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ラのベル! 〜奈落の魔女と邪眼の所持者〜  作者: DF946
奈落の魔女と《ディアヴォロ=シュヴァルツ》  ーー〔上〕
22/41

8


 田村は会議室の扉を開け、外の廊下へと出てきた。捜査会議中に突然鳴り出した携帯電話を耳にあてがい、忸怩たる思いでその場から立ち去る。電話越しからは、なにやら興奮した野々瀬が早口で捲し立てていた。

 「なんだ、今会議中だぞ。デパートの爆破事件があってから署内中大わらわなんだ」

 『それについてなんです! 今日起こった事件も全部、その爆破事件の犯人と同一犯の仕業です!』野々瀬の声が喚き散らす。

 どういう事だ?

 「なぜそう言える」

 『詳しくは説明しづらいんすけど、とにかく凄い事が起きてるんです! ネット上で祭りになってますよ! 犯人は小説の内容をそのまま犯行に移しててるんです!』

 「まつり……? どういう意味だ?」

 『模倣犯ですよ! 小説の中で起こる殺人どおりに犯人が事件を起こしてるんです!』

 田村は理解するのに一拍かかった。

 「……何かの小説と同じ事件が起きてるんだな?」

 『完全に同じ内容ですよ! 時間も死体の様子も今のところ百パーセント一致してるんです!』

 「待て、待て、それはどこで手に入れた情報だ。なんていう小説なんだ」

 熱を帯びていた野々瀬の声が少し落ち着いた。

 『それは……あの、所謂ライトノベルってやつなんですよね。テレビで見たニュースをネットで調べたら、たまたま今読んでた本とその事件の内容が酷似してたんです』

 「という事は今、その本が手元にあるんだな?」

 『はい』

 「それなら次にどう事件が起こるか予測出来るってことじゃないか!」田村が言った。「その話で次に何が起こるのか教えてくれ」


                *


 「えっ……でも、あの、まだ全部読み終わってないんですけど……」

 『大丈夫だ。ビルの爆発した後で次に人が死ぬ所まで読み飛ばせ。犯人は絶対にもう一人殺す気だ!』

 電話の向こうから田村刑事の提案がはっきりと突きつけられた。

 マジかよ。まだ読んでる途中なのに。

 「でも前後の文章読まないと、どういう状況なのか分かんないですよ」

 『いい、分かる所までの情報が欲しい』

 往生際の悪い最後の苦言も虚しく退けられてしまった。

 「はい……じゃあ……」

 野々瀬は渋々左手で本を開いた。栞にしていた帯を挟んだ所からパラパラとページを捲っていく。と、一枚、挿絵になっているページが目に留り、野々瀬は虚を衝かれて手が止まった。

 白と黒のドレスのような服を着た女の子の後ろ姿が、無数の攻撃を受けズタズタに切り裂かれているイラストだった。

 (うっわマジか、最悪だ。酷いネタバレだ)

 野々瀬はショックを表に出さないよう田村刑事に伝えた。

 「だ、誰か死にます。たぶん女性の方が、マシンガンか何かで撃たれるのかと……」

 『分かったありがとう。もっと詳しく知りたいんだが、その本の作者の連絡先を教えてくれ。今そっちで調べられるか?』

 「あ、はい」

 (……それ、いい考えだな)

 野々瀬は本を置いてキーボードを叩きながら応えた。

 「確かこの本の作者も丹代市に住んでるはずですよ。話の舞台が丹城って字が変わってますけど、丹代市がモデルになってるんです」

 野々瀬は検索をかけると、フェイスブックから竜太郎04の居るスタジオの住所を見つけた。


                 *


 『住所ありました。丹代商店街の方のすぐ近くですよ。今コピペしてメールで送ります。……メールの開き方、分かりますか?』

 「ああ、たぶん。この真ん中の所押すんだろ? あ、違う。手紙のマークか」

 田村は普段押さない左上のボタンを押した。

 『それですね。もうすぐメール行くと思うんで、下行って〝受信ボックス〟ってとこ押すと出てきます』

 「あぁ……分かった。で、その本の題名なんて言った?」

 『えっとー……ディアヴォロ・シュヴァルツですね』

 「ディアボロ……」

 『ディアヴォロ・シュヴァルツです。作者の名前と本のタイトルも送っときます』

 「分かった。じゃあ、また何か分かったら連絡してくれ」

 そう言って電話を切ってもらった田村は会議室の前を横切り、自分の車に向かっていった。

 


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