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お前の無駄にでかい羽根をもいで手羽先にしてやるぅっ!!

作者: ぶちゃこ




何もない麦畑が広がるだけの寂しい空間に、あたしはいた。制服姿で。


澄みきった青空と、穏やかな太陽は絵空事のようで実感が湧かない。


どうしてここにいるんだろう。


いつも通り学校で勉強して、蔵書数だけが取り柄の県立図書館に行って本を読んでいただけのはずだ。変わっていたと言えば、隣の席にクラスメイトで病弱な美少女の相川さんがいただけ。

うん。

これは夢だ。

夢に違いない。


ただ空を見上げる私に誰かが声をかける。


「相川、恵さんかしら?」


後ろにいたのは天使様達だった。一人のゴージャスな金髪碧眼美女は、金ぴかな意巧の白いローブを羽織り、不釣り合いなほど擦りきれたファイルを手に純白の羽根をはためかせる。

お美しい。

あたしの夢のなかでもクオリティが高いな。


あたしが感嘆の声をあげると、ふふんと胸をそらせて見せた。可愛い。しかし呼ばれた名前はあたしのものではない。


「いえ、私は沼田です。沼田渚ぬまたなぎさ

途端に美女の表情が変わる。隣にいた同じく金髪碧眼美男子も慌ててファイルを捲る。

「……沼田っ?相川じゃないの?嘘じゃないわよねぇっ!」

あたしの肩を美女ががくがくと揺さぶる。

頭が……!





二人の美男美女天使は行きなり改まると神妙そうな顔でこう告げた。

「申し訳ありませんが、沼田渚さん」

「はい」

「短い一生お疲れ様です」

「……ええっ?」

「沼田さん、貴女は大変ややこしい状況の中、一番の被害者です」

「わたくしの知る限り最もアホらしい状況に巻き込まれたのです。正に悲劇のヒロインぶってもおかしくありませんことよ。誠に申し訳ございません」

「はぁ……」


気の抜けた返事をするあたしに美女天使が二つのファイルを目の前に出す。

「この青いファイルはわたくしアイーダの、緑色のファイルは相棒のベルンのものですわ。この資料をよくお読みください」


アイーダさんの指差した箇所をみると緑のファイルには異常が無いけれど青のファイルには相川と書かれたあたしの写真がある。

お二人いわく、本来ならば相川さんは去年のうちに死んでいて、天国に住む予定だったそうだ。それを下級悪魔が漬け込んで契約させようとするのを彼女の担当天使がそれを阻み、彼女を護りきったんだと。

それだけなら業務上の必要な処置で問題にはならなかったのだが、相川さんはその担当天使さんのハートをゲットしちゃったそうなのだ。

美少女ってすげぇ。


そんなこんなでギリギリまで期限が延びたらしいのだが流石に体のガタが来たそうだ。担当者に恋をしてしまった天使はアイーダさんのお兄さんだそうで、その経由で新米天使の二人は相川さんの魂を回収するためにきたそうだ。が、アイーダさんとベルンさんとファイルに細工がされており、二人とも相川さんがあたしと勘違いしてしまったそうだ。あたしは別に可もなく不可もない人生を老衰で終える程度だったそうだ。ふざけんな。


因みに、先程のファイルは上張りされてしまったファイルとそれをとったファイルだそうだ。それって書類偽装なんですけど。


……あれ、あたし死んだのか?


ベルンさんに掴み寄り、

「その天使さんと会えますか?」と笑う。


「会う気ですか!?」

「えぇ、駄目ですか」

「いや、えっと、僕達どこにいるか分かりませんし」

「……まあ、探す必要は無いみたいね」


何処からともなく大きな翼が降り立った。

キラキラと光るエフェクトをもつ男の隣には品のいいドレスを纏った相川さんがいる。あの、それってウェディングドレス……じゃないかな?顔を真っ赤に染める相川さんにあたしは冷たい眼差しで彼女を見詰めていた。


「アールド!貴方どの面出してきてますの!」

アイーダさんが腰の剣に手をかけるとベルンさんがそれを制する。

「なにやってんだよ、僕らはまだ下級天使だぞ!上級天使に敵うわけないだろ」


泣きそうな顔で止めるベルンさんと怒れるアイーダさん。その向こうでは怯える相川さんと不敵な笑顔を振りかざすアールドさん。


あたしは何をしたかと言うと、アールドさんとやらに近づいた。


「悪いなぁ、これも恵との幸せな新婚生活のためだ。俺の顔に免じて赦してく……っ!」


あたしを拒むように大きな翼を丸め、壁を作り上げたアールドさんにあたしは手をかけた。


「お 前 の せ い か !!」


男の喉から怒声とも悲鳴ともつかない奇声が響く。

何をしたかと言うと、そのお美しい羽根をむしった、それだけ。

相川さんが可愛らしい顔を歪めて睨むけれどそんなの関係ない。


「このくそったれ。人の人生を換えやがって。こちとら真面目に暮らすだけの一般人だっつーの!あんたのその無駄にでかい羽根を手羽先になるように全部むしってやりましょかぁ?いやなの?いやなの?ねぇ人の人生を奪ったときどんな気持ち?ねぇどんな気持ち?返せよ、あたしの人生返してよ!」


ブチブチ、ブチブチ。

溢れる悲鳴に聞く耳も持たずあたしは白い羽根をむしり続ける。人違いで殺されて腸が煮え繰り返ってるんだ。実行犯である天使たちに怒りが無い訳じゃないけど、原因になった奴等の方が憎らしい!


「やめてぇ!」

「お止めくださいっ」


相川さんと別の誰かに羽交い締めされるように止められ、あたしはアールドさんから離れる。足元には羽毛の山がこんもりと出来上がっていて、蹲る男に嘲笑を送る。

ザマァとしか思えないのはあたしの性根が曲がってるからです!


興奮気味のあたしを引きずって眼鏡のオッサンは片手をあげると、アイーダさんとベルンさんがアールドさんと相川さんを連れて空を飛んでいく。


そんな彼らを見送るとオッサンは、土下座した。


「誠に申し訳ありません、沼田さん」

「謝罪はいりません。家に返してください」

「それは無理です。相川さんのように生きながら天界へ連れてこられたのでは無く、魂をぬかれて既に肉体を燃やされたのなら再び生き返ることなど出来ません」

「……ならあの天使を手羽先に。」

「それも駄目です。その代わりに貴女を転生させることは出来ます。その為の要望なら余程無理じゃない限り叶える所存です」


なに、転生ですか?


「なら、比較的争いの少ない世界でそこそこ裕福な商人の養子にしてください。近くに自然豊かな森山川等がある町に住んでいて、家族仲は良好。この容姿はそのままに2歳ぐらいから記憶が戻る感じで。それと特典として武術に関する才能と触れた動物と意志疎通が出来る異能と視力と身体能力のアップで」


言ってみたけどこれってむちゃすぎるんだけどワロス。けど取り敢えず身の安全は確保しよう、そうしよう。


オッサンは羊皮紙に書き込むとそれを太陽にかざした。だんだんと羊皮紙が 赤く染まり、最後には燃えてしまう。


「おめでとうございます。神に了承されました。貴女はセピアという魔法と武術が盛んな世界に生まれることになります」

「え、あんな無茶通ったんですか」

「無茶というほどではありません。あの馬鹿…失礼アールドのしでかしたことの後始末に比べたら断然控えめです。実は魔法の世界でイケメンの王国の聖女として絶世の美女でみんなに愛される逆ハーチートな王女に産まれたいと言われたらどうしようかと思いましたが身体能力の上昇と動物との意志疎通位なら叶います。しかも貴女は寿命が近くここ数年で死ぬような寿命量では有りませんでしたし、極悪人でもない至って善良な人間でした。その人生を十数年で奪ってしまった為、それだけでは足りません。他に希望がないのなら此方から釣り合う特典とやらを付け足します。宜しいですか」

「あ、はい。お願いします」


あのアールド(笑)さんとんでもないことやってたんだな。別に両親離婚したと思ったら引き取ってくれた母さん事故死するし父さんは病死だしもうあたしの希望が叶えられてくれるんならいいでしょう。


「それではまた目覚めるときに貴女は生まれ変わっております。……次こそは悔いのないように」


そっと横たえられて瞼を下ろされる。意識があやふやになり混濁としていく。


さよなら、○○。

二度と遭えないことを祈るよ。




「先輩、あれでよかったんですか?」


ベルンが、光の珠になった彼女を見送ると私を見据えて言った。


「沼田さんってこれからとても幸せな人生を送るはずの人でしたよね。まだ肉体は滅んでいませんでしたし、生き返ることも出来た筈です」


私はその実直な眼差しに負け、それはできないと告げる。


「彼女は“彼”に狙われていた。伴侶としてな。我々は無垢なる魂を護るために在る。例えば死期が早まったとしても“彼”から逃れることが出来たのなら、……それこそ彼女の本望だろう」

「“彼”って、まさかグースの風変わりな上級悪魔の?確か彼女は二回目の人生でしたが、まさか……」

「そのまさかだ。“彼”は人間となってまで彼女を射止めようと必死だ。もし生き返ってなんかしたら再び記憶を封じる術と結界が破れてしまう。それは避けたいのだよ」

「成る程、だから彼女の要望を殆ど叶えられているのですね。“彼”に追われている身だから」

「彼女にご執心な間は此方に被害はない。出来るだけ彼女には手を回すが、後は自分でだな」

「体のいい生けスケープゴートですか」

「そうともいうな」


天使らしからぬ笑みを浮かべる我らを人はどう表すことだろう。

憐れな彼女を肴に、私達は高みの見物とでもさせてもらおうか。
















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