一話 初めての○○
「俺と付き合ってほしい」
今、私は告白されている。私はこの男の子のことは何も知らなかった。
「でも、私、貴方のこと……」
「俺のこと知らなくてもいい! 絶対に好きにさせるから!」
その自信はどこから湧いてくるんだろう。でも、その当てもない自信に賭けてみるのもいいかもしれない。
「いいよ、付き合お」
「よっしゃ。あ、そうだ、俺の名前。犬川 爽太って言うんだ。よろしく」
「うん。よろしくね」
「早速だけど、今週の日曜日これ」
手渡されたのは、動物園のチケットだった。私の返事も分からないのに、もう買っていたのか……
「じゃ、K駅の時計台下で10時に集合ね!」
そう言って犬川は去っていった。まるで嵐のような男だったな。それにしても、私、付き合っちゃうんだ…。今まで彼氏というものがいたことがない私は何をすればいいのか分からない。
そして、デートの日はあっという間にやって来た。あの日以来、犬川には会っていない。私は名前以外何も知らなかったので、尋ねようがなく、向こうも私に会いには来なかった。
私は私の出来る限りお洒落して、家を出た。駅に着いたのは9時半。待ち合わせの30分も前だった。
どうしよう。早く着きすぎた。私、めっちゃ楽しみにしてるみたいだ。一度、ここから離れて……
「あれ、猫山さん? 早くない?」
猫山とは私の名前だ。そして、この声は犬川? お前も早いよ。まだ30分前だぞ?
「俺、女の子は待たせない主義なんだけどな。そんなに俺と会うのが楽しみだった」
「別に、そういう訳じゃないし」
「えー本当?」
私は何か恥ずかしくなり、犬川に顔を背けた。1人で動物園の方へと歩いていく。
「ちょっと待ってよー」
「知らない」
そして、私は犬川が止めるのも聞かず、1人で動物園の中へと入った。
そして、私は見事に迷った。流石に日曜なだけあって人は多い。犬川が後ろから着いて来てくれている気がしたが、そんなことはなかったみたいだ。
私は行き交う人の中でたった一人でそこに立ち尽くしていた。
どうしよう……。はぐれたのか……?
「猫山さん!」
私はいきなり誰かに抱きつかれた。それも前から。あまりにもいきなりだったので、顔は見てない。でも、私を呼んだ声。それは犬川の声だった。
「犬川?」
「もーどんどん先に行っちゃうんだもん。俺だって追いつけないよ」
「バカ……」
いや、悪いのは私だって分かっている。それでも、何か恥ずかしかったのだ。私はあーいうとき、逃げる以外の方法を知らない。
「猫山さん。もう俺から離れちゃダメだよ?」
そして、私は犬川と改めて動物園を周った。何かすごく楽しかったけど、それを表に出すのも何か照れ臭かったので、真顔でいる努力をしながら、楽しんでいた。
そして、あっという間に閉園時間になった。
「猫山さん、今日はどうだった?」
「まあ、楽しかった……かな」
「そっか、良かった」
その時だった。犬川の唇が私の唇に触れる。恥ずかしすぎて顔が焼けるように熱い。
わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
私は走り出した。そして、家に帰ると布団の中に潜り込んだ。顔の熱さが落ち着かないまま私は眠りに落ちた。