女神ゲフィオン ― 1
この世にはそっくりさんが五人はいる――。
そんな話をよくは聞くが、いざそれを目の当たりにすると動揺が隠せない。
異世界から来た女神フレイヤに、この世界の女神ゲフィオン。
髪の色から肌の色、目の色や身長まで同じ。
ここまで似ていると双子ではないのかと疑うが、二人は初対面の様子。
「……あなた、この世界の人じゃないわね。どこから来たのかしら?」
顔を近づけられたゲフィオンから、甘い香水の香りがする――。
本当によく似た顔つきに色っぽさ……。
ただ、それにも違いがあるのに気付いた。
垂れ目気味なフレイヤに比べて、俺を見つめるゲフィオンは少しばかり吊り目でまつ毛も長い。
鼻もすらっと高く、胸はフレイヤに比べれば少し控えめだが形が良くて柔らかそう……。
髪型も前髪を揃えたポニーテールに対して、ゲフィオンはヘアピンで七三に分けた前髪。
腰までストレートで伸ばした後ろ髪が特徴。
まだ幼児体形なフレイヤに比べ、大人びたゲフィオンと言ったところだろうか――。
「……あまり、そういう目をしてると怒っちゃうわよ?」
「――あ、すまない……」
そして、無防備なフレイヤと比べて手厳しいらしい。
まじまじとゲフィオンを見つめていたので、眉間をしかめられた。
まぁ、女性としてはこっちが普通の反応だと思うが……。
なにより、サイズの合ってない衣服から覗いた白い肌に俺の目が……。
――そしておっさんの着ていた黒いコートと同じ物を着ている。
「――あれ?おっさんは?」
辺りを見渡すが、この場には俺を含め三人。
キャノンを降ろしてから数秒となかったと思うが、周囲に隠れる場所もなく地中に埋まった形跡もない。
「……あなた鈍感ね。この格好を見て気づかないの?」
ゲフィオンは腕を組みながら呆れた態度をとる。
格好――。
おっさんと同じ衣装だが、どこかサイズが大きく裾を完全に引きずっている。
「……もしかして、おっさん?」
まさかと、ゲフィオンに指を指してみた。
「――そうだけど、その言い方には語弊があるわ。詳しくは身を隠すためにおっさんに変身していたのよ」
変身――。
やっとそれらしい言葉が出てきた。
なんかゲフィオンの方がフレイヤより女神っぽい。
そういった視線をフレイヤに向けると、しらばくれているのかワザとらしく視線を反らす。
「……だからっておっさんに変身する必要はなかったんじゃないか?」
「あら?おっさんは希少価値のある人物よ。美男美女が揃ったパーティーには必要不可欠な汚し役じゃない」
――まぁ、確かに。
RPGなどにおっさんキャラは付き物だ。
青い主人公にベテラン面をかましては、悲しい過去と向き合えていない場合が多いが、それが主人公との絆を深めるきっかけにもなりやすい。
名脇役になる場合だってある。
そんな貴重なおっさん枠を数時間でへし折ったこの女神もどうかと思うが……。
「……あと、おっさんになる理由はもう一つ。か弱い女の子が一人で道中を歩いてたら危険でしょ?」
「――まぁ、か弱いか……」
フレイヤに比べればとても強そう――。
そんな視線をフレイヤに向けると、再び視線を反らされる。
「……そのキャノンは魔法か何かか?」
男としては魅力的な美少女も気になるが、デカイ武器や兵器も気になる物だ。
「あぁ、このアマテラスの事ね。――先祖代々伝わる秘宝らしいんだけど、カスタマイズして充填速度と火力を底上げしてあるわ」
「へー」
――って、秘宝ならもっと大切にしろよ!
なに、勝手にカスタマイズしてんだよ!
「元々私のじゃなかったんだけど、和の国って所に行った時に拾ってきたのよ」
「ほー」
――って、盗品かよ!
なに、俺の国の神様の武器盗んでカスタマイズしてんだよ!
「――さぁ、立ち話もなんだし。お約束通り船に乗せてあげるわ」
「――てか、さっきからその船が見当たらないんだが……」
本当に何もない――。
辺り一面はだだっ広い海。
大型船どころか小船すら隠せる場所はない――。
「あら、そんなアナログな船を用意すると思った?」
ゲフィオンは悪戯に笑みを作る。
「……なんで俺の心がバレてるんだよ。透視能力でもあるのか?」
ゲフィオンにそんな能力があれば、俺の疚しい考えは全て筒抜けだったに違いない。
「そんな変態扱いはやめてくれる?貴方の発言から推測しただけよ。ちょっとは頭を使いなさい」
完全に軽蔑されている俺――。
色々手厳しいゲフィオンさんだ。
この時点で最早、フレイヤとゲフィオンの差は某猫型ロボットの兄妹の差ぐらい存在していると見ていいだろう。
「……ほら、来たわ」
ゲフィオンの言葉と共に、周囲に鳴り響き始める高い周波数の音。
その音は彼方向こうの空からやってきた。
鳥か――。
いや、鳥にしては無機質。
白いフォルムに金とエメラルドの装飾が夕日に照らされ、虹色の光を瞬かせていた。
そいつはフォルムの尾から水色の残光を引かせ、こちらに向かってくる。
――フェニックスだ。
機械仕掛けではあるが、あの神々しさを放つ鳥類はフェニックスに違いない。
鳥の様に羽ばたかせていた羽をしまい、滑空の体勢で砂浜を目掛けてきた。
凄まじい突風が吹き荒れ砂浜に砂塵が舞い、打ち上がっていた波は押し返される。
――まるで本物のフェニックスを見ているかの様な迫力。
そいつはしばらくホバリングを続けると、ゆっくりと下降して両足を砂地に着けた。
「……凄いじゃないか!まるで本物のフェニックスみたいだ!」
つい――そんな大声が出てしまった。
いや、男ならこれに興奮しないわけがない。
そんなはしゃぐ俺を不思議そうに見つめるフェニックス。
「――フェニックス?これは私の愛機――ミノタウルスよ」
俺はその、女神ゲフィオンとの思考のズレを深く感じたのであった。




