3話
麗香が、オレンジジュースをテーブルに置くと、カナが「話すよ。」というように深くうなづいた。
「何から話すのがベストなのかは分かりませんが、まず、このことを話しておこうと思うわ。私、ルナミントは人間ではなく、弱悪魔なのよ。」
そうカナが言い終えると、それを合図にルナ、ミント、カナの三人はポンッという音をたてて、小さな羽がはえたデビルの姿へと変わった。
「えええ―っ!!!!」
「ま、マジで!?」
「…………っ!!!」
ちひろをはじめ、三人は驚きの声をあげた。
「信じてもらわないといけないのですが、今日からあなたたち三人に私たち弱悪魔をねらっているものから私たちを守ってほしいのよ。」
そうカナが言うと、三人は目を丸くする。
次は、ミントが。
「この町、奈月町は弱悪魔界と人間界が唯一つながっている町なんだ。そのため弱悪魔のような力の弱いものたちは、他の世界の住民の餌食となってしまう。それをふせぐため、弱悪魔界と、人間界で手を組んで、守りあうんだ。オレたちも、あんたたちの力になる。」
次は、ルナが。
「パートナーは毎回弱悪魔界の王もしくは女王が決めているの。だから、今回のパートナーはあなたたちと、わたしたちになったというわけ。一応、組合せ的には……わたしはちひろさんと、カナは麗香さんと、ミントは蓮さんというぐあいだね。」
さらにカナが付け足した。
「くわしいことは、また伝えようと思うわ。やってもらえるかしら?」
そして、ルナたち三人は人間の姿に戻った。
「……。」
「……。」
ちひろ、麗香の二人は驚きすぎて声が出なかった。二人は、ほとんど放心状態だ。
ルナ、カナ、ミントの三人も「大丈夫……?」と心配している。
一方で、目をキラキラと輝かせている人物が一人だけいた。
蓮である。
「アニメみたいに、空飛んだり、火を出したりできんのかっ!?」
蓮が、輝いた顔で言った。
(ばかじゃないの?)
ちひろと麗香は、苦笑いを浮かべる。
「一応できるよ。」
ルナが蓮に対しそう言った。
「やろうぜ、二人共!」
『……え?』
蓮が急に言い出したため、二人はだらしなく口をあけてそう言った。
「……ね、ねえ。」
ちひろが蓮に声をかけた。
「ん?」
「蓮、アンタ能力が使いたいだけなんじゃないの? こーゆー守るっていう仕事は中途ハンパな気持ちじゃあできないよ?」
ちひろが蓮にきびしい口調で言った。
「……うっ。そ、それもあるけどさ。で、でも、助けてやりたいじゃんか!! ちひろは、そう思わないのか?」
蓮が熱意を込めて言う。
「……助けてあげたいよ。だけど、これをやるっていうことは、中途ハンパな気持ちじゃ、ダメ! できないと思ったらあきらめるなんて絶対にしてほしくないから、あたしは言ってるんだよ。麗香さんもよ。」
ちひろが言うと、麗香が「ひうっ」とビクっとする。
それを見て「ごめん」と謝る。
「大丈夫だって。俺は中途ハンパな気持ちなんかじゃないっ。絶対に助けてやるって、心からそう思ったから。」
蓮が言った。
その声は妙に安心感をもたせる声だった。
ちひろはふっと笑みを見せた。
そして、こう言った。
「良かった。本当にノリだけで“やろうぜ”とか言い出したのかと思ったよ。蓮が本気なら、あたしだって手伝うわ。全力でやって見せるから!」
すると、麗香が大きな声をあげた。
「わ……わ……私も、い……一緒に、や……やらせてください!」
麗香はとてもこれを言うのに勇気がいっただろうし、ちひろや蓮、ルナ、カナ、ミントの何倍も緊張したことだろう。
だから、みんな麗香の主張を聞こうとした。
だから、いくらたどたどしくっても気持ちが、心が、みんなに伝わった。
その証拠にちひろをはじめ、全員がうなずいた。
麗香はやはり、緊張のためふらふらしている。
何分か経って、麗香が落ち着くのを見計らって再びルナが話し始めた。
「えっと……私たちが三人にあげられる力は、三種類しかないの。まず、空を飛ぶ能力、次に、炎を扱う能力、最後に相手を眠らせる能力ってなるね。」
「そうなのか。」
蓮が言った。
「でも、どうやってそれを使えるようにするの? 修行とかしなくちゃいけないの?」
ちひろが言った。
「私、体力あんまりないし、運動神経も悪いから修行とかだったら嫌です……。」
麗香がうつむき気味に言った。
「大丈夫だ。カナ、出してやれ。」
さっきまで全くしゃべらなかったミントが急に言った。
「え? ミント、カナってなんか持ってたっけ?」
ミントの言葉にルナが反応する。
その間に、カナがポケットから小さいアイテムを三つ取り出していた。
そのアイテムを見たルナはカナを指さして言った。
「そ、それ、わたしが持ってたのにぃ~……。カ、カナ、いつの間にっ!! し、しかもミントがそれを知っていたってどーゆーことっっ!!」
「まあ、ルナ、そんなに怒らない、怒らない。」
カナがまるで小さい子供をなだめるように言う。
「怒るよっ!」
ルナがすばやく反応した。
「……子供だな。」
ミントがつぶやく。
「そーだね……。」
「ああ。」
「……う、うん……。」
ちひろ、蓮、麗香の三人もうなずく。
「ミント!」
また、ルナが怒る。
「もう、ルナ。そんなことですぐ怒るから子供なんて言われるのよ。」
カナがもっともなことを言う。
「う……で、でもカナが勝手とったから……。」
ルナが言う。
「いいえ。私はただ、預かっておいただけよ。そうでもしなきゃルナは確実になくすわよ。どうせ預かるなんてあなたに言ったって素直に渡すわけないもの。」
カナがルナの痛いところを突いた。
「……う、うう~……。」
「えっとコントは置いといてですね――」
「え! れ、麗香さん、コレをコントだと思ってたの!?」
麗香の言葉にちひろが驚く。
「……え、違うんですか?」
「違うよ! ただルナさんが子供なだけだよ!!」
「そうなんですか。私、区別がつきませんでした。」
ルナが「ちょっと!」と言っていたがガン無視。
「ねえ、麗香さん、ずれてるってよく言われない?」
「……あ、言われます……。」
(麗香さんってけっこうおもしろい人なのかも……。)
「まあ、こんなこと言ってても話が進まない。おい、ルナさっさと進めろ!」
ミントが言った。
「はーぁい。」
そう言ってルナが続けた。
「青いアイテムが空を飛ぶ力、赤いアイテムが炎の力、白いアイテムが相手を眠らせる力だよ。」
「はいはーい!」
すると、蓮が待っていたと言わんばかりに手を挙げた。
「俺は空を飛びてぇ!」
「ふ~ん。あたしは別にいいけど。てか、なんでもいいんだけど。そんなにこだわりないし。麗香さんは?」
ちひろが言った。
「ふぇ、……私もいいですよ。えっと……私のわがままかもしれませんが、眠らせる力にしてもいいですか?」
麗香が申し訳なさそうに言った。
「もちろん。じゃあ、あたしは炎の力というわけね。」
ちひろは麗香にむけて、ピースをした。
麗香もピースを返した。
「ちひろ、麗香さん、あざーっす!!」
蓮が大声で言ったため若干全員引いていた。
ちひろが全員に声をかける。
「あのさ……。」