光の騎士と闇の王 ボルギル end 不思議な恋人
敵国に来たからには、冷遇されるものだと覚悟をしていたが……。
城内での扱いは非常に良く、特に不自由はなかった。
食事も美味しいし、部屋は広くて清潔、メイドたちもしっかり世話をしてくれる。
この国の王は悪い人ではないらしい。私はまだ夢でも見ているのかしら。
「王女エリクシア、こうしてまともに顔を合わせるのは今日が初めてだな」
おとなしく捕虜の哀れな姿を装っておいたほうがいい。
そう思ったのだが、意外にも彼は優しかった。
食事の時間は必ず一緒にとり、私の話を楽しげに聞いてくれる。
私が欲しいと言ったものは、何でも用意してくれた。
まるで敗戦国の王女というより、正当な政略結婚、いいえそれ以上の待遇だ。
私はいつしか彼に心を許し、彼の優しさに触れていった
それは祖国への裏切りではないか……。
「余はただ暴れたいわけでも、国を滅ぼしたいわけでもない。兵力をつけてこの国を永劫のものにする」
それはつまり、このままずっと、自国を私だけ真綿で首を絞めるような平和が続くということだろうか。
「そのためにそなたの国を奪った。あの国が反映すれば我が国が潰える運命。それ故にそなたの血を継ぐものは1人とて残せぬようにした」
だから償いなのだと、かれがガラガラと使用人らにたくさんのものを運ばせた。
きれいな花や装飾がかわいらしい魔女見習いに向けたと思われる子供だましのジョークの魔術本、宝石、豪奢で華美すぎるほどの刺繍のついたドレスを捧げられる。
「……どうして、あなたがそんなに悲しまれているのですか? 私は悲しみにさいなまれてもいなければ、怒りに震えてなどすらいません」
不思議なのだ。どうしてかわからないけど、救われているのを感じる。
自国にいたときより、安心している。なにに?
「わからないのですが……敵国のはずのここを居心地が良いと思ってしまいます」
「それが王女は嫌なのか?」
「いいえ」
あれから私たちは、ビジネスなのか、それ以上に好意があるのかわからないままだったけれど、敵国では想像していなかったことを経験した。
楽しく城の堀で魚を釣って、それを焼いたり、初めてのハンティングで私は獅子を狩れた。
◆◆
城の自室で日記を書いている時だ。
突然扉が開かれ、屈強そうな男が三人入ってきた。
男たちは私を取り囲むようにして立ちふさがる。
そして言った。
「敵国へスパイに行かれたと、信じていましたが、あなたはもう用済みです」
彼らは自国の兵士、そしてさらに私にこういうのだ。
「死んでください女王様」
「いいえ、お断りよ。そんなことをすれば国が完全に滅びます」
私の血が入ったアンプルを男に渡す。
「いつか、必要になったらそれで私のクローンを作りなさい。あの国の遺伝子技術なら、もうそれで生成が可能なはずよ」
私にはもうあの国の王女になるつもりはない。
「本当に祖国を捨てられるのですね」
「ここをカオスマインの王妃と知っての狼藉か!」
「ルクスダリス女王……なぜ……」
「今すぐに出ていきなさい。さもなくば、あなた方の首だけ送り返すことになるぞ」
◆◆
「クローンとは……我が妃は抜け目ないな……だが、いいのだ」
『父上! あのエリクシア王女様が一番かわいい!』
『父も昔、あの国の王女……いまでは他国の王妃だが、美しい白い姫君に焦がれたものだ』
『父上は王様なのにほしいものが手に入らなかったのですか?』
『いいかボルギルよ。王女はものではない。物のように買えるものではないのだ。それがわからないうちに手に入れようとするのはいけない』
『……?』
『ボルギル、その意味がわかるようになって、どうしても彼女を好きだというのなら覚悟を持って国を落とせ』
『はい!』
国が反映しなくなるように、などというのは言い訳だった。
いずれほかの男を王配にするのを指をくわえて待つより、国を奪ってでも彼女を独占したかったのだ。