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無職の悪魔  作者: 陽無陰
第三章 学園都市アカディア
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3-1 各世界の寮長の噂


 混乱に満ちた入学式が閉会され、生徒達は皆各々の割り当てられた教室に行った。

 透達は式が無事に終わり、来賓をラグナ達が見送りに向かったのを確認すると、割り当てられた教室ではなく生徒会室に向かおうとした途端、どこからか耳障りな声がしてきた。


「は~はははは! 天よ知れ! 地よ知れ! 人よ知れ! 王たる我が名を刻めぃ!!」


 声の出元を確認すると、男性と思われる人物が腕を組み、凛とした立ち姿で講堂の屋根に立っていた。

 フィンがうわぁ面倒くさい人物が現れた、と顔を顰めている。

 透がフィンに誰か知っているのかと尋ねようとすると、件の男性らしき人物は、トゥと擬音を口に出し、ふははははは、と叫びながら屋根から飛び降りる。


「へぶし!」


 彼が飛び降りている最中、横から高速で飛ぶ光の弾が彼を弾き飛ばし、うわぁぁぁという悲鳴と姿と共に彼は遠ざかっていたのだった。

 透は何だったんだあれは、と疑問が湧きあがるが、その疑問が晴らされないまま変な人物が姿を現す。

 次はシャラランと華やかな背景音が流れ、薔薇の花吹雪の中をまるで薔薇のような真紅の長い髪を三つ編みに纏めた、鋭利な雰囲気を持つ美女が悠々とこちらに歩いてきた。


「何をやっておられるのですか、姉上」


 美女の正体はフィンから明かされた。姉という驚きの事実に、透達は驚愕した。


「知れたこと。初登場というのは、印象に残るべきものでなくてはいけません。なので、こうして優雅に参上しただけのことですわ。おーほっほっほっほ!」


 甲高い声を響かせながら、彼女は胸を張る。


「それで? 背景音と花吹雪はどこから見つけたのですか?」


「アースフィアで面白いものがないかと漁っていたところ、面白いものがあったのでそれを再現してみましたの。ちなみに、花吹雪は従者のデュナミスですわよ」


 フィンが何やら落ち込んでいる。


「兄上を飛ばしたのも姉上ですか?」


「ええ。(わたくし)の登場シーンを邪魔しようとしたものですから」


 二人のキャラの濃さに、透達は驚きを隠せなかった。

 フィンが影を背負いながら、紹介したくないがしなければならないと、苦虫を潰したような表情で透達に向き直った。


「……紹介するぞ。こちらはわれの姉上で」


「ローゼリア=L=ヴェルディンですわ。ローゼリアでもローズでもお好きに呼んでくださいな」


「……それで何の用ですか?」


 関わりたくないのか、フィンは憮然としている。


「妹の夫となる男の顔を見に来ただけですわ」


 ローゼリアが値踏みするかのように透の顔を見定める。

 透は探ってくるような視線に臆することなく平然とする。


「……何か文句でも?」


 今にも喧嘩を売りそうなフィンを気にすることなくローゼリアは返答する。


「いいえ、何も。私は美しいものを好みます。仔細はどうあれ、私は己を貫き通すならばそれを美しいと思います。なので、文句は言いません。……ですが、私のような者ばかりではないと知っておきなさい。あれも少なからず不満を抱いているからこそ、ああして登場しようとしたのだから。……目立ちたかったのもあるのでしょうが」


「そのようなことは既に覚悟の上です」


 フィンはローゼリアを毅然と見返す。


「ならばよろしくてよ。では、皆さま。また会いましょう! おーほっほっほっほ!」


 登場した時と同じように背景音と共に花吹雪が舞い散り、ローゼリアは堂々と去っていった。


「派手な人だったね」


 鈴音の言葉は透達の心の声を一様に示していた。


「悪い人ではないのだ。……ただ姉上といると疲れるのだ」


 透はフィンの言うことがわかる気がした。

 気を取り直せと頭を撫でてみる。フィンは当然、抵抗することなく受け入れる。

 しばらく撫でていると気を取り直したのか、生徒会室に向かおうと元気に言ってきた。


「そういえば、最初のあれはなんだったのでしょうか?」


 ノルンが思い出したかのように指摘すると、フィンは石化したように固まり、ぎぎぎと緩慢に振り返りながら、


「あれは気にするな。これから嫌というほど思い知るのだから」


 フィンは不吉な言葉を残して、沈黙を保った。


  ** * 


 透達が割り当てられた教室ではなく、生徒会室に向かったのは必要ないからであり、また無用な混乱を避けるためである。

 入学初日である今日は、ここに不慣れな者達の為に日常生活、学校生活に関するガイダンスが行われる予定になっている。透達は既にそれらの項目に対して目を通しているので必要なく、その旨を担当教師に伝えている。

 ちなみに、担当教師の役目は出欠の確認、及び連絡事項の伝達ではない。そのようなことはここに来る時に付けたヴェリングにその機能が付随されている。では、何のためにいるのか。 

 それはヴェリングの機能のわからなかった部分の説明、教師との連絡の指標等といった、いわば案内役が担当教師の役目だ。

 正直に言ってしまえば、生徒会――いや、透達は授業を受ける必要はない。 なぜなら、透とフィンの存在でこの学園が成り立っている以上、退学になることはない。

 透達の役目は、この学園を運営するための生徒達の纏め役である。同時に、今は理事長達がこの都市の運営を任されているが、将来的には透達がそれを担うことになる。それに慣れさせるため、徐々に仕事を任されることになっている。

 故に生徒会の仕事と都市の運営のアシスタントが透達の役目であり、授業はおまけ程度でしかない。とはいっても五界の知識を得るため受けなければならないが。

 透達が生徒会室に来たのは、今後学園の運営を担うメンバーとの顔合わせのためだ。具体的には寮長などといった各世界の責任者、男女合わせて計十名。メンバーは各世界が選ぶことになっているので、少なくとも強い権力を持つ者の縁者だろう。推測ではあるが、ローゼリアが言った『また会いましょう』といったセリフ、あれはこの事を指していると思われる。王族であればその条件を満たすし、妥当ではあるからだ。

 メリルが入れてくれた紅茶を飲み、雑談しながら相手が来るまで透達は暇を潰すことにする。

 ちなみに、メリルは学園の生徒ではない。従者を連れてきているのはノルン達だけではないが、生徒としての条件を満たす者に限られているし、その者達は主とは違うヴィンクルムに入ることになっている。

 基本的に、生徒とみなされない従者は許可なく都市に入ることは叶わない。メリルは数少ない例外であり、透達の手伝いにのみその労力は注がれる。 


「そういえば、誰が来るか知ってる?」


 透達は過ごした月日の中で役職や役割など組織的なものは簡単に教えられたが、誰が就くかはまだ教えてもらっていなかった。


「われのところだと兄上とさっき会ったローゼリア姉上だな。この二人はヴェルディン寮の各寮長を兼ねておる。ローゼリア姉上は強さもそうだが、臣下を大事にする方だ。上手くやってくれるだろう。兄上の方は……」


 フィンは沈痛な表情を浮かべる。その表情が先ほどのあれと重なったので、そうなのかと聞いてみる。


「そうなのだ。正直言うと、あれを身内だと思われたくないのだ」


「……そんなにひどいの?」


「ひどい」


 きっぱりと断言するフィン。確かにあの登場シーンからしてもまともな人物とは思えなかった。


「何故ひどいかというと、兄上はある不治の病に冒されておるのだ」


「どんな病?」


「――厨二病」


『……………………』

 



 ノルンが沈痛な雰囲気を察したのか、カノンフィールの話題へと転換させる。


「カノンフィールは、父とは反対の派閥の党首の御子息と御息女ですね」


 カノンフィールの派閥は現在、二つに分けられており、一つがノルンの父親が党首の和平に賛成派、もう一つが反対派となっている。


「父としては、できれば賛成派だけで生徒を構成したかったようですが、相手が議長でもあるので半数が精々だったそうです」


「議長の人のお子さんってどんな人なの?」


 ヴェルディンの例もあって鈴音も興味が湧いてきたのか、好奇心を隠そうとはせずノルンに人柄を尋ねる。


「そうですね……何度かパーティーなどで会見はした事はありますが、最低限の挨拶だけで個人的に親しくはなかったですね。相手は父とは派閥が異なる党首の御子息でしたし。ただ、御子息の方はカノンフィールの中でも圧倒的に人気の高い方ですから、何度も耳にたこができるほどに噂を聞きます。それらを統合すると……いわゆる王子様というものでしょうか?」


「例えば?」


「容貌が秀麗であることもそうですが、物腰も非常に柔らかく、誰とも気軽に接し、また博識で武力も優れていると評判の方だそうです。彼の立場も相俟って、彼を狙う方は少なくとも七割に達するといわれています。……私は興味ありませんが」


「恋人とかはいないの?」


「いいえ。婚約の噂は多数挙がっているそうですが、全て立ち消えています。御本人も恋人はいないと公言なさっていますし……」


「へぇ、そうなんだ」


「なんだ浮気か?」


「違うよ! 私は透君一筋だよ!」


 からかうようなフィンの言葉に鈴音はすかさず返す。

 透はそんな二人に構わずもう一人の方を聞くことにする。


「で、もう一人は?」


「彼女を一言で表すなら、ブラコンですね」


『ブラコン?』


 全員の声が重なる。


「はい。何でも彼に群がる女性は、彼女が悉く撃退しているだとか。本人もブラコンであることは隠そうともしないそうです」


「面白そうな武勇伝が聞けそうだな?」


「数多くありますよ。本人も兄と同じく容姿などは優れていますから、男に言い寄られることは珍しくないそうです。ですが、本人はいつもこう言って断るそうです」


「なんて言うの?」


 女の子の例に漏れず噂話や恋話が好きなのか、目を輝かせながら鈴音は相の手を打つ。


「『私はお兄様の妻です』だそうです」


「わぁ~!」


 鈴音達は嬉しそうに手を重ね、話の続きを待ち侘びている。


「彼女のブラコンぶりに手を焼いている方は多くいるそうですよ」


「カノンフィールでは珍しい性格だな。あそこはそういったことはほのめかしはするが、決定事項でもなければ公言するのははしたないことだという風潮があるであろう?」


「そうなんですよ。ですから、カノンフィールでは彼女は問題児とされているのです」


「彼女とは面識あるの?」


「はい。……ですが、私は嫌われていますね」


「どうして?」


「なんでも『お兄様を奪う泥棒猫』だそうです。おそらく彼女は、彼と私が婚約する可能性が高いと踏んでいるのでしょう。父達が対立する立場はではありますが、だからこそその解消のために婚約させるという可能性もありますから。父もそんなつもりは毛頭ないでしょうし、それに……」


 ちらりとノルンは流し目で透を見る。


「私には透様がいますし……」


「ノルンちゃん綺麗だもんね~。他には?」


「彼女についてはそれくらいですね。対立しているため情報が手に入りにくいのもありますが、ブラコンが目に付きすぎて、他が霞んでしまっているんですよね。ただ……」


「ただ?」


「彼らは寮ではなく、近くに家を建てそこに一緒に暮らすそうです」


「寮長なんだから寮に住むんじゃないの?」


「寮長ではあるようですが、寮には住まないそうです。寮内部の事に関しては親しい者に任せるそうです。彼らには他にもやる事があるので、寮では手狭で何かと都合が悪いとのことなので家を建てるそうです」


「そうなんだ~」


 フィンが何やら真剣な声で透に話しかける。


「浮気か?」


「何、突然?」


 何を聞くのだろうこの子は、と透は呆れた眼差しで見るが、フィンは意に介さない。


「いや、なに……妹の方を聞き出そうとしたのでな」


「話をつなげるために言っただけだよ。それ以上でもそれ以下でもない」


 フィンとしても本気で言っているわけではないだろう。すぐにこの話題を切り上げる。


「別にするのはかまわんが、我らを蔑ろにするでないぞ」


「…………了解」 



「で、ガイアノーグの方はどうなの?」


 ルーナは暮らし始めた当初は、無口なほうで会話に加わることは少なかったが、ここ最近では親しくなった故か少しずつ話しをすることが多くなった。初めの方にあった怯えは今では息を潜め、話を振られればすぐに対応するようになったのだ。


「詳しくは知りませんが、男子寮の方は龍皇族いずれかの龍種の御子息がなるそうです」


 龍皇族は獣化した際の鱗の色で種が分けられている。鱗の色は得意とする魔法の属性を表しており、種は分けられているがそれによって上下の関係となることはない。ただ一つの例外――銀龍を除き。

 ソルガが族長となっているのは銀龍が龍種の中で頂点であり、他の龍種や種族の得意とするデュナミスと同じ威力の魔法を紡ぐことが可能な存在だからである。故に銀龍が族長となるのが慣習となってはいるが、必ずしもそうではない。族長となる者が拒んだり、他の龍種で抜きんでたものがいるならばそちらに譲ったりする例がある。他の種族の纏め役を果たせるのであれば誰でもいいとされているが、やはりそんなことは稀で銀龍が族長となることが龍皇族の掟となっている。


「ただ……女子寮の方はボクの妹のステラちゃんがやることは決定事項だそうです」


「寮に住むことをよくあの人が許したね?」


 透達の脳裏に浮かんだのは子離れができない暑苦しい巨漢のソルガ。彼ならば寮に入れるのは反対しそうなのだがどうなのだろうか?


「父様は最初は反対したそうですが、母様の鶴の一声で休日は帰ることが折衷案として決まったそうです」


 やはり脳裏に浮かぶのはプリティの尻に敷かれるソルガ。尻に敷かれるという言葉と連動してあの惨劇が思い浮かび、透は尻の穴が窄む思いがした。

 あの光景を振り払うべく話を続ける。


「妹のステラってどんな子?」


「ステラちゃんですか? そうですね……すごく頑張り屋さんですよ。ただ……」


 ルーナは寂しそうな顔で、ここにいない人物を悼むような顔で呟く。


「力がボクに比べて弱いせいか銀龍の子として認められていません。ステラちゃんはそれを悔しがっていて、自分を認めさせるために頑張っているんです」


「――そうか」


 フィンも思うことはあるのだろう。そう呟き、懐かしむように虚空を見上げる。


「あの……だから、お願いがあります!」


 今までにない強さの口調でルーナは透達に懇願する。


「ステラちゃんを否定しないでください! ボクじゃステラちゃんに何かしても逆効果でしかないから皆さんにお願いするしかないんです」


 涙目になって頭を下げるルーナ。彼女の言動から察するに強き者からの憐れみと称して拒絶されたのだろう。

 彼女達が如何なる境遇にあるかは今は憶測でしか測れない。下手な同情や憐憫は傷つけるものでしかない。

 透は彼女達に対して思うことは何もない。透は自分の感情を挟まず、彼女達の境遇や感情、言動をただの情報として取り入れる。

 透に出来ることはただ全てを認め、全てを否定し、受け入れる。――ただそれだけだ。


「ルーナ。俺はお前達の事情がどうであろうと俺がとる行動は変わらない。ただ、お前達をそのまま受け入れる。――それだけだ」


「そう、そう。透君の言う通り。私達にステラちゃんを拒否する理由はないからね」


「うむ。そちらの事情にわれらまで付き合う道理はない。気にするな」


「感情的な問題か……感情で困った事があれば、アヴェルタに申し出るがよい。いつでも取り除いてくれようぞ」


「それはどうかと……少しは私達を見習ったらどうですか? カノンフィールは誰とでも表面上は仲良くなれますよ」


「それもどうかと思うのじゃ!」


 一部悩ましい言葉があったが、ルーナの妹に対し否定的な人物はいない。

透達の言葉にゆっくりと頭をあげ、


「ありがとうございます!」


 ルーナは満面の笑顔で感謝の言葉を述べる。




「それでアヴェルタはどうなるのかな?」


「引き篭もりばかりという話だが、大丈夫か?」


「安心せい、重度の引き篭もりは誘っておらん。重度の引き篭もりばかりの世界じゃが、全員が重度の引き篭もりというわけではないのじゃ。比較的軽症な引き篭もりもおるのじゃ」


「それでも引き篭もりなんだ……」


 ぼそりと呟いた鈴音の鋭い言葉に、ティナは心臓をぐさりと刺される。


「し、仕方ないのじゃ。何せ世界の住民全員といっていいほど引き篭もりが多いのじゃ。じゃから生きるには引き篭もりになるしかないんじゃ! それでじゃ、同一仮想世界で気が合った者達が、現実世界でも会おうと約束するのじゃ。その後、別の仮想世界で一緒にプレイするのが軽症の引き篭もり達の特徴じゃな」


「なんか、ネットゲームのオフ会みたいだな」


「アースフィアでいうネットゲームが、アヴェルタで唯一栄えている産業じゃしな」


「何と表現したらいいのでしょうか……ええと、そう、アースフィアでいう廃人ですね」


「おお、云い得て妙だな」


「廃人だらけの世界……」


 ルーナが零した言葉は、ティナの心を大きく抉り、それを癒すように滂沱の涙を流した。


「シクシク……わらわも引き篭もりたいのじゃ。おまえ様、後でわらわを慰めてたもれ?」


「なでなでしてあげる」


「やったのじゃ!」


 ティナの透に対する呼称は婿殿、旦那様など、相談という形で様々な案で透を含む全員で検討した結果、本人がしっくりくる個性豊かな呼称を探すという結果で事が収まり、現在は『おまえ様』という呼称が使われる事となっているのだ。 


「それでじゃ、今回学園に来ておる者達は、プレイヤーよりも仮想世界の制作者達が多いのじゃ。いうなれば、ネタ探しに来たという事かの」


「じゃあ、寮長になるのは制作の責任者?」


「うむ。人選は信頼できるアヴェルタらしからぬ者を選んだので、安心してもよいぞ。……癖は強いがの」


『え?』


 ティナの呟いた言葉に、不安を覚える一同であった。




「アースフィアはどうなのですか?」


「知らない」


「知らない?」


「ああ。ある程度の予測はつくけど、候補が多いから絞りきめない。……鈴音、何か聞いてる?」


「何も聞いてないよ」


 ノルンから呆れているような気配がするが、本当に知らないのだ。全世界から注目を浴び、アースフィアでも一躍時の人になったことはあるが、煩わしかったので元から世間から隔離された環境で透達は過ごしてきたが、さらに隔離された環境で過ごす事になったのだ。

 アースフィアにとって透達は駒の一つにすぎず、指し手としては見られていない。

 学園都市アカディアのアースフィアの理事は、風音ではなく国連から選出された人物だ。もっともその人物にしても学園都市アカディアの他の世界の理事、つまりラグナ達の許可が何をするにも必要だし、アースフィアでも精々調整役、いや窓口にしか利用されていない。

 風音はアースフィアの、いや共同研究に携わった重要な研究員として、四界の魔法の共同研究に関わっている。

 その研究内容はアースフィア側に情報が流されることはなく、四界のみに留まっている。

 風音はそれ故、双方に重要人物として認識されている。

 彼女を確保しようとアースフィア側は動いているが、四界はそれを当然のごとく察知しており、彼女の身柄はここ学園都市アカディアに移されており、手を出すことは叶わなくなっているのだ。

 本人としてはそのことになんら不満はなく、むしろ鈴音と魔法の研究に労力を注げると喜んでいる。

 そういう背景があるので、アースフィア主要国の重要人物の子供であると告げると、三人は痛烈な皮肉と共に返答してきた。


「そういえば父が言っていましたね。彼らはいちいち決定が遅いと」


「ボク達の方でも問題になってました。父様なんかはそのことにイラついては母様に怒られてましたし」


「こちらでもそうだな。われらにとっては透と鈴音と風音以外はどうでもいいのだ。そのことをまだ認識していないのではないか」


「実に効率の悪い社会構成なのじゃ」


 四者四様の皮肉に共通しているのは、アースフィアの意思決定の遅さだ。

 出身世界ではあるが、彼女達の言うことは的を得ているので、透と鈴音は肩を竦めただけで弁護は一切しなかった。


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