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無職の悪魔  作者: 陽無陰
エピローグ
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エピローグ 


 家では祝賀会が開かれ、誰が淹れたのか酒も入ったことにより狂騒状態にあった。

 未成年だからという理由はここでは通用しない。そんなものは国が定める法律によって異なるのだ。当然、アカディアでもそんな常識は通用しない。

 とはいえ、アカディアでは許可はされているが、学生は基本的にはアルコール度数が低いものしか購入できない。

 メンバーはラグナ達四人がいないだけで、初めてこちらに来た時と同じ人員が揃っている。

 フィンと鈴音、ティナが絡むことはいつものことだが、今日は何故だか透にノルンとルーナも絡んでいた。

 ルーナはいつものように熱暴走を起こした状態で透をちらちらと見ており、目が合うとすぐさま目を逸らし、近くにいる人に泣きつく。現在、犠牲になっているのは彼女の双子の妹のステラ。不仲であったためか、泣きついてくるルーナに戸惑っていたようだが、あまりのルーナの狼狽した様子に呆れたのか、はたまた諦めたのか、今はなすがままになっている。彼女達が以前どのような関係だったかは知らないが、こんな風だったのかもしれない……あまりにも様になっている。 

 ルーナはまだいいが、問題はノルンだ。

 彼女はフィン達のようにべったりではないが、常に傍に控えめにピッタリと付いてくる。しかも、いつも着けていた仮面を外している。本人曰く、急に制御できるようになったとのことだ。

 どうしたのかと尋ねると、にこにこと笑うだけで何も言わない。笑った彼女はすごく魅力的ではあるのだが、熱情を含む視線がどうも気になってしまう。さらに、視覚化できそうなほどのフェロモンを放出しているようでもあった。影響は透にだけ及んでいるが、近くにいるからかフィン達にも若干出ている。

 メリルなんかはそんなノルンを見て、もう狂喜乱舞状態で手がつけられない様になっている。鼻血や涎を垂れ流しながら、笑うノルンをカメラに収めているのだ。誰もがどん引きであった。

 ノルンはそんなメリルを見ても、全く気にも留めず傍でにこにこと控えるだけ。

 今は膝の上にフィン。両脇に鈴音とノルン、背中にティナといった両手に花というか身体に花といった状態であった。

 ラグナ達が到着したことで、宴は一時中断となった。にもかかわらず、透の膝にはフィン。両脇にはノルン、ルーナとルーナが離さないため離れられないステラ。後ろには鈴音とティナが抱きついている。

 内容としては真剣なものであるはずだが……透達を見てにやにやしているラグナ。豹変した娘に目を丸くしているスルド。今にも血の涙を流しそうなほどこちらを睨みつけるソルガ。無表情で涙をハンカチで拭いている真似をしているジークリンド。そして、こちらの様子を肴に盛り上がる女性陣。透達の様子も相俟って、一向に真面目な雰囲気になりそうもなかった。


「さて、今回の演習に勝ったことで……いや、君達の力を見せたことによって、世界は君達に従わざるをえなくなった。何か御用命はあるかい?」


 ラグナはおどけながらも真剣に聞いてくる。彼に対する回答は決まっていた。


「何も。強いて言うなら俺達の暮らしを邪魔するな。これだけかな」


「そうだな。われとしては透達と一緒にいることができるのならば、特にこだわりはないな」


 ラグナはそれを聞いて、幾分かは安心ともがっかりとも思っているようだった。

 透としては、そういうことを期待されたとしても困るのであった。透にとって世界とは自分が楽しむための娯楽の一つでしかない。あった方がいいとも思うし、できるだけ協力はするが、究極的にはどうでもいいのだ。

 さらに、世界を手にするのも英雄になるのにも全く興味はない。あくまで、それは彼女達と居るため、もしくは出会う為の過程に過ぎないと思っている。目的は既に叶っているのだ。透にとってはこの目的は至上であるので、他の余分な要素には興味はさほど持てないのだ。彼は他人の願いを叶える悪魔であるが、契約を結ぶ相手がいないのであれば、こうしてフィン達と戯れるのが、彼の生き甲斐なのである。

 透には神として世界を導く義務があるのではないかって?

 透――創造神としての人間に対する管理方法は、放置主義なのである。世界が壊れてしまうような事態にでもならない限りは、彼は人間には何もしない。人間の選択の結果として滅ぶのならば、彼は救済などせずそのまま見捨てる。

 なぜなら、彼は人間は勝手に幸せになり、不幸になる自分勝手で面倒な生き物だと思っている。いくつかの世界で透の力を借りた人間が、世界平和を実現しようと人間を管理したり、人々が望む神の真似事をしたりしたが、いずれも管理社会からの脱却、幸福を退屈だと切り捨てたりなど、感性が多種多様で移ろいやすい人間達はいつまでたっても、どれ程手を尽くしても満足する事はなかった。

 それらの結果から、彼は人間を管理するには、世界の滅亡にだけ気を配り、それ以外は人材を適所に配置したりなど、人々に気付かれないように裏から婉曲に手を回して自分達で世界を維持させるのが、人間を管理する最適の方法だと導いたのだ。

 ぶっちゃけると、彼は管理が面倒なので働きたくないのである。


「少し残念な気もするがね……君達がそういうなら出来る限り従おう。それと……今回和平が正式に決定したことで、カノンフィールとガイアノーグはある証を立てるそうだよ。受け取ってくれないかな?」


 ラグナはスルドとソルガをにやにやと意地が悪そうに見詰めている。

 その視線を受けた実に複雑そうな表情を浮かべている。


「カノンフィールは、友好の証としてカノンフィールの至宝である、ノルン=ベルウルドを君の婚約者とする」


「同じくガイアノーグは、友好の証としてルーナ=ドラニコルを捧げる」


 それはいわゆる政略結婚であった。今まで仮であったものが、今回の事で正式になったのだ。

 ノルンの方を見る。


「不束者ですが、これからもよろしくお願いします……あなた♪」


 にこりと笑って擦り寄ってきた。

 ルーナの方を見る。


「よ、よろちくおねがいしましゅ」


 緊張のあまり噛んでいるようだが、彼女もこうすべきと思ったのか擦り寄ってくる。


「嫁が五人になったな♪」


 フィンもにぱっと、邪気もなく微笑んでいらっしゃいます。


「といっても今まであまり変わらない気もするけどね」


「わらわをこれからも存分に可愛がってたもれ」


 鈴音とティナも忘れちゃ駄目だよと、ぎゅっと抱きついております。


「ちくしょー!! 祝杯じゃー!」


 自棄になったのか浴びるように酒をがぶ飲みしていらっしゃるお方もいます。

 

 


 政略結婚ではあるが、透は彼女達とはこれからも一緒にいたいと思っていたところだ。

 ――だから、言うべきことは一つだけ。


「これからも一緒にいようか」


『うむ(うん)(はい)(ええ)』

 

 ――これからも騒がしくなりそうである。



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