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無職の悪魔  作者: 陽無陰
第四章 比翼連理
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4-1 幾度の夜を越えて

 鈴音は深呼吸し、自らの精神を鎮める。

 今日の訓練は鈴音の戦闘スタイルを確立するために行われるのであり、攻撃面だけを集中してやることに決定した。


起動(アクセス)、〈転生〉」


 鈴音の腕輪が輝き、腕輪が先端にあるクリスタルが特徴的な彼女の身の丈ほどある錫杖に変わる。

 鈴音はそれを前に立て、地面に突刺し意識を集中させた。

 鈴音の前方に的が出現する。

 的を意識の片隅に置きながら、自分の内にあるイデアを加速させ、身体の外側に出し、エイドスに変換する。

 エイドスは球状の形となり、衝撃の作用魔法が付与される。エイドスの球は弾丸となり、的に射出される。エイドスの弾丸が当たった的は砕け散り、次の的が次々と出現する。

 鈴音はエイドスの弾丸を衝撃だけでなく、時には炎、水、氷、雷、風と多種多様に変化させながら的を破壊する。

 そして、止めとばかりに地面を槍状に隆起させ、的を貫く。


「ふう」


 鈴音は訓練が終了したことで一息つき、見守っていた者達の方に振り向いた。


「終わったよ~」


「うむ。御苦労さま」


 フィンは労い、ドリンクを渡す。

 鈴音はそれを喜んで受け取り、喉が渇いていたのかすぐに口にする。


「どうだった?」


「悪くはなかったぞ」


「そうですね。少しエイドスの変化や標的を選ぶ速度が遅い気もしますが、まだ始めたばかりですから仕方ありません」


「はい。後は慣れですね」


「そっか。よかった」


 三人に褒められたのが嬉しいのか、鈴音ははにかむ。


「でも、やっぱりアースフィアの魔法は使いどころが攻撃面では難しいね」


 透は全てのデュナミスを比較した結果、やはりアースフィア特有のデュナミスは攻撃力がないことを指摘している。


「そうだな。大抵は我らのデュナミスで事足りるからな。サポート、意表を突く以外の事では使用しないだろう」


「そのデュナミスだけなら話は別だろうけどね」


「やっぱり、使いどころが難しいかな~」


「それを探るための訓練ですし、気長にやるしかありませんね」


「いざとなれば、わらわ達のレコードを貸し与えるので、そう気負う事はないぞ」


「うん。でも、できるとこまではやってみるよ」


 鈴音の訓練を終え、この日の訓練は終了となった。

 尚、透は余りにも能力が低すぎて、落第生として扱われていた。


  ** *

 

 訓練を終えた後、ルキに知らされた内容は、一月後にカノンフィールとの演習が行われるということだった。


「それはかまわんが、演習の相手は誰なのだ?」


「フィン様と透様の二名のみになります」


 明かされた内容は、通常なら考えられないほど酷いものであった。

 死地に行ってこい、といわんばかりの内容にフィンは慌てふためくことなく常と変わらない様子だった。


「われと透ならば誰にも負けはしない。いくらでもかかってくるがよいぞ」


 胸を張り、臆することなくフィンは言い張った。


「えっと……いいの?」


 内容が内容だけに不安なのだろう、鈴音は心配そうに透とフィンを見た。


「うむ。安心してわれらの勝利を待っているがいい」


 何も心配はいらないと、不安がる鈴音をフィンは勇気づける。


「フィンちゃんがそういうなら……うん、応援してるね!」


 やはり不安はあるだろうが、フィンがそういうならと、表情を一変させ、明るい雰囲気でフィン達を応援する。


「うむ、わらわは悠々と婿殿の活躍を見るとしようぞ。頑張ってたもれ」


 ティナは不安の影を一片も見せず、透達の勝利を微塵も疑っていない様子を見せる。

 そんな二人とは対照的にノルンとルーナの雰囲気は暗く、ただ何か葛藤があるのか口を噤んでいた。

 透達は彼女らに何も言わず、ただ彼女達が話してくれるまで待つことにした。


  ** *

 

 今日の訓練は防御に徹し、攻撃を防ぐことに決定した。

 鈴音は向かってくる光の弾丸を、緩衝の作用を込めたエイドスで防ぐ。

 防げば次々と襲ってくる攻撃を、ヴィレスで強化した身体で避け、迎撃し、ノエシスで地面を隆起させ盾にしたりと、デュナミスの訓練であることを意識して様々な防御法で防ぐ。


「よし。終了だ」


 フィンの合図で鈴音は緊張の糸が途切れ、地面にへたりこむ。


「お疲れ様です」


「ありがとう」


 ルーナがタオルとドリンクを渡し、鈴音に一息つかせる。


「大分良くなってきたな」


 フィンが鈴音のここ最近の上達ぶりを褒める。


「そうですね。少し気になることがあったのですが、いいですか?」


「ん、何?」


「時折エイドスが遅くなったり、ノエシスで隆起した地面が破壊されたものとされなかったものがあったのですが、あれはなんですか?」


「あれはノエシスでエイドスに干渉して速度を遅くしたり、地面の盾の強度を上げたりしただけだよ」


「なるほど。防御やサポートには向いているかもしれませんね」


「そうでもないよ」


 透はノルンの認識が少し足りていないことを指摘する。


「ノエシスは基本的に存在しているものにしか干渉できないんだ。だから相手が攻勢に回り、攻撃してきたとしても、相手のエイドスに干渉するには、どうしてもエイドスを認識してからしか干渉できない」


「つまり、彼我の距離が近くなればなるほど、不利になるということですか?」


「うん。ノエシスは無機物に干渉するのが基本だけど、有機物に干渉できない訳でもないんだ。ただ、有機物に干渉するには莫大な量のヒュレーが必要で、基本は不可能だ」


 ノルン達はノエシスに関する透の説明を聞き逃さないように耳を傾ける。


「以前、ノエシスは物体が辿る変化に限るといったけど、それはその方がヒュレーの消費が少ないからこそなんだ。だけどヒュレーの消費を度外視すれば、その限りじゃない。例えば、空間を指定してその空間を通過する物の速度を変えたり、石を炎に変えたりとエイドスのように指定した状態に変えることは可能だよ」


「その点は私達と同じようですね」


「しかしながら、ノエシスは使う機会が極端に少ないのぅ。空間のそれに関しては、わらわ達のエイドスで事は足りておるしな」


「うん。基本的に、俺達が扱うデュナミスは根本的に同じだしね。そう大きくは変わらないさ。ただ、ヒュレーがイデアに染められていないのは、これから色んな活用法が出てくるんじゃないかな?」


「なるほど、たしかにそれはその通りですね」


 色んな事に合点がいったのか、ノルンは何度も頷く。


「そのあたりはボク達の獣化でも証明されます。あれは自分のイデアと周囲のヒュレーを同化させ、纏うものですから」


「そうなんだ?」


 はい、とルーナは首肯する。


「兎にも角にも扱うものは一緒なのだ。ならば、後は慣れるまで練習あるのみよ」


 フィンの言葉に透達は頷き、訓練を再開した。ちなみに、透は鈴音と同じように訓練を行ったのだが、練度が低いためエイドスをその身に受けることとなり、ティナ達から的として扱かれる事になったのであった。ちなみに、無傷である。



「ところでさ……」


「む、なんだ?」


 透は前から疑問に思っていたことを聞いてみることにした。


「服って高速移動した時とかに破けないの?」


「破けないぞ。破けるとしたら、外部から強く干渉された時だけだな」


「どうして?」


「われらの服はいつでも不測の事態に対応できるように、着ている人物とラインを繋ぎ、本体と一体化し、同等の防御力を得られるナノマシンが内蔵されているのだ」


「確かに高速で動く度に、裸になっていくのはあれだしね」


「その通りだ。誰も素っ裸で戦おうとは思わぬ。……ところで、透よ」


「ん、なに?」


「御奉仕する時の衣装で、好みのものがあれば遠慮なく言うがよいぞ」


「最近凝ってるよね?」


 そうなのだ。最近、フィン達はルキの薦めやメリルの裁縫の練習の為か、様々な衣装で透に迫っている。


「当然だ。透には色々な衣装で飾ったわれを見てほしいからな。……興奮したらいつでも襲ってもよいぞ。いや、むしろ襲え」


 メリルの練習やルキの悪ふざけで、普通の衣装から際どい衣装まで多種多様に押さえているのだ。透以外には際どい衣装を見せはしないのだが、見せられている立場としては堪ったものではなく、彼女達も乗り気なので襲うことは結構ある。


「そうだね。楽しみにしているよ」


「任せておけ! メロメロにしてくれようぞ」


 もうなっている気はしないでもない透であった。


  ** *


 演習があることを知らされた数日後の夜、透とフィンの元にノルンとルーナが訪れた。


「こんな夜更けにどうしたの?」


 二人はその訳を話そうとするが、言葉にならないのか何度も閉口する。

 そんな二人の緊張を解そうとしたのか、フィンは二人をからかう。


「なんだ? 二人とも混ざりに来たのか? われとしてはかまわぬが、初めての時は二人きりの方がよいのではないか?」


『ち、違います』


 フィンの軽い冗談を聞いて、二人は耳まで顔を赤く染めるが、それで緊張がほぐれたのか、ゆっくりと深呼吸して訪れた真意を話した。


「お二人は演習の意味を分かっていますよね?」


 ノルンが切り出した話題に二人は分かっていると頷く。


「もし、お二人が負けるようならば和平は崩れかねません。お二人は勝算があるのですか?」


 ノルンの迷いを晴らすかのような、真っ直ぐな声でフィンは答える。


「安心するがよい。われらは負けはしない」


「私はあなたの実力を図った結果、私を含む複数ならば打倒は可能と答えました。今回の演習が行われるきっかけになったのは私です。そして、あなた達の演習の相手に、私が含まれています。それでも勝てると思いますか?」


 ノルンは己の実力を過信も過小評価もしていない。ただ、冷静に相手との実力差を図っただけだ。

 フィンもノルンとの対戦で、彼女の言葉が間違っているとは思っていなかった。

 ――それでも。


「大丈夫だ。われ一人ならノルン殿の言うとおりになるだろう。だが、われには透がついておる。ならば、絶対に負けはしない」


 ただの一片も迷いなく言いきるフィンに妄信かと思うが、彼女がそのような愚か者ではないことはこれまでの過ごしてきた日々で感じ取っている。……透のことを度外視すればの話ではあるが。

 だけれども、彼女の言葉を信じてみたいと思う心がノルンにはあった。だからそれに従うことにした。


「相手をする私がこういったことを言うのもなんですが、私はあなた達に勝って欲しいと思います」


「ボクもそう思います。ボクはこれからも君達と過ごしたい」


「私もあなた達との生活を気に入っているのですよ」


 二人はこれを言うために部屋を訪れたことが透とフィンにも分かり、彼女達の願いに応えるべく力強く二人に首肯する。


「大丈夫だよ。俺達は負けない」


「透の言うとおりだ。……負けてしまった時は勝つまでやるか、皆で逃げればよい」


 フィンの逃げるという言葉に透は苦笑するが、透にとってフィン達といることが何よりも優先されるのでそれも悪い気はしなかった。


「そうだね。それも悪くない」


 ノルンとルーナはいつも通りの二人に胸のつかえが取れたのか、顔を見合わせお互いに苦笑する。


「二人とも言いたいことはそれだけか?」


『はい』


 フィンの問いに二人は部屋を訪れた時よりも、段違いに明るく答える。


「よし! それでは、六人で一緒に寝ようではないか! もちろん、皆裸でな!」


 フィンが言った言葉に透は一瞬惚ける。


「はい? 何言ってんの?」


「なに、透は未だに三人とは最後までしていないのであろう? 三人の事情を慮れば無理はないのだが、いい加減に先に進むべきだ。これは、その第一歩よ」


 ノルンとルーナも思考が追い付かないのか二人とも惚けている。

 フィンは反対意見がないと思い、鈴音も誘うべく部屋を飛び出した。


「えっと……いいの?」


『……………………』


 透の問いに二人は何も答えない。

 沈黙が続く中、フィンと鈴音、ティナが共に部屋の中に入ってきた。

 その後、どうなったかは六人だけが知っている。


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