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無職の悪魔  作者: 陽無陰
銀龍飛翔編
20/26

1-1 新婚生活の決まり

「では、新たに加わった三名を含めた新しい新婚生活について話し合おうぞ!」


 宴会が終わり、透達だけになった後、フィンがこれからの秩序の為にと、言い出したのがそもそもの始まりだった。


「ふむ、具体的には?」


「御奉仕と夜伽についてだ!」


 透の問いにすかさずフィンは揚々と答えた。


「私達の夫は透君なんだから、希望があれば透君に従うよ」


「ふむ……一応希望は聞くか」


 透はノルンを見る。


「そういった行為は大丈夫?」


「あなたが望むのであれば、よろこんで」


 同性であろうとかまわず魅了するであろう笑みを浮かべながら、ノルンは了承する。

 透はティナを見る。


「わらわはいつでも大歓迎じゃと、常日頃から言っておったであろう、旦那様」


 正式に婚約が決まったことで、ティナの透に対する呼称は婿殿から旦那様へと変わったらしい。

 透はルーナを見る。


「その……ボ、ボクもだ、大丈夫です」


 氷でも置けばすぐにも溶けそうなほど顔を赤くしながらも、ルーナはしっかりと意思表示をした。


「う~ん……夫婦生活に外部の事を持ちこむのは野暮だけど、無視するわけにもいかないから最初は一緒に寝るだけにして、双方がしたくなったら夜伽をして、慣れてきたら風呂での御奉仕もしよう。それでいいかな?」


「……いいですよ」


「は、はい」


 二人の反応はなかなか対照的だった。

 ノルンは拗ねた様子を見せ、ルーナは緊張を見せながらもほっとした様子だった。

 そして、唯一はっきりとした応対を見せたのがティナであった。


「嫌じゃ! わらわは旦那様と一刻も早くいちゃいちゃしたいのじゃ!」


 ティナの魂からの叫びは、ノルンと鈴音に賛同をもたらしたが、肝心の透とフィンには無視される形となった。


「透よ、初夜からせぬのか?」


「うん。俺達はこういった関係になったけど、三人とは夫婦生活を送ることを前提にしていなかったからね。いや、対外的にはそうだったけど、外部の都合に合わせて行動していただけだった。偽の婚約がいつ破棄されるか分からなかったから、何処か一歩引いていた面もあるしね。だから、今後はもう一歩踏み込んでからにしようと思うんだ」


「今でも三人の事については、結構知っておるのではないか? というか、最後まで手を出さなかっただけで、かなり可愛がっておったであろう? あれほど弄んでおいて、今さらにも程があるわ」


「そうだけど、それはそれ、これはこれだよ。……まぁ、心構えをつくる期間って言ってもいいかな。これまで足早に関係を進めていた面もあるしね。これからも一緒にいるつもりだから、焦らずゆっくりとするつもりだよ。もちろん、心構えができればいつでも構わないと思っているけど」


 透がちらりと見ると、三人はどこか嬉しそうに照れていた。

 いや、むしろある一人は鼻息を荒くしていた。


「透君がそう言うならそれでいいけど……とりあえず、順番に一緒に寝て行って、心構えができたら御奉仕もローテーションに入れると」


「うん、そう」


「なら、一緒に寝る順番を決めないとね」


「今日はわれだぞ」


「なら、他の順番は……」


「二番でお願いします」


 ノルンはすかさず二番目を主張した。早く一緒に寝たいといわんばかりだった。


「ノルン殿よ、こればかりはおぬしの願いは叶わぬよ。なぜなら、わらわが二番になることは未来の決定事項だからだ。おぬしはわらわの後塵を拝したもれ」


 ティナの言葉に苛立ちを覚えたのか、ノルンはユラリと立ち上がると、ティナを憎しと睨みつける。


「これは異なことを。彼の寵愛を二番目に承るのは、私と決まっています。あなたこそ、私が彼に可愛がられる様を、指を咥えて待っていなさい」


 二人はいつ触発してもおかしくないほどの威圧感を発しており、二人を取り巻く空間は歪みを発しているようだった。


「能力なしのクジ引きで決めてね」


「了承したのじゃ!」


「その命、確かに承りました」


 二人の空気を無視した透の提案により、二人の願望は己が運に委ねる事となったのである。


「あはははは……ルーナちゃんどうする?」


「その……やっぱりまだ心構えができていないので、最後に」


「じゃあ、私が四番と」


 夜伽の順番が決まり、一同に一仕事終えた空気が流れた。

 尚、ティナは大地に伏していた。


「しかし……まさかこんな風になるとは夢にも思わなかったな」


 そう呟いたのは透。彼とて、今の自分の身分が分不相応だと理解している。彼はフィンがいなければ、また彼に惚れていなければこのようにはならなかったと、確信を持って言える。


「全ては透君とフィンちゃんが発端となっているんだよね」


「確かに……五界が和平の道を選んだことも、私達がこのような関係になった事も、元はといえば、お二人の関係が元となっていますよね」


「なんだか、物語みたいで憧れちゃいます」


 ルーナにきらきらと眩しい瞳に見詰められ、透とフィンは照れた。


「われと透の出会いが全てを変えたか……悪い気分ではないな」


 愛しい男と結ばれる為に行った結果がこれなのだ。まだまだこれからだとはいうものの、現在の良好な関係を築くきっかけになったのであれば、嬉しさから照れが混じるというものである。


「そういえば……」


 全員に飲み物を差し入れながら、メリルが口を挿む。


「お二人が惚れたきっかけというものはなんですか?」


「あ、ボクも聞きたいです!」


「私も興味あります」


「わらわも聞きたいのじゃ」


「そういえば、私も聞いてないかも」


 四者四様の反応であるが、誰もかれもが興味津々といった様子で、透とフィンの馴れ染めを聞きたがっていた。


「惚れたきっかけか……」


 フィンはそのきっかけとなった数年前の出来事に思いを馳せる。


  ◇◇ ◇


「われとて最初から透に惚れていたわけではない」


「……想像がつきませんね」


 ノルン殿の言葉に誰もが首肯する。

 だが、事実なのだ。最初からべた惚れの方がおかしいだろう。まぁ、われが透にべた惚れの姿しか見せておらぬからそう思うのであろうが。


「今までの五界の関係から分かる通り、ヴェルディンの住人であるわれは、アースフィアの住人である透を蔑んでおった。われらからすれば、アースフィアの文明は過去のそれとなんら変わらぬからな」


 われの言葉に反論はない。これは確固とした事実であり、程度は違えど四界の住人に共通する思想なのだから。和平が成り立っているからこそ、いやわれが睨みを利かせるからこそ、アースフィアは交渉する機会を得たといってもよい。それを活かすか潰すかは彼ら次第だろう。唯一そういった感情からは無縁なのがアヴェルタだが、利用するだけしておいて用済みになったらポイ捨てするであろうから、われらとさして変わらぬであろう。


「じゃあ、それが覆るきっかけになった機会があったんですね?」


 敵対する世界の二人が結ばれる。物語としてみれば王道といってもよい。ルーナは目を輝かせておる。目の前にその生き証人が居るのだ。わからぬでもない。

 ルーナには悪いが、全てを話すわけにはいかぬ。それが透の意向だからな。透はこれまで通り何も知らぬふりを振舞うから、われもそれに付き合わねばならぬ。夫を支えるのが妻の役目とはいえ、中々に面倒な事よ。さて、作り話を話そうか。


「うむ。実験が暴走してしまった時の事だ」


 真実を隠すには、納得ができる一握りの真実を混ぜること。だから、あの中での出来事を一部話せばよい。


「実験の暴走の結果がどうなったか知っておるか?」


「はい。確か、外側に繋がる穴が空いてしまい、その結果一定範囲内にいたもの全てを呑み込んだと聞き及んでいます」


「うむ。われらは呑み込まれてしまい、どうしようもなくなってしまったのだ」


「そういえば、呑み込まれてしまったらどうなるのですか?」


 ノルン殿の問いにわれはあの中での出来事に身震いしてしまい、つい透の膝の上に乗ってしまった。

 透が後ろからぎゅっと抱きついてくれている。むふふ、これよ、これ。


「抽象的で分かりにくいと思うが……地に立っているかさえ分からない闇の中で、視界は黒一色、何も見えず、何も感じず、何も匂わず、五感の全てが閉ざされた状態になるのだ」


 その状態を想像してみたのか、息を呑んでいるようだった。


「しかも、周囲の闇がわれを呑みこもうとするのだ。われらは外側と繋ぐ実験を行っていた為か、意識は何とか保てたが、それも時間の問題であったであろうよ」


「聞くところによれば、誰もその事を覚えていないようですが、それは何故なのでしょうか?」


「あの膨大なヒュレーの奔流に身を晒してしまえば、一個人の意思など容易く呑み込まれてしまうのだ。覚えていないのも無理からぬことよ」


「そうですか……」


 もし、自分が呑み込まれてしまえばどうなるか想像しているのか、ノルンは無意識に腕を抱いて身震いしておる。


「ノルン、こっちにおいで」


 透が手招きし、横に座るように指示する。

 きょとんとした後、ノルンは嬉しそうに透の隣に座った。

 それを好機とみたのか、ティナも透の傍に擦り寄った。抜け目のないやつだ。

 透は二人を抱き寄せた後、続きをと、目線で促す。


「われの意識も呑み込まれそうになった時、われの他にも意識がある事に気付いたのだ。――それが透だ」


 それは地獄の中で天から垂れた一筋の蜘蛛の糸であった。われはそれに必死にしがみついたのだ。これは、嘘ではなく本当の事だ。透はわれの意識が崩れてしまわぬようわれに話しかけてくれたのだ。


「実験前に繋いであったレコードのせいだと思うんだけど、繋がっていたから声を掛けたんだ」


「意識が朦朧としておったところに、透からの声が聞こえてひどく驚いたのだ」


「それで、どうしたの?」


「お互いの場所は分からなかったが、透と話すことで何とかわれは意識を保つ事ができ、ヒュレーに溶け込まずに済んだのだ」


「透さんは大丈夫だったんですか?」


「それはもう……いつもと変わらなかったぞ」


 そうなのだ。この男は同じ空間にいたにもかかわらず弱っている様子を見せず、普通に話しかけてきたのだ。その後も、意識を普通に保っておったし。まぁ、透ならば当然だがな。


「その……透さんはどうなっていたんですか?」


「俺? 俺はフィンと同じような状態だったけど、特に何も思わなかったな」


 全員珍妙な生物を見ているような眼で透を見ておる。そうだ、これが普通なのだ。それをこの男は――。


「透君、怖くなかったの?」


「なんで? 何も見えなかったから退屈だったけど、心地良くもあったし、快適だったけど。まぁ、難点は暇だった事かな」


 顔が引き攣っておる、引き攣っておる。これが普通の反応なのだ。あれを心地よいと思っておる方がどうかしておる。ちなみにだが、これは嘘ではない。この男は本当にあの闇の中で平常状態だったのだ。


「まぁ……なんだ……それで話しておる内にわれはすっかり透に慣れ親しんでしまい、今の気持ちの元ができてしまったといっても過言ではない。いや、正確には埋め込まれていた種が芽生えたといったところか」


「そうなんだ……」


 誰もが二の句を継げないでおる。透が異常なのだ。うん、仕方がない。


「あ! それでどうやって出たんですか?」


 ルーナ殿が場の雰囲気をどうにかしようと必死に聞いてくる。われもそれに便乗する。


「どうやって出ようかという話になった時、身体が無ければどうにもならなかったからな。それでどうにかしようという話になったのだ」


「どうしたんですか?」


「われの身体はほとんど消えかけておったからな。そこで、透がわれを自身のアゾートにすることで解決を図る事にしたのだ」


「そんなことができたのですね……」


 無論、嘘である。透に再構成され、元からの願い通り力の底上げをしてもらったが、それは透のアゾートではない。いや、それは半分間違いであろう。透のアゾートの一つ――『比翼連理』によって、われは『無色の悪魔』と契約中なのである。

 透のアゾート『比翼連理』は、透の一部となることで、透からヒュレーを無限に供給できたり、適性に応じた能力を使用可能となるのだ。

『無色の悪魔』に相応しい能力ではあるのだが、基本的には透はこれを気に入った相手にしか使用する事はない。いつもならば、レコードを創造してそれを相手のアゾートにするのが、透の『比翼連理』の表向きの能力。透がアースフィアにおった頃、よく使用していたのがこれだったのだ。


「通常ならばできる筈がなかろうが……周囲がヒュレーに充ちていたことと、われの身体がほとんど消えかけていたことが要因となったのかもしれぬ。試行錯誤の上でようやくわれの身体は再構成できたのだ」


「ほえ~」


 ひどく感心しておるようだ。これまで事例がなかったことで、もっともらしい説明で納得しておるようだ。嘘ではないが、真実でもない。透の能力の万能さは、世間に公表するわけにもいかぬので、これで問題なかろう。いずれ、この者達も真実を知るであろうが、何の問題もない。透の意向に沿えぬ者が、透の傍に居る筈がないのだから。


「それでようやく出れたのじゃな?」


「いや、あくまでわれの身体が再構成されただけだ。そこから出る方法を何度も試行したのだ」


「まだ続きがあるんですか!?」


「あるぞ。再構成できたものの、その空間から出る方法が分からなくてな。とりあえず当時の我が放てる最大火力のエイドスで穴を空けようとは思ったものの、空けられなくてな……。途方に暮れたわれらは、暫くそこで過ごすこととなったのだ」


「どれくらいですか?」


「確かわれらが呑み込まれておったのは、一日も経っておらぬよな?」


「うん。実験の暴走を聞いて、ママと一緒に駆けつけたんだけど、その時には透君達は出てきていたんだよね」


「じゃあ、半日程度ですか?」


「いや、その程度では済まなかったと思うぞ。確か、体内時計では数年は経過しておったな」


「数年って本当ですか!?」


「その数年の間に、われは膨大なデュナミスの操作の向上を学んだのだ。出る為にはどうしても必要だったからな」


「その間にお二人に愛が芽生えたのですね」


 これは本当である。透に再構成されたおかげか、全ての記憶を取り戻したわれは、われから離れようとする透を説得せねばならなかった。

 何でも言う事を聞きそうに思える透ではあるが、この男は自身の根幹に関わる部分では絶対に己を曲げないのである。今回の件でいえば、透は表舞台に立つ事を嫌い、また強大すぎる力が現世に悪影響を及ぼす事が確実なので、今回の実験の暴走を理由にわれらの前から消えようとしていたのである。

 当然われはそれを許す事ができず、説得にあたったのである。

 はっきりいって、透がわれの説得に応じたのは、透がわれらと一緒にいたい事もあるが、透の意向が叶えられるからであろう。

 もしわれらがこの男の意にそぐわぬ時は、透はわれらを容赦なく切り捨てるであろう。

 まぁ、そうはならないからこそ、われらは透の傍にいられるのだがな。

 いわゆるまともな感性を持つ者であれば、透の傍にいられる筈がない。

 説得した後は、われは透をヒモにすべく世界を征服しなくてはならなかった。だから、われは透に稽古をつけてもらい、底上げした自身の力の制御と操作を身に付けたのだ。


「うむ。ただ……一つだけ恥ずかしい事があったのだ」


「何ですか、それは?」


「そこにいる間中、ずっと裸だったのだ」


『へ?』


「再構成したはいいものの、服までは再現できなくてな。しかも、一歩踏み出せばどこまで墜ちていくかは分からない暗闇の中。必然的に離れることはできず、裸で密着。しかも、相手はわれの好ましく、そして命の恩人ともいえる愛しい男。これは、もう意識しまくるしかあるまい」


 誰もが顔を赤くしておる。われとて、思い出すのは恥ずかしいのだ。闇の中で透を説得する間、闇が怖いから離れるわけにもいかない。その上何をするにしても、裸を晒さねばならぬ。しかも、透は話すには不便と感じたのか、お互いの姿ははっきりと見えるようにしていたのだ。透に『責任を取れ』と、開き直って迫るまでどれ程われが恥ずかしい目にあったか。透はいつでも服を用意できたにもかかわらず、われの裸を見て悦んでおったのだ。

 説得した後は、透の力が露見し、人々がそれに縋りついた時、透が世間から去った後のシチュエーションというか、われと透二人だけの生活が始まったのだ。

 その時間は、われにとって至福だったといえよう。デュナミスの操作が向上する度に御褒美を貰え、常に透からのヒュレーで身体が満たされておった。本当に二人だけの変化の無い日々。これを愛しく思えることこそが、透の傍にいられる資格。まぁ、最低でも後四人増えるのだが、四人ともわれと同じだから透の傍にいられるのだ。

 元々堕ちていたが、われが透に堕ちるのは時間はかからなかった。墜ちた後は、お互いしか感じられない中、これ以上ないほど愛されたのだ。身も心も魂までも透に埋め尽くされておるのだ。これは、もう――透のものになるしかあるまい。


「コホン――まぁ、とにかくだ。透がわれに無限ともいえるヒュレーを送り出し、われがそれを無駄なく操作し、その空間から抜け出す事ができるエネルギー量を放てるようになり、晴れて出る事が出来たのだ」


 顔を赤くしておるが、気になったのかノルンが疑問を投げ掛けてくる。


「そういえば、透様はデュナミスは使わなかったのですか?」


「できなかったんだよね。フィンがアゾートになったからか分からないけど、使えるデュナミスはヒュレーを他者のイデアに変換し、繋がっているフィンに送る事だけ。それしか、碌に使えなかったんだ」


「アゾートを一旦解除して取り込んだ後に、デュナミスを使うことはできないんですか?」


 われと透の関係の設定は、そういう事になっておる。無論、嘘だがな。われの能力なぞ、透の実力の一パーセントどころか、小数点以下なのだ。しかも、大量のゼロが必要な程。


「そうしてしまえば、フィンがどうなるか分からないからね。だから、その方法は使えないんだ」


 われの身体はほとんどが透のアゾートで再構成されておる。これは本当なのだ。そんな事をしなくとも透ならばわれを再構成できるが、われはそれを望んだのだ。

 だからこそ――


「だからこそ、われの全ては透の為にあり、透に捧げるのだ」


 それはわれの誓い。誇り。生きがい。全て。愛しい男に全てを捧げる。われほどこれを体現できる存在はおらぬ。われは文字通り、透のものなのだ。


「俺達の関係は奇妙なものでね。俺達は恋人関係でなければ、命を盾に脅して功績を根こそぎ奪う関係、脅迫者とその被害者になるかな。いや、恋人関係でもそれは言えるかな?」


 失礼な! われは自分の意思でやっておるのだ。

 抗議の意味を込めて、睨みつける事にする。


「はいはい、分かってる、分かってる」


 膨らんだ頬をツンツンしてくる。

 分かっておるのならば良いのだ!

 だが、われの心は深く傷ついた!

 慰謝料を要求する! 具体的にはチュッチュしろ!


「実際、その気はないけど、似たようなものである事は事実だしね」


 われの気がおさまらぬ。説教も込めて、可愛がってもらわねば!


「なるほど。だからこそ、そんなにメロデレなんですね」


「そのとおりだ!!」


 メロデレはわれらが造った造語で、メロメロとデレを掛けた言葉だが、意外とわれは気に入っておる。これは新天地だな! われに相応しい言葉だ!


「それはよいのですが……私も可愛がってくださいね」


 ノルンが透の耳に息を吹きかけておる。色っぽいな!


「わらわもじゃ。おまえ様、わらわも可愛がってたもれ」


 ティナも同じ事をしておる。その姿では、色気が足りぬよ。出直してこい。


「明日以降ね」


「待ち遠しいのじゃ♪」


「はい。楽しみにしております♪」


「ハイ、ハイ、ハイ、ハーーーイ!!」


 メリルが激しく自己主張しておる。何だ?


「ノルン様! 私も可愛がってください!」


「……私にそういう趣味はありませんよ」


 嫌そうな顔をしておる。そんな表情でもノルンは魅力的すぎるな。やはり、要注意だな。透を奪われぬようわれも頑張らねば。


「承知しております! でも、できればノルン様に私の処女を頂いてほしいであります!」


「……そんなことできるの?」


「できます。そう言った方面でもデュナミスは発達しているので」


 うむ。それ専用のデュナミスをダウンロードできるしな。戦闘方面がある程度開発された後、どこぞの馬鹿がそっち方面を開拓しおったのだ。

 今ではナイスと言わざるをえんがな。


「透様! お願いします! ノルン様とする時、私も混ぜてください!!」


 見事なジャンピングスパイラル土下座だ。たしか、土下座の中でも上位に位置するとか。確かではないがな。われとしてはもう一捻り欲しいところだ。

 しかし、メリルも分かっておるな。単独では不可能とみて、透を巻き込みよった。意外と強かだな。


「……どうする?」


「……あなたが望むのであれば構いませんが」


「じゃあ、ノルンが慣れてきた時かな。ノルンもいずれフィン達と一緒にさせようと思っているし」


「はい。私は構いませんよ」


 ノルンと一緒にするのか……その時が来るのが楽しみだな。転生前もしたことはあるが、昔よりもパワーアップしておるからな。どのように乱れるか、以前との比較も興味があるし。どれほどの魅力を放つのであろう。


「至上の歓喜!!」


 鼻血を流しながら、漢泣きをしておる。

 確かに、ノルンにあれほど入れ込んでおるのであれば、おかしくはないが……本人はひいておるぞ。ほどほどにしておけよ。


「……今日はもう遅いし、さっさと寝ようか」


 透の一言で解散の運びになった。

 メリルを見て、気落ちしたのであろう。気持ちはわからぬでもない。

 ――だが……。

 これは好機。いまならば、御褒美だけを貰えるに違いない。


「御褒美の時間だな?」


「……ご注文は?」


「――特上で!!」

 

 たっぷり可愛がってもらいました。てへ。 


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