表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

君色の群青、永遠であれ

作者: 梅太郎

あの日の空は、いつもよりも深かった。


果てない青に飛び込むきみの背に、二対の翼。


淡く微笑むきみの、なんと美しいことか。






君色の群青、永遠であれ






 僕と彼女の関係を一言で表すとすれば、『いじめられっこ』と『傍観者』だ。クラスで虐めに会っていた彼女と、ただ見ていただけの僕。それだけの関係。


 ひどい、と感じる人もいるだろう。仕方がない、と思う者もいるだろう。僕には無縁な感傷ではあるが。そうではあるが、僕も好き好んで傍観者を決め込んでいたわけではない。

 ここは『ゲーム』の舞台であり、僕らは『キャスト』に過ぎない。台本通りに役を演じるのに、罪悪感は必要か?プログラミングされた脳では、思考はすれど意志など持てない。それを辛いと思った事はない。悲しいと思う事も、理不尽を感じて憤る事も、ない。『悲劇の主人公』なんて、『ヒロイン』一人で十分だろう?

 もちろん、そういった感情を持つ者もいた。ただひとつ言えることは、彼等はもうこの舞台にはいないということ。


 バグ(・・)は消される。僕たちの世界では、当たり前のことだ。

 そうして生まれた欠員を埋めようとする。至極当たり前の作業である。


 彼女も、そのバグに巻き込まれた一人であった。『いじめられっこ』が虐めに耐えられずに、自主退場した。そして彼女は『ヒロインの親友その4』から『いじめられっこ』へとジョブチェンジ。

 『傍観者その9』は、傍観できずに降板となった。僕は『役なし』から『傍観者その9』へ。


 ただ、それだけ。





「ねえ、『傍観者その9』くん。」


 『いじめられっこ』が微笑む。透明な笑みだった。


「空が、綺麗だねぇ。」


 そうだね、と返したかもしれない。頷いただけかもしれない。この脳裏に焼きついたのは、君の色。





 ――とうとう来た最終回(エピローグ)。かつてヒロインを虐めていた『いじめられっこ』が救われる事で、このゲームも終わる。『ハッピーエンド』の裏側は、いつだってこんなもの。


 …そうだろう?なあ『ヒロイン』、君はいったいどれほどの優越感に浸りながら、そこで白々しく彼女を止めているのかい?


 次第に『ヒロイン』が焦り出した。それもそうだろう、彼女は救われてやる気なんて、最初からなかったのだから。

 楽しそうにくすくすと笑う彼女の瞳に映るのは、僕だけ。


「ああ、本当に何処までも飛べそう。」

「羽根が生えて、」

「何処までも、何処までも。」


 軽やかに柵を越えた彼女は、本当に翼があるかのよう。



「僕は連れて行ってくれないの?」


 そう言えば、君は困ったように眉をさげて「無理だよ」と言った。




「私のお願い、守ってね。」

「うん。」

「これで、ぜんぶ、終わるから。」

「うん。」

「…来世で会おう。」

「…そうだね。」



 涙は流れなかった。彼女も泣かなかった。


 ぶわり


 強い風が、早く早くと彼女を急かす。


「じゃあ、」



 またね、彼女が飛んだ日、八月三一日の、午後三時。

 足元が崩れていく。胸倉を『ヒロイン』に掴まれる。ものすごい形相で何か喚いていたが、耳には入らない。





 ―――いらないんだよ、君がいない世界なんて。

 全部ぜんぶ、壊れてしまえ。

 彼女の犠牲の上に成り立つ『ハッピーエンド』なんてさ、(バグ)が壊してあげる。








 消える世界にさよならを、





 瞳を閉じて浮かぶは、きみの――――――…





▼コンティニューしますか?

  ▶はい

   いいえ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ