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 龍の喉も焼き潰せる最高級の酒を断る謙虚なアース君に好感を持ちつつ、話は進む。



「俺、これでも領一番の力自慢で……妹に『それくらいしか自慢できないだから、聖剣もその馬鹿力で抜いちゃいなさい』って」



 妹さんは冗談だったのだろうと察したが生真面目そうなアース君は真に受けたのだろう。……最高級のお酒をカエンとドロン爺にあげたら、カエンは、「ウマイな、これ!」と……朱雀だから、喉は焼けないか。とちょっと残念な気持ちになったが、ドロン爺が地に這いつくばり、ごろごろと転がったので、さすが高級酒だと効果に満足した。

 アルカちゃんとネリネさんは、余の護衛という任務があるので美味しいお茶と水まんじゅうで我慢して貰った。



「それで、力だけは負けないという自負で俺、祭りに参加していた貴族が俺で最後だっていうんで……力任せに聖剣を抜こうと思ったんです」

「そんな人間はいくらでもいるだろ?」

「……酔っぱらいながら」



 神事!



「勇者が決まる神事になにしてるの!?」

「プレッシャーで!」



 涙目のアースに余もちょっと同情する。最後の方に回れば回るほどプレッシャーが掛かるもん。



「…七日目の夕方まで待って、誰か抜いてくれないかなって朝は祈り裏切られ、昼頃には泥酔するくらい飲んだのにちっとも酔えなかったんです。……しかし、酔えない訳ではなかった事に気づくべきでした」



 沈痛な面持ちだが、酔っぱらいながら神事を行い、聖剣に選ばれた勇者とか本人も不名誉だろう。むしろ選ばれるな。

 余も大変不愉快。



「むぅ、酔っぱらっていたのか」

「はい、もう百パー…」



 真っ青な顔を覆い、「何故、見張り役の兵に酒を配ってしまったんだ」と……こいつ、百二十パー、有罪(ギルティ)



「何、頑張ってお仕事してる人を巻き込んの!?」

「苦しいのは自分だけじゃないと思いたかったんだ!」



 それは酒を飲みすぎて苦しかったんだろう!?



「アース君、ちょこちょこ同情できない!」

「え、もうですか!?」

「何、まだやらかしてんの!?」



 ダメだ。この子、ダメな子過ぎる!

 国に帰したら不敬罪で処分されそう。



「……で、何したの?」

「……その場にいる皆が気分が良くなった頃に俺だけ急激に気持ち悪くなって……」



 飲みすぎたのか。



「足元がふらふらになって、何かに掴まらないと倒れそうになったので……ちょうどそこに良いものが目にはいったので」



 聖剣さーん!


「聖剣か!」

「もう、ちょうど良い杖に感じて……あ、ちょっとそこでもどしてしまって」



 恥ずかしげに伏し目がちになるアース君。その反応違う!

 ほら、余の四天王見てよ。皆真っ青だよ!

 この子は絶対選ばれてない!余、断言できる。

 そこまでされて、聖剣さんがこの子選んでたら、余、喜んで人間と仲良くする為に奔走しちゃう。

 聖剣さんの心の広さに感涙する自信もあるよ。



「それで、ですね」



 まだ恥じらってたのかアース君。

 この子、国に帰せない。話聞き終わったら「うちの子になりなさい」って言わなきゃ、余、頑張って口説こう。



「あんまりちょうど良かったので杖代わりにしようと引っ張って」

「ぬけたの!?」



 じゃあ、君が勇者じゃん!と目を見開いて、ガン見したら、アース君は首を横に振り、



「あの、……抜けそうになったのに突然、聖剣が意志を持ったように台座に引っ込んだんです」



 ……聖剣さん、拒否しました?この男と長旅を拒否しましたか?



「俺も飲んでた兵も、交代に来た兵も次に聖剣を抜きに来た子も目撃してたらしく唖然としてしまって……あ、吐いた後があって恥ずかしかったですけど、何も食べてなかったので液体だけで」

「そこは聞いてないよ!」



 皆、さぞかしポッカーンだったろう。



 ドロン爺が「殺りますか」と爬虫類特有の目でアース君を見つめている。とりあえず、アース君にお茶もう一杯。



「……それで?」



 侍女長が砂糖たっぷりのお茶を余の前に置いてくれた。

 うん、余にお疲れ様です。って事だな。



「一回抜けそうになった事で、死んだ目になっていた皆の目に生気が戻ってしまい、俺に対して皆で『もう一回!』ってコールが沸き上がってしまって」



 聖剣さん!

 先代も先々代も魔王の天敵で仇である君をこんなに可哀想だと思った事はない。が、ガンバレー。余は君の味方だ。

 ドロン爺が「悪堕ちしたら、儂に譲ってもらえんかのう」って。

 聖剣に憧れてるの?そして、悪堕ちって何?



「申し訳ないと思ったのですが、もう一度聖剣の柄を握って抜こうとしたのですが」



 ……日にちを与えてあげて、聖剣さんの心が落ち着くまで待ってあげて。

 余は会った事もない聖剣さんの為に血涙が流れそうになる。



「なんて言ったら良いんでしょう。どうも台座から抜けないっていうよりも必死にここから離れんぞ!という強い意志で拒否されてるような…妹に『お兄様の無神経なところ大っ嫌い!家になんか帰らないわ!!』と、梃子でも動かない兄妹喧嘩をしているような錯覚を」



 そんなほのぼの状況じゃないよ!世界の一大事に勇者(暫定)が聖剣に嫌われてる状況だよ!!



 ーー余は黙った。



 心を落ち着かせる為にお茶を啜る。………うん。

 砂糖と塩間違ってるよ!出来る女じゃなかったのか侍女長!!


 くいっと眼鏡をあげて、にやりと笑う侍女長。まさか、わざと!?


「で、なかなか聖剣が抜けない俺にやっぱり、勇者じゃないのかと、周りが肩を落としたのですが……、俺的には、何度か聖剣を握った感じで『いけるな』って」



 ……そりゃ封印は解けて、ただ単に聖剣さんが自己のプライドにかけて必死に台座にしがみついてる状況ならそうだよ。

 アース君が余の呆れを感じ取ってくれたら良いのにとジーッと見つめたら、人の良さそうなはにかんだ笑みで返された。

 余、ちょっと照れた。


「それで、ですね。『もう少しで抜けそうなので手伝ってください』って周りに頼んだんですよ」

「なんで!?」

「え?聖剣が抜けそうだったので」

「アース君、なんの為に聖剣抜こうとしてたか覚えてた!?」



 余の言葉にアース君が笑顔のまま固まり、ついでに黒い瞳を泳がせた。



「魔王を倒す為の勇者を探すために」



 言いづらそうにするな。



「……聖剣は手段だよ?」

 ドロン爺もうんうん頷いて「聖剣がなくとも魔王を倒す存在もいるしのう……ステータスめ!」。

 ドロン爺から耳慣れない言葉ばかり聞くけど、何かの文献に載ってるんだろうか。



「……酔いすぎて」

「……」

「手段が目的になってしまったようです」



 ぼそりと呟くアース君。……アルカちゃんが高級酒じゃない酒を手渡し、「まあ、一杯どうアルか」。

 お酒で失敗した人にやめてあげようか。


「それで」

「最初は誰も手伝ってくれず『何言ってんの?こいつ』的な空気が、ですが」

「ですが?」

「小鳥がどこからともなく現れて、俺の服の裾をくちばしで引っ張り始めたんです」



 ーー余計なことを!!

 その小鳥の可愛らしい様子は容易に想像出来たが、聖剣さんの気持ちを考えると、と余は歯噛み始めてしまう。


「そしたら、聖剣が動いたんですよ」



 ーー聖剣さん、動揺したのか。



「ゴッ、て少し、動いた音がした瞬間に皆が静まりかえって、次の瞬間歓喜の声があがって、皆次々に手伝い始めてくれて」



 にこにこと、その様子を嬉しそうに語るアース君。……ネリネさんが余をはらはらしながら見つめている。

 この話、確かに言いづらい。

 余を倒す為の聖剣が抜けるとわかった瞬間、皆喜んだというのは、余には確かに複雑だけど。

 余はそれ以上に聖剣さんの精神状況が心配でならない。

 どうしよう。今すごく聖剣さんを抱き締めて「君は間違ってない!」と力強く言ってあげたい。


「それでも、聖剣もなかなか強固で」



 アース君には、一度、聖剣さんに頭を下げさせよう。



「動いた事に気を良くした周りの人たちが協力してくれて、俺を引っ張るんじゃあれだからって、縄を聖剣にくくりつけて、俺は柄を掴んで皆は縄で引っ張る的な」



 聖剣さん、超頑張れ!

 もう神事の影がない。

 酔ってるの?もう、皆酔ってるの!?



「皆で掛け声をあげながら、『わっしょいわっしょい』って力をあわせたのですけど、敵もさることながら抜けないように踏ん張って」



 聖剣さんは人間の味方です。なに、敵認識してるんだ!

 そして、ドロン爺がぼそりと…「大きなかぶ」…ってなんだよ。それは。



「だんだん、お互いに意地になっている事は感じたのですが、誰かが『これは聖剣vs人間の戦いだ!』と叫んだ瞬間、人が人を呼びに走り、だんだんと継ぎ足して縄が伸びていき」



 ……その熱意は、余が対応してあげるから。



「あ、俺が動物や虫に好まれやすいって話しましたっけ?」

「……ネリネさんから聞いてます」



 思わず敬語。

 ……聖剣さんに会ったら、まず第一声は「大変でしたね」にしてあげよう。

 余だけじゃなく、せめて、四天王だけは労ってあげてほしいと思う。



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