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無職の悪魔  作者: 陽無陰
第二章 銀龍の苦悩
25/26

2-3 悩めるルーナ


 プシュンという空気が抜ける音と共に脱衣所から浴場への扉が開く。

 この家は防犯体制に優れ、家人には便利だが、玄関で認証しなければ部屋への移動も儘ならないほどだ。

 扉も手動で開く事も出来るが、思考するだけで扉を開くことも可能である。

 その扉から艶かしい二人の美少女が入ってきた。

 鈴音は白い半袖のワイシャツのみを身に付けている。ワイシャツの裾から覗く生足が艶かしく、裾の長さも足の付け根が見えないように長さを調整してある。

 もう一人の少女、ノルンは白いワンピース型の水着を着ている。シンプル故にその素材を引き立てており、メリハリのついた肉体が煽情的であった。

 おそらく、奉仕の際どちらがいいか鈴音に尋ねられて、恥ずかしいという理由から白い水着の方がいいと判断したのであろうが、甘いと言わざるを得なかった。

 ――これは奉仕なのだ。普通の水着が用意される筈がない。そこのところを鈴音はわかっていて渡したに違いなかった。


「透君どう?」


「似あっている、というよりもエロい」


「それを基準で選んだからね……」


 鈴音も恥ずかしいのだろう。照れている姿は可愛いのだが、見えそうで見えないというアングルが何とも言えない色気を発している。


「その……私はどうですか?」


「もちろん、似合っているよ。シンプルだから、素材が全てともいえるからね」


 ノルンは肌が透ける様に白い。水着の白では、ノルンの肌の白さには叶わないと思わせるほどに両者には差があった。


「じゃあ、始めるね」


「はい、宜しくお願いします」


「御奉仕といっても、基本的にやることは透君の身体を洗うことだけ。後、ついでにちょっとサービス。ノルンちゃんもどうぞ」


 鈴音は最初、透の髪を労わるように洗っていたのだが、途中からノルンへと指導のためにバトンタッチした。


「その……これで大丈夫でしょうか?」


 ノルンは強くやりすぎないように、おそるおそる髪を洗う。たどたどしい手つきは、彼女の不慣れを表していた。


「痛かったら言うから、ノルンのやりやすいようにして」


 透の髪が少々長い事もあってそれなりの時間がかかるのだが、ノルンも長い髪を洗うのは手慣れているからか、それほど時間がかからず洗い終えた。

しかし、ここでちょっとした問題が起こった。お湯で流す際、ノルンにもお湯がかかるのだが、水着が濡れた場所が透けていくのだ。


「きゃっ!」


 透が注目している事に気付き、そこに目を向けると、水着にはノルンの全てが透けて見えていた。ノルンは羞恥から反射的に両手で隠した。


「ノルン、見せて」


「で、でも」


「ノルンちゃん、透君に見せることも御奉仕の内だよ」 


 透がニコリと笑い、鈴音が透に同意すると、ノルンは恥ずかしそうにゆっくりと両手を下ろす。

 ノルンが両手を下ろした先には透けた水着に密着して映る、ノルンの艶美な肢体があった。


「ふぁぁ~」


 鈴音が感嘆の声をあげる。女性の目から見てもノルンの肢体は凄艶なのだろう。

 メリルが見る事ができない事を、ハンカチを噛んで悔しがりそうな光景であった。


「鈴音、ノルン、次は身体をお願い」


「はい」


 今にも消え入りそうな声だったが、ノルンは身体を隠すような真似はしなかった。



「次は俺が洗う番。リーネが先ね」


「うん」


「ノルンも手伝って」


「はい」




「お互い洗い終わった後は追加で自由にしていいんだけどどうする?」


 二人からは身体を鎮めてほしいという懇願があった。



 鈴音もノルンも透の腕の中にぐったりと身体を委ねている。息が荒れているにもかかわらず、彼女達は何処か満足そうだった。


「御奉仕する際は、透君に見られる事を前提で、エッチな衣装で御奉仕するのが基本なの。もちろん、それは夜伽もなんだけど、あちらは部屋を暗くしたりもするからあまり見てもらえない時があるからね」


「なるほど。勉強になります」


 いつの頃からか、ルキの助言に従い、こういう結果になったそうだ。

 夜伽がねっちょりくっちょりなら、御奉仕はちゅっちゅっだ。

 訳すると、夜伽はじっくり楽しみ、御奉仕は軽めに楽しく。


「鈴音も慣れてきたよね」


「そりゃあ、もう……透君の研究に余念がありませんから。最近では、男の子の視点からの研究に没頭しています」


「私にも教えてくださいね」


「うん! ノルンちゃんも一緒に研究しようね!」


 二人は実に仲が良い様子で、人差し指を合わし合っている。


「でも、ノルンちゃんもこうやって私達と透君を共有する事に抵抗はないの?」


「ありませんよ?」


 ノルンは実に不思議そうな顔をしている。何を言っているのか分からない顔である。


「カノンフィールでも一夫多妻制ってなっているけど、どういった経緯でそうなったのかな?」


 国が違えば、常識も習慣も考え方も違う。その程度の事もわからず、自分達の価値観を強要するものはいる。

 透はそういったことには寛容というか、こだわりなどはない。あまり興味は持ってはいなかったが、ヴェルディンとカノンフィールの習慣の違いが気になった。


「ヴェルディンほど強い慣習ではないですが、私達にも一夫多妻制やその逆はあります。これはイデアの共有に関係しているのですが、ヴェルディンだけでなく、私達の世界でも軍事的に強い者が権力者になる事は珍しくありません。いえ、むしろヴェルディンとカノンフィールが別れる事になったのも、こういった思想が一因となったのです。……話を戻しますね。ですから、強くなる方法として妻や夫を多く娶り、イデアを自身のそれより多くすることで実力を増し、それに伴った権力を増すことは珍しくないのです」


「そうなんだ……」


「ええ。もっとも、カノンフィールでは自由恋愛を謳ってはいますが、一夫一妻が多いことも、実態の一つです」


「ノルンちゃんは一夫多妻制に抵抗はなかったの?」


「というよりも、そういったことに興味はありませんでしたね……あなたに会うまでは――」


 ノルンが透の頬にキスをし、艶やかに微笑みかける。


「私はあなた以外にこういうことに興味は抱いた事はありませんでした。父は、私が女性の寵愛者であったため、夫となる人物は慎重に選ぶべきであり、一人の男性に尽くすべきだと常々私に言い聞かせておりました。あなたの場合は、元から一夫多妻制だったので、私もそれに考えが合わさったのでしょう」


「そっか……ノルンちゃん、これからも一緒にしようね」


「はい♪」


 透は二人の様子にひどく安心した。もしもの時は、ノルンを捨てるという決断をしなくてはいけないからだ。


「ところであなた――」 


 ノルンは流し目で誘うように透を見る。


「ん、なんだい?」


「夜伽の時は絶対に――絶対に私をあなたのものにしてください。一晩中、私の身体の事を気にせず、あなたの思うがままに私を貪ってください。大丈夫です。無理をすれば、ナノマシンが勝手に回復してくれます。ですから、私が気絶しようとも私をあなたの色に染め上げてください」


 これまでの鬱憤が相当溜まっているのか、情欲の炎が瞳に宿っている。

 今までしてきた事を思うと、苦笑せずにはいられない。


「焦らしプレイしすぎたもんね……」


 はい、そのとおりです。

 透は慣らしをやりすぎた事を反省したのだった。――少しだけ。


  ◇◇ ◇


 ルーナは一人自室のベットで透が言ったことを反芻していた。

 最初、彼女は今まで透に話していなかった重要な秘密を洩らされた時、怒られるのを覚悟していた。なにせ、命にかかわることだ。怒ってしまっても無理はないと思った。

 だが、透は一切その事を触れずに、ただ獣化の事だけを聞いてきた。

 命にかかわる大事な話を話さなかった事を怒るでもなく、秘密にしていた事を悲しむでもなく、ルーナの気持ちを聞いてきた。

(――本当に不思議な人)

 ルーナは透の事をそう評する。

 実際ルーナにとって、透はよく掴めない人物なのだ。

 今まで一緒に暮らしてきたのだが、透は不透明な部分がある。ルーナの今までの常識では測れないところがある。

 例えば、彼の地位はフィンに依るところがある。彼自身には力も立場もない。彼はそのことを弁えているのか、あまり五界に対して干渉しない。

 だが、彼は力があろうが、行動は変わらないと告げている。

 立場を弁えているのかとも思うが、それも何処か違うように思える。

 もし彼の立場に他の者が立てば、どうなるかは筆舌し難い。

 五界が支配されるか、滅びるかは分からないが、頂点に立とうとするのが人の常ともいえるのだが、むしろ彼は傍観者であろうとしている。そちらの方が楽しめると言わんばかりに――。

 今回だって彼の考えがよく分からない。

 誰もが強くあれと自分に強要するのに、彼は弱くともそれでもよしと言った。それもまた、愛しい選択だと。

 わからない。人ならば、前者を選ぶのは自明の理だ。

 誰もが、光を、希望を、理想を人には願う。

 前へと進む選択をよしとするのが人の理なのに、彼はその真逆でもある。

 かといって、そちらの方ばかりを好むのかといっても、否だ。

 彼の考えがさっぱり読めなくて、フィンに尋ねたのだが……

『透の考え? 透は我らの中でも精神が異常だからな。我らでは測ろうと思っても測れないところがある。深く考えているかと思えば、何も考えていないし。正義を愛するかと思えば、非情でもある。優しいかと思えば、冷たい。感情的かと思えば、無感情的でもある。

 透に関して言えば、考えるだけ無駄なのだ。鏡のようであり、虚無的な男だからな。透に対しては、ただ純粋に甘えればいいのだ。後ろに思惑があり、それに沿った行動をするとそれに対応した態度しかとらない。気持ちだけでぶつかれば、存分に甘えさせてくれる。ルーナも甘えるがよいぞ。最初は二度と戻れない闇の中に飛び込む様な気持ちがするが、飛び込んでしまえば楽なものだ』と笑いながら、説明してくれた。

 鈴音も同じような事を話していた。

 ルーナは二人の透像を思い出しながら、手を首輪に触れさせる。

 他のガイアノーグの住人とは違う首輪。

 これは、暴走を防ぐために造られたルーナ専用の首輪だ。

 彼女の脳裏にはある選択肢がずっと浮かんでいた。

 それはガイアノーグの住民が絶対に選ばない最悪の選択肢。

 浮かんでは消え、浮かんでは消え、彼女の脳裏から離れない。

 ――大好きなのだ。透も、フィンも、ノルンも、鈴音も、ティナも。

 ルーナは彼らとずっといたいと思っている。

 だから、最後の手段として、この選択肢はとってある。


「ハティ」


「……ここに」


 ルーナの呼び声にハティはすぐさま応える。

 彼女はルーナの護衛。

 彼女が獣化の制御を失敗した時から正式に就いた護衛だ。

 彼女の役目は護衛だけではない。

 もう一つの役目は、もしもルーナが獣化の暴走を起こしてしまった際の殺害である。

 彼女の暴走は、周囲を否応が無く巻き込んでいく。しかも、始まってしまえば止められる者などほぼ皆無だ。

 過去、ソルガがかろうじて止める事ができたが、それは暴走直後に対処したからだ。

 もし、後数秒でも遅ければたちまち周囲一帯は枯れるか、もしくは腐ってしまい、ガイアノーグも滅んでしまったかもしれないと言われている。その際に、ソルガの両腕が犠牲となったのだが、暴走が齎す被害を予測すれば、その程度はかわいいものだ。ガイアノーグの医療技術で腕など簡単に再生できるのだから。

 だが、暴走が始まる少し前ならば、ルーナがかろうじて制御している間ならば、殺害は可能だ。

 だから、ハティはルーナの傍に常にいる。

 姿を隠し、一定距離を保ったままで。いつでも殺せるように。

 ルーナもそれを承知している。

 その上でルーナはハティを護衛として認めているのだ。


「もしも、あの選択を考えているとしたら、母様達はどう思うかな?」


 それはルーナが聞きたかった事。あの選択をしてしまえば彼女は――。

 ハティはルーナが何を言いたいのか、理解している。

 プリティからもしもルーナがこう言いだした時の答えは既に聞いているのだ。


「……奥様達から既に答えを聞いております。かまわないそうです」


 ルーナはぱちりと目を瞬かせた。

 てっきり否定されると思っていたのだ。


「え、と……どうして?」


「もしもその選択肢を取り、ルーナ様がガイアノーグを滅ぼす事になったとしても、状況はあまり大差ないのです」


 ルーナとしても意外だった。大差ないとはどういう事だろうと思った。


「既にフィン様という世界を容易く滅ぼせる存在はいるのです。ルーナ様である必要性はどこにもなく、またフィン様の気まぐれでもガイアノーグは滅びるのです。ならば、状況は大差ない事だと」


「あ~」


 確かにその通りなのだ。透とフィンならば、世界などあっという間に滅びる。しかも、止めることなどできはしないのだ。

 ルーナの他にも世界を滅ぼすことができる存在はいるのだ。


「ですから、どのような選択肢を取ろうともかまわないそうです」


「そっか……ありがとう」


「……では」


 音もなくハティは消えるが、呼べば出てくるだろう。

 これで何の枷もなくなった。

 後は自分の決断次第だ。

 


 ――ルーナの悩める夜は明けていく。



(明後日、透さんに相談しよう)

 明後日、丁度いい事に夜伽の番なのだ。

 ならば、その時に相談するのが良いだろう。

 そう思い、就寝すべく床に着こうとしたのだが――

 明後日の夜伽の事を思い出し、恥ずかしさから眠気が覚めてしまった。

(どうしよう、どうしよう……)

 ルーナの煩悶に応えてくれる存在はおらず、ルーナはベットの上をゴロゴロ転がり、恥ずかしさを誤魔化そうとした。



 ――ルーナの悩める夜は更けていく。


(うにゃ~~~~)




 ルーナが傍目にも分かるほどガチガチに緊張している。

 よって、透は緊張を解すために耳に息を吹きかける事にした。


「うにゃ~!」


 効果は抜群だった。恥ずかしそうに、そして恨めしそうに見るルーナを無視し、緊張を解すために関係のない話をする。


「ルーナ、ガイアノーグの住民を見て思ったんだけど、龍皇族の外見って他の種族と違って、完全な人型だよね?」


 ルーナは何をされるかと身構えていたが、透が話に移行したので、少し緊張を解いたように肩の力を抜く。


「それは龍皇族の特性なんですよ」


「特性?」


「以前話した通り、龍皇族は外部から力を取り入れる性質があるから、その外部に影響される事は儘あります。龍皇族が龍の姿を取るのもそれと関係しているのですが、あれは『吸収』の特性を最も発揮できるからです。なんて言ったらいいでしょうか……そう、外見的特徴が龍皇族の能力に影響を及ぼすといったらいいでしょうか……。あ、でも、龍皇族は融合の特性があるから、結構自在に姿を変えられるんですよ。だから、ボク達も姿を龍に限らず、他の動物に姿を変える事ができるんです。龍皇族が完全に人型なのも、ベースとなる基本形態を忘れないためですね」


「ルーナも姿を変える事ができるの?」


「はい。獣化ができれば、身体全体を自在に変える事ができます。耳や尻尾を生やすことだってできます」


 透はそれを見てみたかったが、ルーナがまだ制御できないので諦めることにした。


「フィン達でも生やすことってできる?」


「できますよ。これは獣化と関係がない、ただのイデアの塊だけど、少しは神経と繋がっていて、いわば性技のためのあれと言いますか、なんといいますか……」


 その内、フィン達が仕入れそうなあれであった。

 ルーナも話す内に照れが混じってきたのだろう。顔が少しずつ熱を帯びてきている。


「じゃあ、やってみせてくれる?」


「えと、その……はい」


 ルーナの頭頂部と臀部に光の塊が出現し、それは耳と尻尾の実体に結び付いていく。


「触るよ」


 透は許可を待たず、ルーナの耳を触る。

 コリコリ、フワフワしていて実に気持ちいい。軽く咥える。


「ふわ……」


 ルーナから声が漏れているが、透は気にしなかった。

 次はフワフワと揺れる尻尾に目をつける。

 毛は綿飴のようにフワフワで、シルクの様に滑らかですべすべだ。

 透は感触を気に入り、何度でも撫でていると、ルーナの身体からは次第に力が抜けていった。


「にゃあ~」


 犬耳と尻尾なのに、猫とはこれいかに。

 透は性技のためのあれなので、神経が繋がっているという話を思い出した。

 ならば、気持ちいいのだろう。継続だ、弄くり回してくれると優しく撫で続ける。


「や……だめです……それ以上は……」


 ルーナが涙目になって止めようとするが、透は止まらない。

 透が尻尾の触り心地に酔っていると、ルーナの身体からは完全に力が抜けた。


「さて……ルーナ、お話ししようか?」


 先日、ノルンとしたように、お互いの事を知りあい、理解を深めていった。

 断じてこれは鬼畜の所業ではない。愛でているだけだ。

 透の弁明は誰の耳にも届かず、愛でる行為だけが続いていった。



「透さん」


 ルーナはまるでそこが自分の居場所とばかりに透の腕の中から逃げず、自分から捕まっているのだと示しているかのように透から離れない。

そして、安らぎを覚えているかのような静かな声を発した。

 透は返答代わりに、彼女の髪を梳く。


「ボクは未だに力が怖くて、怯えています」


「……それで?」


「だけど、少し向き合ってみようと思います」


 精神的な安らぎを得たことで、自身の闇と向き合う決心がついたのだろう。ルーナからは悲壮な声が発せられない。


「そこで、お願いがあるんです」


 ルーナは透の手を取り、大事そうに自分の胸に抱え込んだ。


「何?」


「もしもの時は……」


「離れるという選択肢は駄目だからね。始める前からそんな気持ちじゃ成功しないからね」


 透がルーナの言葉を遮り、被せるとルーナはふわりと笑った。


「もちろんです。ボクは透さん達と一緒にいたいから」


「それならよし」


 ルーナの額にキスをする。くすぐったそうではあるが、嬉しそうに受け入れる。


「もしもの時はボクの全てを背負ってほしいんです」


 ルーナは覚悟を決めた表情で透を見詰める。その言葉にルーナの決意がどれほど詰まっているかは透が知る由もないが、透の答えは変わらない。


「そのつもりだよ。俺達は夫婦だからね」


 正確には婚約者だが、今はそんな細かい事を気にしない。というよりも、この家では誰もそんな事を気にせず、妻を名乗っている。


「はい♪」


 安心し、蕩ける様な笑顔を浮かべるルーナを優しく抱きしめる。彼女の体は幼いためか、抱きしめてしまえば折れそうであった。


「ルーナ、力というのは怖れていいんだ。怖れるということはそれを知っている、もしくは危険性を認識しているということだからね。大切なのは受け入れること。力を恐れ、怖がり、それでも目を逸らさない事。それが制御に繋がる」


「ボクにもできるでしょうか?」


「ルーナ、できる、できないで判断するんじゃなくて、やるかやらないかで判断するんだ。それが自分の望みに繋がるのであれば、できないという不安は害悪でしかない。だから、それを切り捨てて、やるという気持ちを固めるんだ」


「やるという気持ちですか……」


 それが真に望むものならば、不退転の気持ちで挑むのが、それに対する礼儀というものだと透は思っている。


「力になれるかといえば、分からないけど、傍にいるのは確実だから。何か御用命があればどうぞ、お姫様」


 気障なセリフだと、透は心中で苦笑する。合わないということは自覚していた。


「じゃあ、誓いのキスをしてください。約束を果たせるように」


「了解」


 その日、透達はこれまでより関係を一歩も二歩も進めた。


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