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ラのベル! 〜奈落の魔女と邪眼の所持者〜  作者: DF946
奈落の魔女と《ディアヴォロ=シュヴァルツ》  ーー〔上〕
12/41

7


 なんだよアレ! 何なんだよ!!

 ありえねえだろ! 狂ってる! こんな事があって堪るか!!

 俺の目の前で、先生が……死んだ!?  殺されたんだろ!!  

 おかしい、こんなの。絶対おかしいって……そんな事。有り得ない……

 「はぁ、はぁ……」

 息を切らしながら、ようやく立ち止まって両膝に手をついた。

 もう女は追って来ない。金髪の方が足止めになったのか。

 脇腹が痛い。一日に何度も全力疾走したせいで走り疲れた。それより膝が痛い。準備運動も無しだったからか、くるぶしも痛い。正気を取り戻すにつれて、全身に痛みが広がって行くのを感じた。

 まだあの匂いがする。先生の焦げた死体の匂い、これは一生消えそうにない。

 なんだったんだ、あれは、あそこで起きた出来事は一体……

 まさか、あの金髪のボウガン女が言ってた……《魔女》って……

 ほんとに……


 ーーおい、待てよ。


 理性の声が聞こえるーー


 んなことあるかよ。奈落アビスの魔女が先生を殺したって?

 お前ちょっと冷静に考えてみろよ。絶対ぜってーありえない事じゃん。この世界は本当は異世界と隣り合っていて、平凡な毎日からある日突如として戦いが始まるとか。やっすいラノベじゃねえんだからさ。炎の魔法とか、何その中二設定。

 落ち着きを取り戻すに連れて、頭が冴えてくる。

 ちょっと現実的に考えてみればあんなん十中八九有り得ないって証明できるじゃないか。

 まず、あのちっこい槍を巨大化させた事、あれは……

 そうだよヘルメットのやつ、アイツなんで居んだよ。って事はヘルメット男(アイツ)がなんか隠してたんだ。

 違う、俺たちの視線をアイツに向けさせる為だ! 

 アイツが槍のキーホルダー取り出してる間、俺たちが気を取られている隙にドレス女の方が本物のデカイ槍を取り出す。ーーきっと背中に隠してたんだろう。

 急に肥大化したように見えたのは多分……あれは絵だったんだ(・・・・・・・・・)

 薄っい透明な板プラスチックのプレートにあらかじめイラストを貼っておき、俺たちの方には〝淵〟を見せていたんだろう。

 プレートの厚さは数ミリしかないから、ある一点(俺たちの方向)から見ると極端に細く、あるいは完全に見えなくなる。

 勿論その時、俺らは完全にヘルメ男の動きに意識が向いてるから、そんなもの視界に入るはずがない。まさにアウト・オブ・眼中。その為に目立つ金色の槍を使ったんだ。

 女は槍のミニチュアを受け取った後、槍のパネルをこちらに向ければいい。

 簡単な話。ただそれだけの事だ。

 相手オレたちからは、それが一瞬で大きくなったようにしか見えない。観客の盲点を突くなんて、マジックの常套手段じゃないか。

 確かillusion(イリュージョン)和訳ちょくやくって【錯覚】だったよな。

 火が出たのだってそれと同じ理論だ。ドレスの女に集中してる時に、ヘルメット被った方が火の出る細工をした本物の槍と入れ替える。こんなのどっかのプリンセスもDr.もMr.もみんなやってるじゃん、同じ事だよ。


 ……じゃあ、先生が死んだのは、あれはどう説明づける?

 いや、あんなの(・・・・)こそ簡単だ。

 常識的に考えて、先生は死んでなかった(・・・・・・・・)んだよ。

 俺一人が炎に気を取られている内に、あらかじめ用意してあった焼死体模型と入れ替わったんだ。そもそもあのトリック自体、全てが先生がグルだったって考えれば一気に説明が付く。はじめに声かけてきたのだって先生の方からだったし、第一あの程度の炎で人間があんな風に燃えるかっていうんだよ。

 現実を見たらユーモアもない、即物的な仕掛けが丸出しじゃねえか。

 「はは……」だんだん笑いが込み上げてきた。

 別に夢と魔法(もうそう)の世界に浸っていたかったわけじゃないが、俺の審美眼も曇ったな。

 〝この世に論理と推理で解明できないものなんてなにも無いのさ〟って痛い台詞セリフ、オバケ出てきた時の話の最後で名探偵コナンが言ってたけど、これには同意しないといけない。

 …………。

 でも、ちょっと待てよ。

 根本的に、なんで先生がそんな事したんだ?

 あの女の人達に仕掛人として協力してたのか? もしかしたら先生が企画したドッキリなのかもしれない。

 ……だとしても、大掛かり過ぎないか?

 テレビ番組の企画にしても爆破シーンとか、丹城市にしては規模が大き過ぎる。

 しかも人が死ぬ系のドッキリって放送倫理上、大丈夫なのか?

 素人に対してのドッキリ企画も、今は絶滅したはずだし。

 それになんで〈先生〉が〈俺〉に対して、こんな奇態なイタズラしたんだ?

 もう地の文なのに疑問符溢れまくってるけど? 気にしない。

 泰田先生のクラスだった卒業生を無差別に狙ってるって言うんだったら納得出来る。

 でも、そこまで俺は先生と親しかった訳じゃねえし。どうせやるんだったら西園とか居るじゃんか。(……リアクション取れそうな奴)

 腑に落ちない点を考えてたら際限なく沸き上がってくるけど、これ以上は俺の処理能力が限界だった。

 それにもう俺は関わりたくない。さっき目にした事は早く忘れて家に帰りたい。

 

  ーーそんな事言って、本当はもう分かってるんじゃないのか?

    信じたくない真相トリックが、

    一遍に片がつく解答こたえが、もう出ているんだろ?


    ……自分が認めたくないだけでーー 


 違う、それは時期尚早だって言ってるんだ。究極の答えを出すにはまだ早すぎる。

 目先の一番単純で根本的な仮説に安易に飛びつくべきじゃない。それは推理を放棄する事と同義だからだ。

 

 俺は右ポケットからiPod touchを取り出し、パワーボタンを押した。

 今、11時48分。

 画面にはSIM48のアルバムジャケットが映っている。

 でも今はイヤホンをつける気分にはなれなかった。

 俺はガラスのドアを押し開けると、丹城駅の入り口(エントランス)に立ち入った。

 ここから早く帰宅する為には丹城駅を突っ切って、駅内のトンネルを通過するのが最短ルートなんだ。

 駅口のホールは広いが、丹城は田舎なので駅にも人はあまり多く居ない。

 構内を見渡すと、柱に凭れてケータイ弄ってる制服ガクラン不良おとこ。噂をすれば西園侘充にしぞのたくみだ。

 一日に3回も遇うなんて、非運……しかも帰り道の途中で遭遇するから気付かないふりも出来ないし。メンドくさい奴だ。

 まあいい、取り敢えず声、かけてやろう……

 「おぅ、西園……」絞り出すような弱い声しか出なかった。

 「怜士! お前、どうしたんだよ急に走り出して。何してたんだよ!」西園が驚いて声を上げる。

 「ごめん……俺にもどうなってるか分からなくなって……言葉ことはは……?」

 「メールしたけど出ない。あのあとすぐ戻ったんだけどあいつ、居なくなってて。捜してたけど見つかんなかったから今、帰ろうと思ってた。明後日謝っとけよ怜士……って、お前、どうしたんだ? 顔真っ青だぞ」西園の心配そうな顔が見えた。

 「……」

 間があいた。……なんて答えよう。

 

 「……ふざけないで、聞いてくれるか?」

 「えっ、あぁ」西園が言った。俺が真面目な顔してフザケた事言っても、対応できる用の顔だ。

 ーーーー。

 「さっき……事故があって……。ーーーーさとし先生が、……死んだ」


 「えっ?」

 西園が止まった。笑おうと準備してた顔が消えてく。

 「本当か……? ソレ、さっきって……お前、見てたのか?」

 「あぁ」俺が頷いた。会話のトーンが落ちるのを感じる。

 「どこで……事故って、何があったんだ?」

 「……」また俺は口を噤んだ。

 西園は馬鹿みたいにお人好しで、何でも人の言う事を信じてしまう奴だが、こんな事どう説明しろっていうんだ。それこそ馬鹿げてる。

 それに先生が死んだって決めつけていいのかよ。さっき自分で考えた(でっちあげた)推理と撞着してるじゃないか。

 「分からない。でも、違う……殺されたんだ。俺の目の前でーー」

 西園が眉根を寄せた。分かってる、俺の正気を疑ってるんだろ。

 「俺の頭がおかしいのかも知れないけど、俺には……ドレスを着た女が見えるんだ。さっきっから、追いかけ回されてて……。そいつが、魔法みたいに、先生を焼き殺したんだ……一瞬で……」

 そう、これが俺の触れようとしなかった究極の仮説。

 最後まで考えないようにしてた、 〝俺の頭の方が狂ってる〟 って事。

 みんなには見えてない。小6の時と同じーー

 いままで俺は、俺自身の作り出した恐怖心から逃げてただけじゃないか。

 それが答えーー


 「ドレスの女って、さっきまでお前が逃げてた、アイツ?」


 西園の声に、俺は顔を上げた。

 西園にも見えてたのか? あれは全部俺の妄想なんかじゃなかったって事か?

 俄に思考が現実の元に戻された。

 そうだよ、〈究極の仮説〉とか言って。要は楽な解釈に逃げてただけじゃないか。

 思い出せば白いドレスの人に引っ張られてる時だって、人に見られまくってた(と言うより二度見までされてた)し。暁先生も立ち止まってあの女のことガン見してた。指さして俺に知らせたのなんて西園本人だったじゃないか!

 俺は何一人で逃げてたんだ。少し考えれば分かった事じゃねえか!

 記憶を疑う前に記憶に疑われてどうするんだよ!

 俺は思い切り西園を抱きしめてやりたくなった。仲間の存在が、たまらなく頼もしかった。

 しかしそれと同時に、もう一つの現実が俺の頭に戻ってくる。

 これが全部、俺一人の妄想じゃないんだとすれば

 先生は本当に……


 その時だった。

 ガシャン!! という轟音と共に、突然入り口側(エントランス)の全てのドアが壊れ、吹き飛んだガラスの破片が爆風によって消し飛ばされた。

 驚いた俺と西園が振り向くと、逆光の元で二人の人影が見える。

 吹きすさぶ強風の真ん中に、その女は立っていた。

 ドレスに槍のシルエット。その後ろには背の低いヘルメットの男が、女を先頭にして真っ直ぐにこちらに向かって歩いてくる!

 「走れ!」俺は叫んでいた。

 「えっ?」

 殺人魔法使いが来た、とでも言えってのか?

 「いいから逃げるぞ!」

 その瞬間、俺は異変に気付いた。

 人が居ない。ついさっきまで数人は居たはずの通行人が、駅内から誰一人としていなくなっている。

 「なんだよこれ……」西園も異変を察したらしい。

 「逃げるんだよ早く! あのトンネルまで走れ!」

 考えるよりも先に、既に俺たちは駅の反対側出口(トンネル)に向かって走り出していた。

 もうすぐ地下を抜ける短いトンネルの階段いりぐちに辿り着く。あいつらはゆっくり後ろから歩いてるから俺らが追いつかれるはずが無ーー

 「ぅグッ!! 」

 突然、俺の呼吸が止まった。不意に喉を締め付けられる感覚が首を押さえつけ、俺は喉元に両手をあてて膝をついて倒れた。

 「怜士!! 」西園がトンネルの手前で立ち止まり、俺の方を振り返る。

 ダメだ、立ち止まるな! 俺はいいから早く行け!!

 だが俺の叫びは口から出なかった。なにか、見えない何か(チカラ)が喉に巻き(からみ)ついている。まるで幽霊に襲われているように。いくら掻きむしっても、この手は何も掴めない。柔らかい何かーー女性の手のようなものに首を絞められてるようだ。

 「ガ……ハッ」

 (息が  でき ない……)

 混乱する西園の前で、その力に引き上げられた俺は立ち上がり、そのまま不自然に宙に浮き上がった。

 ジタバタともがいても、足は地面に触れない高さまで持ち上げられている。

 なす術も無く俺の体は回転されられ、ドレスの魔女と向かい合う形でゆっくりと彼女のもとへ引き戻されて行った。

 ドレスの女は右手を俺の方に突き出し、暗黒卿がやるような首絞めの(チョーキング)形で、軽く空気を握っている。

 その顔は、いつも通りの笑顔のままだった。

 

 俺は動くのを止めた。

 もう脚を動かせるだけの気力も無い。鬱血した顔が真っ赤になっていくのを感じる。

 「オイ、止めろよテメェ! 何してんだよ!! 」

 西園の声がする。

 喉を絞め付けている力が強くなった。

 首が……折れる……

 口辺から涎が流れる。俺の顔は半分、白目を剥き始めていた。

 だめだ……もう、死ーー


 「怜士を、離せえええええええええええええええええええええええええええええ!! 」


 唐突に西園の声が横を通り過ぎ、拳を握った西園が一直線に魔女に殴り掛かっていった。

 「うおらあああああああああああッ!! 」

 友の危機を前にして、女だろうと容赦する西園ではなかった。振りかぶった握拳がその女の綺麗な顔に叩き込まれーー

 カキンッ!

 

 ーー鼻先スレスレを、振り降ろされていた。

 

 「ーーーーッ!? 」

  狙いは完璧だった。殴り込んだ拳は、笑みを浮かべた彼女の横顔よこずらに打ち込まれる軌道上にあった……はずだった。

 だが西園の右腕は、

 肘の辺りから先が、消えて無くなっていた・・・・・・・・・・・

 「な……!」

 侘充が女の前まで踏み込み、腕を振り上げた瞬間、その腕はポッキリと折れ、まるで陶器のようにタイルの床に落下して、砕け散っていた。

 

 「う……、腕……が」

 目の前の光景が信じられないように、折れた右腕の綺麗に欠けた断面を見て侘充は、唖然として立ちすくんだ。

 突然、俺の気道を潰していた力が消え去り、俺の体は駅の冷たいタイルの上に落ちて突っ伏した。

 まずい! 

 「だぐみ!! 」ゴホッ、

 駄目だ! まだ声が出ない!


 既に右手の空いた女の、〝力〟の矛先は侘充たくみに向いていた。

 その直後。

 侘充たくみの体は反応するよりも前に、背後の壁に向かって思いっきり突き飛ばされていた。

その力は凄まじく、猛スピードで走り出したトラックにでも見えないワイヤーで括り付けられているかのように見えた。

 何かのホラー映画のように強力な何かが腕の無い侘充たくみを遥か後方に引っ張り、その勢いのまま思い切り後ろの壁に叩き付ける。

 「ぐはッ」

 一瞬にして全身にクモの巣を張ったようなヒビが入り、侘充たくみの体が動かなくなった。

 女が斜め60°に腕を上げる。その全く殺意も見られない、簡単な動作に侘充たくみの体は浮き上がり、駅中央の天井近くで静止させられた。

 ーーさっきの俺と、同じ状態シチュエーション。空中で爆発した車の映像が甦る。

 俺はその場から立ち去る為に立ち上がった。

 逃げよう。もう助からない。

 侘充たくみも、それを望むはずだ。助からないなら、どちらか一人でも生き延びる方が正しい選択のはずだ……

 そして、俺は逃げ出していた。俺を守ろうとした、親友を見捨ててーー


 魔女は、かざした右手をぎゅっ、と握った。

 そのとたん西園の体は、空中でガシャンと音を立て爆砕する。

 粉々になった肉片が、ガラスの破片のように降り注ぎ、バラバラと駅のフロアに散らばった。


                *


 目の前の光景に、御剣言葉は息を呑んだ。取り落としたスクールバックが、駅の床にぶつかる。

 (今、ドレスを着た女の人が、侘充くんを爆発させた……?)

 彼女は、はぐれた2人を捜し疲れて家に帰る所だった。トンネルを通って寄り道をしようと立ち寄った駅で、その光景ばくはつを目にしてしまったのだ。

 宙に浮く友人。粉砕する身躯。その前には腕を上げた女の人……

 それの意味するものが、彼女の身を強張らせた。

 (たくみくんが……                   


                     ーー死んだ!?)


                *


 どこからか、自我の崩壊した女の子の悲鳴が聞こえる。あの場面こうけいに居合わせてしまった誰かが発狂してしまったらしい。

 俺は出口へと向かうトンネルの階段を急いで駆け下りていた。

 まだ追いかけてくるのか。トンネルを抜けたとしても、逃げ切れるのか分からない。

 手を下さずに人が殺せるなら、アイツの目に見える範囲に死角なんて無いじゃないか!

まして正面から殴り掛かるなんて自殺行為だったんだ!

 圧倒的力の前に、戦うどころか逃げる事もままならない。ムリだ、殺される!

 侘充……ごめん!

 なんで俺なんかの為に!

 「うわっ!」

 その時頭上を凄まじい音と共に熱風がかすめ、俺は残り数段を転がり落ちた。

 焼け付くような劫火がトンネルの真上を通り過ぎる。

 俺は受け身の体勢から立ち上がり、死にもの狂いで出口まで突っ走った。

 逃げ切れない!

 アイツは階段の上から炎を打ち出してきてる。あの火力なら優に通路の端から端まで焼き尽くせるだろう。どう足掻いても無理だ!

 ーーーーーーッ!?

 

 通路トンネルのちょうど中央に、もう一人の女が立っていた。

 白のワンピース、ボウガンを持った金髪のやつだ。こっちを見据える顔は、むっとして怒っているように見える。


 ーー詰んだ。


 先読みして回り込まれていたのか。

 武装した魔女が2対1で挟み撃ちなんて、トンネルの中(こんなところ)じゃなくても勝ち目は無い。引き返そうにも、戻れば紫ドレスの女と死が待っている。

 クソ! 運命を受け入れろってのか!

 どうせ殺されるなら!

 俺は全速力で前方の金髪女に突っ込んでいった。

 出口がすぐ先にあるのに、殺されてたまるか!!  

 「うらぁぁああッ!! 」力の限り突進していった渾身のタックルを、


 その女は、身を逸らせてよけた。

 すれ違い様に、彼女の口元が何かを囁いたのを感じた。


  ーーーーーー〝逃げて〟ーーーーーー


 「えっ……」

 俺は彼女の横を通り過ぎて、後ろを振り返った。

 目の前には白いドレスの背中、さらにその先には金色の槍を持った紫ドレスの女が、もう階段を下りきっていた。

 早すぎる、いくらなんでもドレスなんか着て、そんなに早く階段を降りられるはずが無い!


 そのとき、気が付いた。

 あいつの足は、地面に触れていない(・・・・・・・・・)

 常にあの女自身がほんの少し宙に浮いていて、まるで滑るように一歩で移動してるんだ!

 ガシャコッ。

 クロスボウの羽が閉じる音がした。

 次の瞬間、俺に向けられた槍の先から炎が噴き出し、トンネルの内壁をもの凄い勢いで焦がしながら駆け抜けてきた。

 「いっ!! 」

 身構える間もなく真っ黒な熱煙が俺達2人を包み込むーー

 ーーのを覚悟した。

 しかしそれよりも早く、金髪の少女が構えた弓の先から光の矢が放たれ、襲い(せまり)くる豪炎に飛び込んでいた。光弾に貫通された炎は風穴を空けて両端にちぎれ、切れ切れになって霧散する。そのまま紫の魔女をめがけて直進した光は、槍の人振りに打ち返され、

パーンと光の粒子になってはじけ去った。

 ガシャコ。

 間髪を入れず彼女がショットガンに次の攻撃たまを装填させる。

「逃げて、今のうちに! 龍ヶ崎くん!」

 はっとして俺は出口に向かって走り出した。

 今、彼女は俺の事を守ってくれたのか? いや、自己防衛の為だとしても、

 その時ばかりは始めて目の前にある華奢な背中が、これ以上無い程に頼もしく感じられた。

 勢い良く階段を駆け上る。背後うしろでは猛火が迸り銃弾ボルトが空を裂く戦闘音が繰り広げられている。

 俺はぶつかるようにガラスのドアに飛びつくと、乱暴に押し開けて外に飛び出した。

 眩しい光が俺を包み込む。

 俺は青空に歓迎され、駅裏の大通りを疾走した。





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