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Another Gear1『生徒会長の日常①』

 AM7時26分 生徒会室


ファクタス学園の生徒会室の自分の椅子に腰掛けながら、風紀会からの報告書に目を通す。内容は先日起こった生徒同士の喧嘩についてのことだ。原因は色恋沙汰で、一人の女子生徒を取り合って二人の男子生徒がレストギアを用いて喧嘩をしたらしい。


「運よく駆けつけた風紀会員が三年の先輩だったから、被害は最小限に抑えられたけど……破壊された机が13脚と椅子が7脚か。学園側に新しい机と椅子の申請をしないといけないな」

 

 机から申請用紙とボールペンを取り出し、机13脚と椅子7脚を記入する。理由には生徒同士の喧嘩により壊れたためと記入し、最後に請求相手である二人の男子生徒の名前を記入する。これを学校側に渡せば、新しい机と椅子が用意され、代金は男子生徒の親に請求される。


「当事者の二人の処置は……生徒会に任せるか」


 報告書には風紀会代表と運動会代表から処置は生徒会に任せると直筆で書かれている。学校内で問題が起こった場合、生徒が怪我または学校の備品が破壊されると風紀会、運動系部活員の問題は運動会、文科系部活員の問題は文化会の各代表が処置を決める。今回の場合は当事者の二人は運動系の部活に所属していて、机と椅子が破壊されたので運動会と風紀会が処置を決めることになる。


 生徒会は各代表の処置が間違っていないか確認する立場で本来は処置を決める立場にいないのだが、生徒会長になって以来、生徒の処置は全て任されている。信頼からなのか仕事を押し付けられているだけなのかは分からないが。


「怪我人は当事者の二人以外はいない。他の生徒への被害は教科書やノートが数冊か。これは弁償させるとして、停学にするほどでもない。一ヵ月間の教室清掃と午後六時までの雑用ぐらいかな」


 机からさっきとは違う用紙を二枚取り出し、処置の内容と自分の名前を記入する。この用紙を風紀会と運動会に提出し、処置に納得すれば学校側に提出され、学校側が受理すれば正式な処置として受理される。


 用紙に記入が終わり、紅茶が入ったカップを口に運ぶ。仕事終わりに飲む少し甘めの紅茶は格別だ。紅茶を味わっているとドアが開かれ、見慣れた薄紅色の髪が見えた。


「おはよう、テイルちゃん」


「おはようございます。ヴォレス先輩はいつも早いですね」


「生徒会長だからやることがそれなりにあってね。さっき、先日起こった生徒同士の喧嘩の被害の報告と処置についての仕事が終わったところだよ」


 記入の済んだ三枚の用紙を見ながら答える。


「二年の先輩同士の喧嘩ですよね?」


「そう、当事者以外の怪我人がいなかったことが幸いだけど机や椅子などの備品が複数壊れたから、学校側への備品の追加申請と風紀会と運動会に生徒の処置についての書類作成もあったから早めに来たんだよ」


 紅茶がなくなったので椅子から立ち上がり、新しい紅茶を用意する。


「テイルちゃん、立ってないで座ったら? 紅茶入れようか?」


「あっ、いただきます」


 テイルちゃんは軽く頭を下げてから、自分の席に着く。テイルちゃんは実家が巫女の家系のおかげが背筋がまっすぐで一つ一つの動作が綺麗に見える。ナギの前でもこれが出来ていれば普通の女の子として見られるのではと思うが、やはりナギの前では平常でいられないようだ。


「はい、テイルちゃんはレモンティー。物足りなかったら砂糖入れてね」


「ありがとうございます」


レモンティーと砂糖の入った箱をテイルちゃんの前に置き、自分の席に座る。


「いつもすいません。本当ならこんな雑用は一年である私がやるべきなんですが」


「気にしなくてもいいよ。テイルちゃんは書記であって雑用係じゃないんだから」


「それを言うならヴォレス先輩も会長であって雑用係じゃないんですよ?」


「そこは気にしなくていいんだよ。僕が好きでやってるんだし」


 そう言って新しい紅茶を口に運ぶ。テイルちゃんは納得がいかない顔をしているが本当に気にするようなことではない。僕はたった一年早く生まれただけだ。


「僕としてはレモンティーが冷める前に飲んでくれると嬉しいんだけどな」


「……いただきます」


「熱いから火傷しないようにね」


 テイルちゃんはカップを両手で包み、息を吹きかけて冷ましてからカップに口をつける。


「あっ、美味しい」


 カップから話した口からそんな声が聞こえた。


 そのタイミングでテイルちゃんを納得させるために考えていた言葉を話し出す


「テイルちゃん、はっきり言うけど生徒会メンバーの中では僕が一番紅茶を入れるのが上手いと思う。別にみんなが入れてくれた紅茶が美味しくないとは言わないけど、僕がよく使う言葉覚えてる?」


「……適材適所ですよね。覚えてます」


「そう、だから紅茶を入れるのは僕の仕事。でも、本当に重要な書類に記入するのは書記であるテイルちゃんの仕事。重要だからって僕は書かないよ。僕よりもテイルちゃんの方が字が綺麗で、整ってるからね」


「わかりました。でも、ヴォレス先輩は意地悪だと思います」


 納得はしたようだが、今度は拗ねたような顔で僕のことを意地悪と言ってくる。ナギに腹黒とは言われるが、テイルちゃんにこんなことを言われたのは初めてのことだ。


「紅茶を入れるのと重要な書類に記入するのとじゃ、私の方が責任重大じゃないですか。それに、私だってお世話にヴォレス先輩やキール先輩、リナちゃんやナ、ナギ先輩に飲み物を入れてあげたいです」


 テイルちゃんはどうやら拗ねているようだ。これは予想していなかった。


「いや、さっきの話は例え話で重要な書類が来ても、テイルちゃんが嫌なら僕が記入するし、僕以外が紅茶を入れたらダメってわけじゃ。えっと……ただ、僕が生徒会にいるときは僕がやるから任せてほしいってことで、嫌ならそう言ってくれれば」


 僕があたふたしてると、テイルちゃんは口を手で塞ぎ、肩を揺らしていた。


「えっと、テイルちゃん?」


 話しかけるとテイルちゃんはお腹を抱えながら、楽しそうに笑いだした。僕はそこでテイルちゃんの悪戯に引っかかってしまったことを理解した。でも、あまりに楽しそうに笑っているので怒る気になれなかった。



「す、すいません。まさかあんなに困るとは思わなくて。ヴォレス先輩があんなに困ってる姿なんて見たことなくて、それが、その……ツボに入ってしまって……」


 数分が経ち、落ち着きを取り戻したテイルちゃんは凄い勢いで頭を下げてきた。顔もすごく気まずそうだ。怒ってはいないし、気分も悪くない。それどころかあまりに楽しそうに笑っていたので、こっちまで少し楽しくなったぐらいだ。


 だが、テイルちゃんとしては上級生で生徒会では自分より上の立場である僕を笑ってしまったことに罪悪感を覚えているのだろう。その気持ちは理解できる。


「テイルちゃん、僕は別に気にしてない。怒ってもいない。僕だってテイルちゃんと同じ立場なら笑ってしまうと思う。謝ってくれたし、もう気にしなくてもいいよ」


 慎重に言葉を選びながら発音する。



「で、でも。……それじゃ」


「気が済まないってテイルちゃんは言うんだろうね」


 テイルちゃんの言葉を遮って言葉を発する。


「だから、お願いをしようと思うんだ。いいかな?」


「は、はい! 私にできることなら」


「じゃあ、今日は僕に対して普通に接すること。リナちゃんやナギに接する時みたいにね」


 テイルちゃんはきょとんとしている。僕の言った言葉の意味が分かっていないようだ。


「えっと、それはつまりどうすればいいんですか?」


「簡単だよ。僕のことを上級生の友達だと思えばいい」


「む、無理です! ヴォレス先輩に対してタメ口なんて聞けません!」


 腕で胸の前に大きな×マークを作りながらテイルちゃんは言う。


「ナギやキルには出来てるし僕にだって出来るよ。一人称をアタシにして、普通に接してくれればいい。呼び方はヴォレス先輩のままでいいから」


「……わかりました」


 少しの間、考えた後テイルちゃんの口から了承の言葉が出た。


「やっぱり、ヴォレス先輩は意地悪です」


「さっきの悪戯の仕返しだよ」


 そう答えると紅茶を口に運ぶ。ちょうど最後の一口だったので立ち上がり新しい紅茶の準備をする。もちろんテイルちゃんのレモンティーも新しいものを用意する。テイルちゃんのカップが空なのは立ち上がった時に確認済みだ。


 自分の紅茶を用意し、テイルちゃんのカップに新しいレモンティーを注ぐ。


「はい、新しいレモンティー」


「えっと……ありがとう」


「どういたしまして」


 自分の席に戻る。もう少しで八時になる。二十分以上テイルちゃんと話していたようだ。八時になればキルとリナちゃんもここに来るので本格的に生徒会の仕事を始められる。


「そうだ、テイルちゃん。これは嫌なら断ってくれてもいいんだけど」


 僕の声に反応してテイルちゃんがこちらを向く。


「今度、皆に美味しいお茶を入れてくれない。お茶ならテイルちゃんの入れるのが一番美味しいし、僕もたまには紅茶以外も飲みたいからね」


 僕の言葉を聞いてテイルちゃんの表情が明るくなる。どうやら上手くいったようだ。


「喜んで!」


 明るい笑顔でテイルちゃんは答えた。



 テイルが笑顔で答えてから一分もしない内にリナが、八時ジャストにキールが生徒会室に来た。全員がそろうとヴォレスが仕事の指示を各自に出し、着実に仕事の山を片付けていく。八時半には朝のノルマは達成していた。


仕事を終え、生徒会室の鍵を閉めてヴォレスとキールは二年生の教室へ。


テイルとリナは一年の教室に向かって歩き出す。


「テイルちゃん、良かったね」


 ヴォレス達と十分な距離が開いてからリナはテイルに話しかけた。


「今度、皆にお茶を入れてくれるんでしょ。おにぃにアピールするチャンスだね」


「な、なんで知って。も、もしかして聞いてたの?」


「盗み聞きする気はなかったんだけど、ごめんね」


 リアは胸の前で手を合わせて謝る。


「テイルちゃんの楽しそうな笑い声が聞こえたから気になって」


「じゃあ、ヴォレス先輩に言われた罰ゲームも知ってるんだよね」


「知ってるけど、なんで罰ゲームをすることになったの?」


「……それは」


 テイルは最初から細かく全て話し始めた。リナはテイルの話を静かに聞いていたが、ヴォレスの困った姿を想像して、テイルと同じように笑ってしまった。


「た、確かに、それは笑うと思う」


 笑いすぎて目に涙を浮かべながらリナは言う。


「それで、あの罰ゲームをすることに」


「なるほどね。でも、その罰ゲーム無意味に近いよ」


 そう言うとリナはテイルの横から前に出て、向き合う形を取る。


「ヴォレス先輩があの罰ゲームを言ったのは、八時になる少し前だよね。八時になれば私とキール先輩が来て仕事が始まる。書記と会長じゃ仕事内容は違うからほとんど話さないし、授業が始まればクラスどころか学年が違うから会うとしても食堂ぐらい。放課後も同じで話すことは少ないだろうしね」


 リナの話を聞きながら、テイルはこの罰ゲームの無意味さを理解した。


 そして、ヴォレスがそんな無意味な罰ゲームを提案した理由を考え、テイルは一つの結論に辿り着いた。


「じゃあ、ヴォレス先輩の目的はアタシが気にしないようにすること」


「それと、テイルちゃんがお茶を入れる機会を作ることだね。おにぃが言ってたけど『レスは

全部考えて行動や発言するから隙が無い』って言ってた」


 その言葉にテイルは目を丸くする。


「じゃあ、もしかしてヴォレス先輩の困った姿は演技?」


「そうだと思う。そして、こうなるように誘導した。でも、別にテイルちゃんを騙そうとしたんじゃなくて、それどころか優しさだと思うよ」


「それはわかってる。でも、ヴォレス先輩は凄いね。自然で演技とは思わなかった」


 リナはそこで前から思っていた一つの疑問を投げかける。


「テイルちゃん、私からしたらおにぃよりヴォレス先輩の方が魅力的だと思うんだけど。やっぱり、おにぃが好きなの?」


「えっと、ヴォレス先輩は異性と言うより、兄みたいな存在……かな。尊敬はしてるけど恋愛感情はない。そ、それに、ナギ先輩の方が」


 それ以上先の言葉はテイルの口から出てこなかった。


 リナは顔を真っ赤にしたテイルの腕を引き、教室へ向かって歩き出す。


「恋は相手を三割増しでイケメンに見せるか」


 どこかで聞いたセリフをリナは思い出していた。

今回の作者は私の友人のみずまっちゃんです。私もその内書くつもりですが、本編中心なので、偶に投稿するかも知れません。


※みずまっちゃん本人からの許可を得て載せています。

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