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二十二歳の勇者と天然女神達の異世界創造譚  作者: そらまちたかし
第一章:フリーターと痴女女神
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夢か現実か

 

 

「――てください!――起きてください!」


 誰かが呼ぶ声が聞こえる――。


 ……俺か?


 俺を呼ぶのはバイト先の店長である小森さんぐらいだ。

いつも人を呼びつけてはこき使う。


 ただ、彼女は「ください」なんて言わない。

もう少しワイルドに呼ぶだろう。


 じゃあ誰だ。

身近にいる人物でもう一人いると言えば……。


「……もう、朝か――」


 いつも設定しているタイマーの音がしなかった。

あの朝の心地いい眠りを妨げる厄介な音だ。


 まぁ、その音のお陰で起きれるのだが……。


 その音が鳴らなかったのだ。

別に今日は夜勤だから朝寝坊してもそこまで問題はない。


 俺はいつもの様に、体を上へと伸ばす。


 天から差す日の光。

 心地いいぐらいに吹く春風。

 漂う草花の香り……。

 焦る顔を浮かべる一人の少女――。


「あ――」


 俺が周囲の異変に気付いたのは数秒後。

素肌にチクリと刺さる雑草で眠気が覚めた。


「ど、どうしましょう!わ、私でもわけのわからない事になってるんです!」


 慌てふためく少女と俺がいるこの場所は、だだっ広い草原だ。


 何にもない――。

というと誤解を招くが、自然という自然で満ち溢れ、遠くには標高の高い雪を被った山しか見えない。


「……夢か?」

「起きてください!これは現実ですよ!」


「いや――これを現実と受け取る方がおかしいだろ?」


 そうだ。

これは俺が生み出した理想の世界ゆめだ。

RPGの始まりにも似た、何もないだだっ広い草原。


 そろそろスライム状の魔物が出てくるのでは――。

そう思わせるほど幻想的な風景。


 これは、あれだけ幼い頃に願っていた世界だ。

夢に出てきてもおかしくはない。


 それに俺は裸だ。

ついでに少女もだ。


 こんな草原に裸で来る奴が何処にいる。

虫に噛まれたり草木に被れ放題じゃないか。


 この夢の正体を推理すればきっとこうだ。


 裸=開放されたい。

 草原=癒されたい。


 ストレス社会に負けて現実逃避が深刻化すると、こういうリアルな夢を見るのだろうか。


 それとも、昨晩の少女との快楽が生み出した比喩的な世界ゆめなのだろうか。


 確かに、あの時はこれぐらい心地良くて――。


「……こんなに気持ちが良いんだ。お前も折角だから寝とけよ」


 この心地良い夢を堪能したい。

身をさらけ出して寝転び、俺は青い空を仰いだ。


 草木の香りが実に落ち着く――。

こういうのは好きだ。


 汚れの無い、純粋で穏やかな香り……。


「そんなのんびりしている場合じゃないんですよ!現実を受け止めてください!」


 寝そべる俺を少女は精一杯揺さぶり、終いには俺のそこそこ割れてる腹筋を手の平で叩き出す。


 ――なんか痛い。

いや、これは夢だろ?


 きっと痛みを感じる夢なのだ。

……いや、そんなのあり得るか?


 それにしても、背中に刺さる草花の感触といい、風の当たる感じといい、妙にリアル……。


「……これ、現実マジ?」

「マジですよ!エスティリアでも貴方の世界でもない別の世界に来ちゃったんですよ!」


 ――エスティリアでも俺の世界でもない――


 異世界に来た。

それは間違いないとして、エスティリアでもないという。


「――はぁあ!?……てか、なんでいつの間に異世界転移してるんだよ……!」


 俺は叫ぶと同時にまず、冷静に自分の体を確かめる。


 特に変わった所はない。


 転移したら別人や女の子になってました――。

そんな事にはなりたくはない。


 次に、アイテムウィンドか何かが開けないかを確かめるため、宙へひたすら指をスワイプしたりしてみる。


 ――特に反応はない。

寝ている間に、俺のやっているMMOの世界に入ってしまったということではないようだ。


 後、魔法か何かが唱えられないだろうか。

世界ゲームによっては呪文式や杖式、契約式など様々だ。


 それを模索するには道具や知識が必要となってくる。


 いや――魔法とは限らない。

錬金術や特殊なデバイス、はたまた兵器に乗るような世界かもしれない……。


 もしかすると金髪の戦闘民族達が宇宙を股にかけて争っている世界や、恐ろしい果実を食べた猛者達が1つの財宝を取り合う世界か――。


「……なにをしているんですか?」


 そんな俺を不思議そうに見つめる少女。


 無理もない――。

全裸で色んなポーズをしまくった挙句、急に冷静に考え事を始めたのだ。


「――あ、いや、なんでもない……」


 我に返った頃には少し恥ずかしかった。

そんな俺を少女はクスクスと笑う。


 まぁ、ここは異世界で今は俺と少女しかいない。


 互いが裸でいても、そこまで苦痛ではなかった。

もう、見るものは全部見たし……。


「――てか、なんで転移したんだ?」


 現状確認も済み、早速本題を切り出す。

これがまず分からなくては先が進まない。


 転移の方法――。

少女が唯一俺に教えてくれたのは、キスをする事で転移できるということだ。


 少女と昨日ファミレスでキスしたのが今頃発動でもしたというのだろうか。


 それもエスティリアとは別の世界に飛んだというバグ付きだ。


「……これは推測ですが、昨晩貴方に色々して頂いた時に興奮し過ぎて――精神制御が乱れたせいでリミッターが外れて、今に至るというのが妥当かと……」


 この少女とやればランダムで異世界に飛ばされるというのだろうか。


 何とも理不尽な痴女だ。

今まで何回、罪の無い男を異世界に飛ばして来たというのだ。


 しかし、そうとなれば――。


「――転移できたってことは、時空の神々とやらとの交信ができたってことか?それなら今すぐ――」


 そんな俺の前に待っていたのは少女の浮かない顔だった。


「……時空の神々とは連絡が未だにつかないんです……」


「じゃ、じゃあもう一度俺と――!」


 その言葉は少女の首一振りで呆気なく沈んだ。


「……一応私は――その……女の子ですから……。場所とムードは……」

「そ、そうだよな……すまん……」


 俺としたことがつい、帰れない不安に焦っていた。

というか、場所とムードさえ確保すればオッケーなのがこの少女の恐ろしい所だ。


 ――それはともかく。


 もう、少女をエスティリアに戻すとかそんなレベルじゃなくなってきた。

俺もピンチなのだ。


 この緑豊かな世界は二人とも知らない世界。

俺の住み慣れた世界であれば少女をサポートできる保証があったが、この世界に関しては二人とも無知。


 さらに、ここにいるのはニート同類の引き篭もりと天然痴女だけ。

サバイバルが要求されるかも分からないこの世界に、使えない二人がどう生きてゆくというのだ。


「……マジかよ」

「マジですよ……」


 そんな事を言いながら、晴れ渡る空を見上げるしかなかった。

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