毒婦と王子と従者 ③
中途半端に彼女を助けておきながら、人の意に反すれば殺す。
理不尽に尊厳を奪われた者に、理不尽を上乗せしていくなど、我ながら最低な決断だった。
復讐できるなら、誰しもしたいと思うだろう。それができなかったのは、彼女の心根が優しいからだ。
けれどそうすると、魔族の悪名がひどくなる。
彼女はきっとそんな信念で我慢した。
しかし、そんな彼女だからこそ、人間に殺されてしまうのではないかと不安になる。
彼女は強い心をもっている。それでも、人に捕まるくらい闘争心がない。
◆◆
あの王子は人間だ。
いくら優しい心があれど、魔族の気持ちなど寄り添えないだろう。
だから耐えなければ、そうしないとあの王子は人間だから、私を保護したことで周りに叱責されこまることになる。
私はたとえあの王子が味方になると言っても、絶対に心から信頼することはできないのだ。
「……」
私がこの国にいる限り安全じゃない。
いや、そもそもこの国のどこにいても、魔族として迫害される可能性はあるんだ。
私は安全な場所などどこにもないと知っている。
その気になればいつでも逃げ出せるように、飛ぶ準備をしたほうがいい。
◆◆
「王子イルテだな! その命、いただく!」
王子の部屋の前には、武装した敵国のブロンズメイル騎士たちが待ち構えていた。
彼らは剣を構えている。
その切っ先を向けられた王子の顔色は青ざめた。
ノインがすかさず魔法を詠唱、しかし間に合いそうもない。
「私の居候先で暴れないで」
騎士だろうが人間は魔族より脆い。これくらいなら許されるわよね。
誰に許可をとればいいか、なんて考えている場合じゃない。
そのまま鎧ごと腕を捻りつぶして地面に投げ捨てる。
「殺される覚悟もないのに城に来るんじゃないわ」
◆◆
あれから王子達に感謝され、王が直々にお目通りだかなんだか……とりあえず話をしたいらしい。
「人間の国にいる間はこれを」
謁見前に王の安全をと魔力を制限する腕輪を渡される。強制着用でなく、自分ではめさせるあたり、自己責任といっているようで性格が悪い。
「そしてこれはあなたの身を守るお守りです。持っていてください」
「宝石?」
「身に着けていれば、ある程度の身分と安全が保障される。王子に保護された身に余る十分な待遇でしょう?」
そして彼は首飾りを渡してくる。そこには彼の目と同じ緑色の大きな宝石がついていた。
「ええ、光栄よ!」
言葉の端に隠し切れない嫌悪がみてとれ、実に嫌味な男である。
「王子は赤がいいと言っていましたが、あなたにはそれをあげます。これを身につけていなさい」
それはまるで自分の監視対象だと言わんばかりの言い方だった。
腹が立ったけれど、一応は王子の意向でくれたものだから、大切にしようと思った。