プロローグ
「嫌だ! われは離れんぞ! われはこのままこの男の妻となるのだ!」
少女は周囲の咎める声も聞かず、少年を絶対に離さないとばかりにしがみつき、少年と共に過ごし、少年の妻になるのだと声高に主張している。
「しかし……」
「聞かぬ、聞かぬ、聞かぬ! 夫から離れよという言葉を誰が聞くものか!」
少女を諌める声も少女には届かない。それも当然であろう。この可愛らしい暴君は、何者にも従わせる事ができないほどの力を有しているのだ。そう彼女が抱きついている少年を除いては……。
そんな少女の我儘に困り果てた周囲ではあったが、ある一人の大人がある提案をもたらす事によって少女の気を変えることに成功した。
「では、こうしよう……もし、君が世界を征服する事ができれば、君の願いを叶える事ができる箱庭を用意しよう」
「…………」
この提案には少女も聞く耳をもったのか、少年にこの提案はどうかと少年の顔色を窺う。
少年はその提案を了承するかのようにニコリと笑う。
その少年が乗り気であるのを確認すると、少女は暫し迷うように顔を歪ませたが、決心がついたのか、少年から離れると世界に宣告するかのように声を張り上げた。
「よかろう! これよりわれは世界を征服する事にする。全てはわれの新婚生活のために!」
少女は名残を惜しむかのように少年に抱きつき、別れを告げるキスを送ると、少女の関係者達と共に姿を消した。
その数年後――
「どうだ! われは世界征服したぞ!」
成長した少女は、少年の前で世界征服完了を宣言したのであった。