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明闇(めいあん)の黒と白の命運

――――それはいつかもわからぬ刻。


白の国・ワイトは、黒の国・ラッグと争っていた。


王女のいないその国では、隣国から援軍をえるべく、大貴族の令嬢を政略結婚させようと話が進んだ。



時を同じくして、ラッグの城前に、豪華に飾られた白のドレスの少女がいた。


ワイト国の大貴族の令嬢その人であった。


(隣国の王子は豚のようなハーレム男だと聞く。

そんな男と結婚するくらいなら敵に殺されたほうがマシだわ)

彼女は政略結婚が嫌で、単身敵地に乗り込んだのであった。


「黒騎士様!私を捕虜にして!」

黒の鎧の男を見るやいなや、手を取り、泣きすがった。


(ワイト国の身なりのいい少女がなぜラッグ国騎士の俺にそんなことを言うのだろうか)

男は敵方の人間が、侵略もしていない時だというのに、何故降伏の真似事をしているのか、そう不信感を抱く。


「お嬢さん。ここは城内、戦場ではない。

女性に剣を向けるのは騎士道に反する」


「ならば私は、自力で死にます!なにか鋭利な刃物を!」

「なぜ、君は死に急ぐ」


「ワイト国はラッグ国に対抗するため、ラピュア・フランラの姫である私を隣国グレーの王子に嫁がせるつもりなのです」

「成程…それは困った話だ」


「いくら強い武力を持つラッグ国であっても負ける可能性が増えるのでは、私の要求を飲まないわけにはいかないはずでしょう?」


少し考えた末に黒騎士は王に訳を説明し、殺さない代わりに、城に置くことに決めた。



――私がいる場所は黒を基調とした普通の部屋である。

ただ施錠部分は銀色でわかりやすい。

寝台に座っておとなしくしていると、扉を叩く音がして、声で黒騎士がやってきたのだとわかる。


「そろそろ帰りたくなったか?」

「いいえ……とんでもございませんわ」


もう死んでもいいくらいだったのだから。よくて地下監獄も覚悟していた。


「そういえば、まだ名を聞いていなかったな」

「プロミネンシアです」


迷うことなく名を告げる。


「それはプロミネンスから由来しているのか?」

「おそらく、両親に聞いてみないことにはわかりかねますが」


そもそもプロミネンスの意味がわからないので断言はできない。


「お前に似合った美しい名だな……」

「まあ。黒騎士様、よろしければ貴方のお名前をお聞きしても……?」

「ああ、俺の名はマグダリオンだ。好きに呼ぶといい」

―――――


『―――あの娘は敵国の公爵家の娘だそうで、何やら国を離反するそうです皇帝陛下』

『ふむ……あの娘、利用できるやもしれぬ。あやつらは公爵の娘の行方知れずにより、さぞ混乱しているだろう。今の内に戦をしかけるか、はたまた先に小国を我が国の補給場とするか』

『……』


『だがあの娘が密偵とも限らぬ。まずは離反した真偽を調べるが先だ。真であれば向こうとの戦の捕虜に使う。自決せぬように監視するのだ』

『は―――!』



「わかりやすい用に結論から話すが、皇帝はお前がワイトを裏切ったことについて半信半疑だ」


マグダリオンに告げられた言葉に仕方がないと不安になる。


「私は真実を話しました。グレー国のほうに確認をなさっていただいても構いません」


プロミネンシアは嘘をついてはいない。だからこそ裏を取られても動じずにいる。


「今は兵士に調べさせているが、しばらくかかるだろう」

「そうですか……」



「偽りのないことが確認された。皇帝はお前の言葉を信じるそうだ」


ようやくグレー国への確認がとれたようだ。


「グレー国だけでなくワイト国でも公爵令嬢が失踪したと騒動になっていてな」

「……」


それは予想するまでもなく当然のことだ。それにたいして驚きはない。


「だが奴等は失踪先までは知らぬようで、方々を探し回っているようだ。いくら公爵家とはいえ令嬢は他にもいるだろうにそこまで執着するのは珍しい」


たしかに貴族の令嬢など男児より要らないとされる政略の道具扱いだ。

いくら王子が相手とはいえいない場合、普通なら代わりに別の令嬢を公爵家の娘として偽ることも考えられる。

結局は家の為になるか、ならないかである。

服を取り換えれば平民も貴族に見えるし血筋など肉眼でわかるわけがない。


――私つまらない世界に生まれたものだわ。


■■


「城内であれば歩いていいそうだ」

「そんな気を使われなくても、私は捕虜なのに……」


マグダリオンが側についていれば部屋の外へ行けるらしい。


「ラッグは他国から野蛮と忌まれる。その悪名を払拭する為にもな」

「なるほど……」


たしかに乱暴で戦しか能がない印象ではある。


「プロミネンシア、王から片手、利き手側に枷をつけろと支持があったが歩きにくい為、左手に着けることにする」

「右手がふさがるのでは?」


「生憎、俺は左利きだからな」

「まあ珍しいのね」

「いや、ラッグでは多い」


ワイトでは左利きは悪魔の手先として皆殺しだ。



「ワイトでは左利きは処刑されしまうから、初めてみたわ」

「……こう言ってはなんだが使う手が違うくらいで殺すほうが野蛮な国だと思った」


国が違えばという事でカルチャーショックを受ける。


「たしかに反論できないわ」


ワイトでは赤ん坊の時点で利き手を調べて右でなければ殺すという過激なことをしている。


「国同士で争いが終わらない理由を垣間見たな」

「変なことをいってごめんなさい」


さっきの発言は軽率で、マグダリオンやこの国の民を間接的に死罪になると言ったのと同義だった。


「……プロミネンシア、俺は悪魔か?」

「いいえ、そんなことは」


彼が悪魔の手先なら私はとっくに死んでいる。

ワイト国の方針がおかしいだけだ。


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