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二十二歳の勇者と天然女神達の異世界創造譚  作者: そらまちたかし
第二章:フリーターとツンツン女神
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お人好しの女神

 

 

 風を感じる。

扇風機やエアコンのそれとは比べ物にならない程の強風だ。


 それをどう感じているかと聞かれれば体全身で。

何故、体全身で感じているのかと聞かれれば、非道な女神のせいだ。


 ――ミノタウルスが地面に着陸までしたら、ゴブリンたちが驚くでしょ?――


 ゲフィオンのその一言で、今俺は遥か高い上空から身を投げ出されていた。


 俺は特殊潜入部隊かよ!

そんなツッコミを入れている余裕はもう無く、草木の茂る大地が段々と大きくなる。


 パラシュートは――。


 背中に装着している感知式のパラシュート。

もちろん、スカイダイビングとかそういうのは初めてで、パラシュートを使った事なんてない。


 だから怖いのだ。


 いつ開くかも分からないこれに命を託すのが……。


 心から叫びたい。

今度こそゲフィオンに殺されると。


 しかし、凄まじい風圧で口は開きっぱなしで言葉は出ない。

もう大地がくっきりと見えていた。


 ――短い人生だった……。


 目を瞑り、後は運命に託す。

その時、背中から何が勢い良く飛び出す音がした。


 パラシュートが開いたか。

しかし、速度は緩やかになるどころか増すばかり。


 俺は目を開け、チラリと背を見る。


 はぁ!?


 背中から炎の様なエネルギー質の物が勢い良く吹き出していた。

 

 これパラシュートじゃねー!!


 気づけば頭を下にして急降下体勢。

どうやら、頭から突っ込んで死ぬ様だ。

 

 やはり、ゲフィオンの自画自賛発言にツッコミを入れたのが……。


 もはや、そんな過ぎたことを考えていても意味がない。


「……ごめん、それパラシュートじゃなくて緊急離陸装置だったわ」


 上空から落とされる前に、ゲフィオンから渡されたインカムから声が聞こえた。


 そして数秒後に聞こえる飲み物を啜る音……。


 人が絶命時に優雅にティータイムしてやがる!!

なんて非道な神様だ。


「……体勢を変えればホバリングが可能なはずよ。後は待機していれば自然と降下を始めるわ」


 体勢を変えるって……。


 あれか、頭を上にやればいいのか!


 そんな単純な発想で腕を大きく前に振り上げ体を起こす。


 やった!空が見え――。


 あれだ。

空が見えては大地が見え――加速しながら交互に視界に映る。


 う……!


 回る視界に吐き気が込み上げる。

どうやら振り上げた力が強すぎて、遠心力が回転という動作を始めた様だ。


 もう、駄目だ――。


 オリンピック級の大車輪をかましながら、一人の男が地面に叩き落とされた――――。


「……」


 目を開けた先には木々の木漏れ日。


 こういうのは好きだ。


 暖かく、優しい光はどこか包容力を持っていて、漠然とした思考を自然と柔らかく解してくれる。


「目……覚めた?」


 その木漏れ日に被さる様に、ブロンドヘアーの少女が顔を覗かせる。


 青色の瞳が眩き、乳発色の肌が実に柔らかそう……。


 そして、向日葵色の絹の服が優しい花の香りを漂わせる。


 この子は誰だろう――。


「いっ……!」


 動かそうとした体に凄まじい痛みが走る。


「う、動かないでね……」


 哀れな男の胸に乗せられた小さな手の平。

ほんのり暖かく、柔らかい……。


「に、人間――いっ!?」

「あ、安静にして!!」


 これが安静にしてられるわけがない。

目の前に人間がいるのだ。


 そして、気づく枕元の膝。

俗に言う膝枕なのだが、ここまで緊張するものとは……。


 ――てか、近い!

少女が俺を覗く顔の距離が凄く近い!


「……もう少し、こうしててね」


 そしてなぜか子供扱いされて頭を撫でられている。


 まぁ――気持ち良いけど。


 何より、草花から運ばれる甘い風に、柔らかい膝枕に、少女の匂いが……。


 このままでいられたら幸せだ――。

そんな理想の快感に包まれた特別な空間。


 実に穏やかで心が清くなっていくのを身に感じる程。


「――これ、食べれる?」


 そう言いながら少女は足元に置いたカゴから林檎を一つ取る。


 ん――?

林檎って、黄金だったか?


 目の前に差し出されたそれは赤でも緑でもなく金色に輝く林檎だ。

おとぎ話にでも出てきそうなそれを俺はまじまじと見つめる。


「……このままじゃ流石に硬いかな。ちょっと待ってて……」


 少女はそう言うと、金の林檎をシャクリと齧る。

そして、何回か咀嚼して俺の口元へ……。


「お、おい!」

「ふぁい?」


 口に林檎を含んだままの少女は、だらしない声で返事する。


「わざわざ口移ししなくて――」


 俺の唇をくわえる様に、少女の唇が重ねられた。

そして、舌でゆっくりと甘く柔らかい林檎ペーストが運ばれる。


 なんだろ、この展開を知っている。

前もこうやって無理やりキスされた気がした。


 美味い……。

それは林檎と少女の舌の両方。


 ファーストキスの時よりも丁寧で、優しくゆっくり程よく……。

とても心地の良いリズムで俺の舌に少女の舌が絡められていた。


「ちゅ……」


 少女は舌を離し、最後に優しく俺の唇へキスをする。


「……これで少しは元気がでるよ」


 少女は林檎と唾液でベトベトな口元を拭くと、笑顔で言う。

いや、もう既に元気になってる場所があるのはあえて言わない……。


 しかし、ここまで女性に優しくされたのは初めてかもしれない。

馬頭しかしてこないゲフィオンと比べたら……。


「……だ……じょ……大丈夫!?オズ君!」


 激しいノイズと、俺を呼ぶ声が耳を右から左へと突き抜ける。


 あれだ。

高い周波の音が耳に反響し続けてぼわぼわする感じ。


「う、うるさいぞゲフィオン!」

「……あら生きてるじゃない。心配して損したわ」


 俺の声に安堵したというよりも、呆れた調子のゲフィオン。

どこまで非道なのかと、人格ならぬ神格を疑うレベルだ。 


「ゲフィオン……」


 その俺の発したゲフィオンという言葉に反応する少女。


 もしやこの少女……。


「――おまえ、ゲフィオンを知ってるのか?」


 単刀直入に聞いてみる。

俺の勘が正しければ……。


「知ってるも何も、ゲフィオンは愛と豊饒の女神。秀才でスタイルも良い超有名人。アイドルもやっているのよ」

「へー……」


 あの性格でアイドルか……。

まぁ、俺の世界でもアイドルは表と裏の顔があるものだ。


「……ちょ、その声は!!」


 俺のインカムから再びデカイ声とノイズが響く。


「女神イズン!?どうして貴方がこの世界にいるのよ!!」

「やっほーゲフィオン!」


 そのゲフィオンの言葉に、女神イズンはただ笑みを浮かべていた。

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