毒婦と王子と従者 ④
隣国との交易会議などが控えている等の事情から王との面会は先送りされることになった。
会うだけならそんなに日を跨ぐこともないのではと、イルテは疑念を抱くものの、王に一介の小娘が会えるようなもんじゃない。
とぼとぼうろついていると、見覚えのあるドレス姿の女がいた。
「ええと、ドレスだからイエラね?」
魔族はほとんどの人間が同じように見える。けれど、彼らは顔が整っているので判別しやすい。
「ズヴィ、こんなところに一人でいていいの? 見つかったらしかられるわ」
魔族だから王子かノインがいなければ城の人間に余計畏怖される。彼女はそのことを危惧して心配しているのだろう。
「腕輪で力を制限されているから、魔法で暴走はしないわ」
「なるほど……その大きい石のペンダントは? 昨日はしていなかったと思うのだけれど」
「よく知らないけど、王子は赤がいいとか言ってたのにノインが緑のほうって、魔力封じのために寄越したようなものじゃない?」
「ノイン兄様の緑色の目にちなんでいるのはわかるけれど、イルテはどうして赤なんて……彼の髪のピンクや目の青ならともかく」
そんなの恋人にでも送ればいいものなんだから、赤でも間違いではないのでは?
勘違いさせるようなことを軽々しくしないでもらいたいもの。
「でもノインが緑を渡してきたのは頭おかしいと思うの。絶対ケンカ売られたんだわ」
「ケンカ……?」
彼女は小首を傾げて不思議そうな顔をする。普通なら独占欲だと思うところではないか?
「監視されてる!」
「もしかしたらノイン兄様は貴女に気があるのかもしれないでしょう」
「まあ……そういう色のチョイスは恋人がするものだけど、つい最近知りあったばかりで警戒されているし、そういうのこの段階じゃおかしいわ」
「ズヴィ……貴女はイルテのことどう思うの?」
「恩人だけど、恋と混同したくないわ」
イルテのことは恋愛感情というよりも、恩義なのである。
助けてくれたことには感謝しているが、それが恋心へと変わることはないだろう。
そしてそれは向こうも同じように助けた側なだけのはずだ。
そうでなければ、イルテが赤の石の色を選ぶわけがない。
そしてあれはただ単に異種族の危険を考慮してお守りとして渡されたものだ。
「イエラはイルテが好きなの?」
少し気になって訊ねると、イエラの顔が真っ赤に染まった。
あらかわいい、恋する乙女ね。それを見てズヴィは微笑ましく思った。