毒婦と王子と従者 ➁
1日後、三名はラブラクア王都にたどり着いた。
本来なら徒歩で宿での休息も含め10日、馬車では7日ほどかかる。
魔法の使えるノインが転送魔法で早く到着させてくれたのだ。
イルテは王と謁見するために王宮に向かう。
その間、ズヴィは城内にある浴場にいた。
黒髪がちらりと、ノインではないか?
王子に近づく邪魔な女だとズヴィをにらんでいたことから、暗殺にきたのか!
「ちょっとノイン! 暗殺はせめてレディが入浴を済ませてからにしなさいよ!」
「あの……私はイエラよ」
よく似ていて、人違いをしてしまったらしい。
「え、それは申し訳ないことをしてしまって……」
入浴を済ませて改めて謝る。
「初対面だとよく性別転換魔法でもしたかと間違えられるの。きにしないで」
イエラと名乗る女性はとても美しい顔立ちをしていた。
あの男も、タイプではないが美形ではあるから当たり前なのだが、認めるのが悔しい。
◆◆
「ズヴィ様、どうぞこちらへ」
「し、失礼しまーっす……」
ズヴィは恐縮しながら入る。異性はおろか、人間の豪華な部屋など初めてだった。
「突然呼び出したりしてすまなかったね。明日話があるんだ。だから今日はゆっくり休んでくれ」
ズヴィが目で訴える。彼にお礼を言いたいが、言葉が出ないのである。
「なんだい?」
「ありがと! それだけ! オヤスミ!」
「えっ……あ、うん。 おやすみ」
◆◆
――翌朝、朝食を食べ終えたズヴィがノインに尋ねる。
「彼、人望に厚そうな人」
「ああ、この国は愛の国だからそうでなくては困る」
だが、昨晩から、イルテの様子がおかしいという。
そして、これから国で重要な会議が行われるので、しばらく席を外すと。
ズヴィは少し心配になった。
イルテが戻ってくるまで待つと、ようやく戻ってきた。
彼女に先日の件を話し始めた。
――10年前、マイクが魔族の少女を犯人にしたてあげ、村人がそれを信じて閉じ込めたことを。
「そのことはもういいわ、報復なんてしたら寝た子を起こすようなことよ」
「君はなんて慈悲深いんだ……」
イルテが感極まった様子でズヴィの手を取ろうと歩み寄る。
ズヴィは顔を赤らめながらも、手をとられた。
◆◆
「ノイン」
「はい」
「彼女が復讐しようとしていなくてよかったよ」
彼女がもしも復讐を考えているなら、王子として人族の安全のために処分しなければならなかった。