
無難だ。
「オッケー、じゃあ私のことも橘って呼んで」
「うん、これからよろしく」
「こちらこそ!改めてよろしくね!」