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人紀短編集(怪異譚)

(短編、怪異譚)冷蔵庫

作者: 人紀

 うちの冷蔵庫は、何かおかしい。

 見た目は何の変哲もない、腰ほどの高さの冷蔵庫だ。

 近所のリサイクルショップで買った、一人暮らしの中年男には程良いサイズの代物だ。


 でも、何かおかしいのだ。


 それが起き始めたのは買って一週間も経たない、ある日の事だ。

 冷蔵庫を開けると、何故だか分からないがピンク色の便箋が入っていたのだ。


 見覚えはあった。


 生まれて初めてもらったラブレターだ。

 忘れるはずがない。

 だが、ここに入れた覚えもない。

 丸みの帯びた文字が生き生きと踊っていた。

 酸味の強い果実のような、甘酸っぱさを感じた。


 次はその一週間後だった。


 晩酌用のビールを取るため開けると、生臭い空気が中からあふれ出てきた。

 顔をしかめて中を探ると、女物のパンツが丸まっていた。

 白い液体で濡れるそれは、股布の部分が赤く滲んでいた。


 それから、定期的に色々なものを発見するようになった。


 手編みのマフラーや映画のチケット、ペアリングなど……。

 それらには、若い頃の思い出が溢れていた。

 初めは気味悪く思っていたが懐かしい品々に笑みが零れる様になった。


 しばらくすると、今度は白い便箋が入っていた。


 そこには、汚く乱れた文字が書き殴られていた。

 息苦しくなった。

 重い感情で押しつぶされそうになり、暴れる鼓動を鎮めるため胸を強く押さえた。


 その次の日、恐る恐る開けた後、激しく嘔吐した。


 中には病院の領収書と一センチほどの赤黒い生ものが置かれていたのだ。


 見覚えは、無かった。


 だが、全てを理解した。


 頭をかきむしり、額を床にこすりつけるのを止めることが出来なかった。


 それ以来、冷蔵庫を開けていない。


 捨てる勇気も、受け入れる勇気もなく、ガムテープを巻き付けて放置してある。


 だが、最近になって心が揺れている。


 中から、何かが壁を蹴るような音が聞こえてくるからだ。


 冷蔵庫の扉に耳を当て、静かに目を閉じるのが日課になった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 気がつけば引き込まれていました。 なんだか不思議な世界ですが、ラストが印象的ですね。 主人公の姿が目に浮かぶようでした。
[良い点] リサイクルショップで買った冷蔵庫がもたらす不思議。 短くまとめられた、夏の夜の定番ですね。 冷蔵庫だけに、”先入れ先出し”なのでしょうか? 次々におこる不思議 なのですが、先を予測さ…
[一言] 新着順/ホラーから読ませていただきました。 怪異に説明がつかない気味悪さと、この男の人に一体何があったのか、という背景が想像できるつくりになっていて、ホラーとして良かったです。 でも二つ目の…
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