毒婦と王子と従者 ⑥
しぶしぶ同意して、さっさと彼を部屋から出す。
すると、通りがかりの護衛2名を連れたイルテが廊下を通るのがノインが退室する際に開くドアの隙間から見えた。
「あ……」
ズヴィは声を出しそうになったが、慌てて口を押える。
護衛に何か指示を出すと、イルテはこちらへ歩み寄ってくるではないか。
「どうしてノインが君の部屋に、扉も閉めて……」
「部屋に入ったらアイツいたのよ。王子の悪口は言ってないからね、魔族が妹と話すなって釘を刺されてただけ」
イルテはものすごく動揺しているけど、扉が閉まってると何か都合でも悪いの?
「いや……そんな心配はしてないよ」
苦笑いを浮かべて、彼らは去っていく。用件はそれだけだったらしい。
私はイルテの姿が見えなくなるまで見送っていたのだが、こちらを見て驚くメイドがいる。
突然彼女は背後の男に背中をドンと叩かれた。
「いった!」「何ボーっと突っ立ってるんだ! 早く下働きの仕事しろ!」
偉そうなデブ男が、酒を片手にメイドに指をさしている。
「あんた! 女の子になんてことすんのよ!」
「なんだ小娘、このワシに意見するか!」
そう怒鳴りつけると男は持っていたグラスを床に投げ捨て、踏み潰した。
酒臭い息を吐きながら、ズヴィに近づいてくる。
ズヴィはその男に見覚えがあった。村人によって廃村の城に捕らわれる前に、村へ旅の途中に訪れていた。
確かこの城の大臣の一人で以前、奴隷商としての姿を見たことがある。
人間と蚕のキメラかつ品種改良されたイコ族βを買い付けようとしていた噂がある。
「これはこれは奴隷商さん、大臣だったの? それとも転職?」
嫌味たっぷりに言ってやる。すると、彼は怒りの形相でこちらを睨みつけた。
そして拳を振り上げて殴ろうとしてくるので、咄嵯に避ける。
だが、避けたところにまた別の男がやってきて、ズヴィを背にかばうと男の前に立ちはだかる。
「なにしてはるん?」
「あ……なたは……」
「仕事サボらんではよう働いてもろてええか?」
その人物はズヴィより年上の男性だった。
けれど、この城の使用人ではないはず。なぜなら彼の服装は商人風の衣服なのだから。
彼はデブの襟首を引いて、その場を離れるように促す。
「ごめんなぁ……このデブよういっとくわ」と去り際に振り返って言った。
「かっこいい……」