君色の群青、永遠であれ
あの日の空は、いつもよりも深かった。
果てない青に飛び込むきみの背に、二対の翼。
淡く微笑むきみの、なんと美しいことか。
君色の群青、永遠であれ
僕と彼女の関係を一言で表すとすれば、『いじめられっこ』と『傍観者』だ。クラスで虐めに会っていた彼女と、ただ見ていただけの僕。それだけの関係。
ひどい、と感じる人もいるだろう。仕方がない、と思う者もいるだろう。僕には無縁な感傷ではあるが。そうではあるが、僕も好き好んで傍観者を決め込んでいたわけではない。
ここは『ゲーム』の舞台であり、僕らは『キャスト』に過ぎない。台本通りに役を演じるのに、罪悪感は必要か?プログラミングされた脳では、思考はすれど意志など持てない。それを辛いと思った事はない。悲しいと思う事も、理不尽を感じて憤る事も、ない。『悲劇の主人公』なんて、『ヒロイン』一人で十分だろう?
もちろん、そういった感情を持つ者もいた。ただひとつ言えることは、彼等はもうこの舞台にはいないということ。
バグ(・・)は消される。僕たちの世界では、当たり前のことだ。
そうして生まれた欠員を埋めようとする。至極当たり前の作業である。
彼女も、そのバグに巻き込まれた一人であった。『いじめられっこ』が虐めに耐えられずに、自主退場した。そして彼女は『ヒロインの親友その4』から『いじめられっこ』へとジョブチェンジ。
『傍観者その9』は、傍観できずに降板となった。僕は『役なし』から『傍観者その9』へ。
ただ、それだけ。
「ねえ、『傍観者その9』くん。」
『いじめられっこ』が微笑む。透明な笑みだった。
「空が、綺麗だねぇ。」
そうだね、と返したかもしれない。頷いただけかもしれない。この脳裏に焼きついたのは、君の色。
――とうとう来た最終回。かつてヒロインを虐めていた『いじめられっこ』が救われる事で、このゲームも終わる。『ハッピーエンド』の裏側は、いつだってこんなもの。
…そうだろう?なあ『ヒロイン』、君はいったいどれほどの優越感に浸りながら、そこで白々しく彼女を止めているのかい?
次第に『ヒロイン』が焦り出した。それもそうだろう、彼女は救われてやる気なんて、最初からなかったのだから。
楽しそうにくすくすと笑う彼女の瞳に映るのは、僕だけ。
「ああ、本当に何処までも飛べそう。」
「羽根が生えて、」
「何処までも、何処までも。」
軽やかに柵を越えた彼女は、本当に翼があるかのよう。
「僕は連れて行ってくれないの?」
そう言えば、君は困ったように眉をさげて「無理だよ」と言った。
「私のお願い、守ってね。」
「うん。」
「これで、ぜんぶ、終わるから。」
「うん。」
「…来世で会おう。」
「…そうだね。」
涙は流れなかった。彼女も泣かなかった。
ぶわり
強い風が、早く早くと彼女を急かす。
「じゃあ、」
またね、彼女が飛んだ日、八月三一日の、午後三時。
足元が崩れていく。胸倉を『ヒロイン』に掴まれる。ものすごい形相で何か喚いていたが、耳には入らない。
―――いらないんだよ、君がいない世界なんて。
全部ぜんぶ、壊れてしまえ。
彼女の犠牲の上に成り立つ『ハッピーエンド』なんてさ、僕が壊してあげる。
消える世界にさよならを、
瞳を閉じて浮かぶは、きみの――――――…
▼コンティニューしますか?
▶はい
いいえ