女神フレイヤ ― 2
「――だ、大丈夫か?」
「……はい。――少し痛かったですけど、大丈夫です……」
静まり返ったアパートの一室。
いや――少し前までは静かだったのだが、その静寂は一組の男女によって破られていたのだ。
今でも体が火照り、その素肌を肌寒い夜の空気が撫でる。
それが妙に心地よく――さっきとは別の快楽を感じさせてくれる。
それは落ち着きを取り戻している少女もきっと感じているだろう。
今の現状はいわゆるあれだ。
一組の男女がベットの中で事を終えて添い寝している――。
これが噂に聞く事後というネットスラングなのだろうか。
そうであれば、22歳まで童貞だった俺は脱童貞。
別にその忌まわしい称号が外れたからと言って、何か俺の世界が変わるわけでもないのだ。
まぁ――、それなりの体験をしたという意味では勝ち組なのかもしれない。
それだけ、俺の体も少女の体に歓喜を上げていたのだ。
本能というのは実に困ったやつだ。
「……そうか、あまりにも叫ぶから心配してたんだ……」
「す、すみません。――そ、想像より大きかったので……」
「……恥ずかしいから、あまりそういうことは言わないでほしい……」
「あ、すみません。……でも、気持ち良かったですよ」
腕の中でまどろむ少女は悪戯に微笑む。
なんとも余裕な笑みだ。
初めての体験が多すぎて、戸惑いだらけだった俺と大違い。
少女はなにも躊躇うことなく俺にその身を捧げていたのだ。
――既に、膜も何者かが突破済みだった。
痴女だけにそれなりにやっているのだろうか。
その割にはあまり慣れてない感じがした。
俺の体を舐め回した時も、初めて見るかのような仕草をしていた。
気になるからといって、間違っても「経験はあるのか?」なんて聞けたものではない。
痴女と言っても年頃の少女なのだ。
そんな言葉を言わせるほど、俺は鬼畜じゃない。
「――ところで、なにか思い出せたか?」
あまりの快楽に忘れかけていたこと。
俺たちは互いの欲求を満たす目的でやったのではない。
「……そう、ですね。……貴方に指を入れられ始めた時に――」
「――そこは思い出さなくて良い」
「あ、はい――」
俺の素早い突っ込みに口を閉じる少女。
俺は言葉を切った少女に安堵する。
そんな恥ずかしい詳細を女子の口からは聞きたくはないのだ。
「……あまり鮮明ではないですが、誰かを探しにこの世界に私は来た気がして――」
誰かを探しに……?
「――それって、エスティリアの世界を救うために、勇者である俺を探しに来たんじゃないのか?」
あれだけ散々言っておいて、来た理由を忘れるわけはない。
そう思っていてもつい、ツッコミをいれてしまう。
「そ、そうじゃなくて――!……鮮明ではないのですが、別の目的だったような気がして……」
別の目的――。
それが少女の消えてしまった記憶の1つとでも言うのだろうか。
ここに来た目的と転移の方法。
そんな大切な物を忘れて、この少女はこれからどうしようと言うのだ。
「……気のせいじゃないか?」
何か忘れているかもという衝動に駆られる――。
それは俺でもよくあることだ。
少女が妙に発情していた時は動揺して、思わず言うことを信じてしまっていた。
だが、俺とやれば思い出すなんて考えれば変な話だ。
相手は痴女だ。
もっともな理由をつけて、性欲を満たしたかっただけなんじゃないだろうか。
「い、いえ!確かに変化を感じたんです!こう――頭に訴えかけてくるみたいに……!」
両手を頭に当て、必死にジェスチャーをする少女。
――な、わけないか……。
そんな無邪気な少女を見ていれば、企みなど何もないように感じるのだ。
いや、考えられそうな頭をしていない。
「……つまり、もっとやれば明確に思い出すんだろう?」
早い話は論より証拠だ。
少女が何か思い出すまでやればいい。
どうせ、真実なんてわかりっこないのだ。
それに、一度味わってしまった少女の体――。
ふんわりと暖かく、滑らかで柔らかく。
所によってはトロリと生々しい……。
思い返すだけで下半身が熱くなる。
記憶を思い出すかなんてどうでもいい。
もっと、少女を知りたい――。
俺の本能はそんな下心さえ隠せないぐらいに、どうしようもなく膨れ上がっていた。
「はい。……毎晩めちゃくちゃにしてくだされば、進歩良く思い出していくと思います」
そんな俺に便乗したのか、少女は強請るようにこちらを見つめてくる。
毎晩、少女とこんな……。
想像するだけで興奮してしまうのは男の性だろうか。
――次は何をしようか。
その、体型に見合わないたわわな膨らみを、満足するまで……。
「――つ、次はその……!」
ふと俺は、少女へと伸ばしていた手を宙で止めた。
――何してんだ俺は……。
理由は――曇りない少女の眼を見てしまったからだろうか。
己のやろうとしてることに気づいてしまったのだ。
愛もなければ理由もない。
ただ、「やりたい」の言葉が俺を洗脳していた。
駄目だ――。
こんなの、俺の美学でもなんでもない。
きっと、やった後に後悔する……。
「……どうしたのですか?」
そんな俺を心配そうに見つめる少女。
すまない――。
俺が優柔不断なあまりに君を振り回しそうだ……。
不安と動揺に駆られたこの心は、今は安静にするべきだと判断した。
「悪い――今日はもう、疲れたからこのまま寝るよ。……シャワーは適当に使っておいてくれ……」
「……あ、はい。おやすみです」
そんな俺に、少女はただ明るい笑顔を送るのだ。
実に愛らしく愛おしい天使の笑み……。
喘ぐ姿は興奮物だったが、こっちも悪くはない――。
「おやすみ……」
きっと明日は激務だ。
しっかり寝ないと――。
気づけば俺は、深い眠りへとついていた。