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黒いヘルメットの中で、〈彼〉はゆっくりと目を開いた。
閃光が止んだ後でも、まだ目が部屋の明るさに慣れない。《ヴァルクーアの魔兜》のヴァイザー越しでも目を瞑ってしまう程、その光量は凄まじかった。
〈彼〉は漸く壁から背中を離すと、個室の外へと歩み出た。
広間の中は、さっきまでの乱戦が嘘であったかのように何も無くなっている。
そこに立っているのは、黒い仮面を被った〈彼〉だけだった。
なにも無くなっているとは言っても、部屋の内装には傷一つ付いていない。先程の爆発は爆弾の様に周りの物を焼き尽くすような破壊的な物とは違う、結界内にある物を魔法陣ごと消し去る、空間を抉り取るような〝消滅〟なのだ。
『彼』は広間の中心ーー黄色く光る小さな魔法陣の側まで歩いて行くと、床の上で光る金色の槍を見て立ち止まった。
《邪心の槍》…………さすが《神託の戎具》の一つだ。《空間消滅》にも耐えられるとは。
〈彼〉は鈍く光る重たい槍を持ち上げ、肩に乗せた。
さっきの戦闘に割り込んできたあの悪魔は、跡形も無く消え去ってしまったらしい。
なんだったのだろう、彼奴は。
待ちきれなくなった彼女が手を出そうと、召喚して寄越したのか?
早くしないと。魂の対価が手に入らなければ、この計画そのものが瓦解に終わってしまう。
〈彼〉は誰もいなくなった室内を見渡した。
エルゼも、消されてしまったのだろうか……
〈彼〉は上を見上げるとーー仮面の中で小さく笑みを漏らした。
天井には、大きく穴が空き、そこから群青の空が広がっていた。