焼きそばと僕と約束と
2作目です
少し長めに作ってみました
途中表現に違和感を感じるところもあるかもしれません
よろしくおねがいします
「焼きそばパンが食べたいな」
そう彼女は言った
彼女の名前は高科リイナ
僕の数少ない友人の一人だ
歳は僕と同じ16歳
彼女の在籍する学校でかなりの男性から人気があるほど容姿は素晴らしいとの風のうわさが耳に入ってる
どこかの事務所に入ってるんじゃないかと噂れていたらしい
しかし彼女にかぎってそんなことはないはない
いや、容姿が悪いのではなく……性格に問題がある
まぁ……わがままってのが一番あってるかな
……これまでたくさん振り回された僕だから言えることだ
そんな傍若無人で自由人な彼女はよく僕といることが多い
というか学校外ではしょっちゅう僕といる
彼女とは違う学校で住んでる地域もわからないが、僕がよく行く隠れ家的なとこに彼女はいる
別に会いたいからといってそこにいるわけじゃない
ただそこにいると落ち着くからだ
隠れ家は……隠すまでもないな、すでに廃棄された廃工場の一室のこと
かつてはその工場で働いていた人が休んでいたであろう休憩室だ
椅子や机、ソファーに網戸付きの窓……もしかすると僕の部屋より設備がいいかもしれない
そんな電気が通れば一級品の部屋を備えた廃工場もかつて不良が入り浸っていたって話があったのだが……
どっかの誰かが追い払ったってことにしておいて欲しい
「さっさと焼きそばパンといちごみるくを買ってきてほしいな、片桐」
「さっきのオーダーと違くない!?」
廃休憩室のソファーに寝転がっているリイナが催促した
命令口調なのは毎度のことなので気にしない
片桐ってのは僕の名前、片桐シロウがフルネーム
僕達は今、廃休憩室にいる
リイナはふかふかのソファーに寝転がり、僕はお気に入りの椅子に座っている
「さっさと焼きそばパンといちごみるく買ってこないと拗ねるよ?」
「どうぞ勝手に拗ねててください」
「じゃあもう二度と口聞かないし返事もしてあげない」
「別に構わないさ」
プイッとべたな拗ね方のリイナさん
「…………………………」
「…………………………」
「片桐ぃ……、おなかすいた……」
涙目のリイナのお腹からぐぅ~と音がした
「…………………………」
「…………………………」
「あーはいはい、買ってきますよ、買ってくればいいんでしょ!」
「ほんと!? さすが片桐」
財布を手に持って僕はコンビニに向けかうため部屋を出る
「焼きそばパンといちごみるくとさくさくちーずね!」
「さくさくちーずは買いませんっ」
そう言って僕は部屋を出た
え~という声が後ろから聞こえてきたが無視
……まぁ、財布に余裕があったら買ってやるか
廃工場最寄りコンビにて――
「いらっしゃいませー……あ、センパ~~~イ」
「や、やぁネネちゃん……、今日も元気そうだね……」
「はい~、ネネはいっつも元気印じるしの元気っ子ですよ~、センパイは……まさかネネに会いに来てくれたんですか!?」
あー、また始まってしまった……
「センパイがネネに会いたくてきてくれるなんて、ネネとっっっても嬉しい……」
彼女は雨音ネネ、ここのコンビニでバイトをしている
ネネちゃんは僕の学校の後輩だ
それ以上の関係はない、絶対、断じて!
特徴としては……自称・ちょっと妄想癖が強い乙女……ということらしい
今も頬を赤く染めながらくねくねしている
他の客がいなくてよかった……お互いに……
妄想の世界にトリップしてしまった彼女を放置し、僕はかごを取り、商品を並んである商品を選ぶ
(焼きそばパンといちごみるく……ん?さくさくちーずがちょっと安いな、買ってやるか……)
「でも~ネネには決めた人がいるんです……、だからセンパイ、ごめんなさいっ」
なんにも言ってないのにフラれてる!? ……まぁ毎度のことか
「あー残念だなー、はいこれ」
適当に促しながら買うものを入れたかごをレジに置いた
「センパイ冷たい……、けどそこが……」
しぶしぶ言いながらも会計を済ますネネ
「そういえば妹さんの体調はどうだ?」
ネネには妹がおり、その子は生まれつき身体が弱く、人生のほとんど入院生活を送っている
「まぁ~、悪くはないですけど、良くもないです」
ネネは少し深刻そうに言った
「そっか、出来ることなら何かしてやりたいのだが……、あいにく僕は力になれそうにない、すまない」
「大丈夫ですよ~、逆に『力になってやる、困ったらなんか言え』なんて言ったら嫌いになっちゃう所でしたから~」
時々、ネネは正しいことを言う
それが怖かった時もある
少しだけ感心しつつネネは値段を確認した商品をビニール袋に詰めるのを眺めている
「はい終わりっ、合計で512円になります」
「ん、はいよ」
財布の中を見ると綺麗に小銭がなかった
お札の収まっているところから1000円札を取り出してレジに置いた
「1000円のお預かりで……、お釣りは488円です」
「あ、お釣りはいつものようにしといて、じゃあまた今度」
差し出されたお釣りは取らず、商品の入った買い物袋を持ちコンビニを後にした
「センパ~~イ、また来てくださいね~」
ネネの声に手を振りながら答えつつ僕は廃工場の一室に帰る
片桐の去った廃工場最寄りのコンビニにて――
「まったく~センパイはあまいんだから~」
雨音ネネは片桐シロウに渡すはずだったお釣り、488円を『海外の子供達のための募金箱』に入れた
片桐という男は真面目な性格で他人のためなら自分の傷はいとわない主義者だ
なので世界のどこかで子供が苦しんでいるということを知った片桐はコンビニなどでお釣りが出た時は必ず募金箱に入れている
だから小銭入れのところには何もなかったのだ
「あと少しで16回目の満タンだ~、センパイだけでいくらぐらい募金したんだろ~?」
廃工場付近のコンビニで働いている雨音は知らないことだが片桐は他のコンビニでも同じようなことをしている
「センパイはえらいな~見ず知らずの子供を助けようなんて、だけどね――」
雨音は厳格で何処か遠いものを見るような表情になり、
「もっと身近に助けて欲しがっている人はいるんだよ?」
廃工場休憩室にて――
「ただいま、買ってきたぞ」
僕はコンビニで買ってきたパンと飲み物と発酵物の入ったビニール袋を手に戻ってきた
「おかえり、早かったね」
ソファーに寝転んだままのリイナはそういった
「はいよ、ご注文の品でございます」
リイナの態度に少し呆れつつ買ってきたものを渡す
「んー……あ、チーズ買ってきてくれたんだ、さすが片桐」
リイナは身体を起こし手をスリスリさせながら僕を拝む
「まぁ安かったからついでに買っただけだ、勘違いするな」
正直言うならちょっとリイナの喜んだ顔が見れて嬉しかったりする
「ツンデレだね、片桐」
「誰がツンデレだっ」
リイナは笑いながら僕をからかってくる、毎日のように
「いただきます」
「はい、どーぞ」
両手を合わせて買ってきたものを食べ始めるリイナ
まずは焼きそばパンを半分食べ、次にチーズ……さくさくちーずは裂くために作られたのに彼女は一切裂かずに丸かじりをする
……さくさくちーず……、裂かれずに食べられるなんて……
ちょっぴりさくさくちーずの無念さを感じた
本来の役目を全う出来なかったチーズを食べ終わり、残りの焼きそばパンを食べ始める
ちなみに言うがリイナはこれまで一切飲み物を飲んでいない
そんなこんなで念のために僕はいちごみるくのフタを開けておく
「んっ……!!」
喉に焼きそばパンをつまらせたのだろうか、リイナは背中を叩けとジェスチャーを送ってきた
……チーズの恨みだろ
そんなことを思いながらも僕は苦んでいるリイナの背中を軽く叩いた
「……っぷはぁ、死ぬとこだった……、助かった、片桐」
「毎回同じことしてるよな……」
僕が近くでみてる限りではこの食いしん坊は食べ物を食べるたびこんな死と瀬戸際に立っている
三途の川を渡りそうになった食いしん坊は僕が予測して先にフタを開けておいたいちごみるくにストローをさし、チューチュー音をたてながら飲む
「そういえば片桐、バイトは?」
「ん、バイト? 今日はないよ」
「ふーん、そっか」
聞いといてその返しかよ
ちなみに僕のバイトは塾講師みたいな知識を教えるバイト
不本意ながら全国模試の結果が良くて結構有名な働き先からスカウトされたのだ
念のために言っておくが僕は高校2年生ということをわすれないでほしい
まぁそんな話は置いといて……
「リイナ、今日何時ごろ帰る?」
「ん、今日? もうすぐ帰ると思うけど……なんで?」
「あーいや、特に意味はない」
なんで聞いたかって言うとリイナが帰るとき僕も帰ろうかと思ったからだ
「変なの、別に気にしないけど」
そっけなくリイナは返す
追求しないだけありがたい、こんな時だけいい加減な性格に感謝だ
時刻はだいたい6時半ぐらい
さすがにゴロゴロしすぎたのかリイナは帰った
ついでに僕も帰ることにした
廃休憩室に鍵はないのでそのままドアを閉めるだけ
リイナとは家が正反対の方向にあるので廃工場を出たらすぐに別れることになる
彼女の帰る後ろ姿を見送り僕も帰路につく
帰り道、一人になるとよく思いふける
リイナとの出会いのこと――
あれは何気ない日常に起きたちょっと変わった出来事だった
ついこの間……と言っても半年と少し前のこと
僕が廃工場に通い始めて3ヶ月ぐらい経った時期
いつものように廃工場の休憩室に行くため工場周辺にあるフェンスの抜け道を通り、休憩室への通路に入る……
いや、入ろうとした、入ってはいない
だって……通路入口のドアに帽子を深くかぶった男性らしき人が壁に寄りかかる状態で座っていたからだ
ドアを無理やり開ければそこに寄りかかっている男性を倒してしまう
開ければ起こしてしまう、だけどここ以外の侵入経路をしらない
「さて……どうしようか……」
他の侵入経路を探すか……
「…………ん!? 誰かいるの?」
ついこぼした声で起こしてしまったか
「すみません、起こしてしまったようですね」
「んーあー、寝ちゃってたか……」
寝起きの男性は目をこすりながら立ち上がる
服装は真っ黒なロングコートの下から灰色のスラックスがちょっと見える
……怪しいといえば怪しい格好だ
「起こしたことは気にしないで、むしろ好都合」
「はぁ……そうですか、ちなみにどうしてここで?」
「ちょっとね、誰もいなかったとこに行きたかったから」
あぁ、だから誰もいない廃工場<ここ>か
「きみが来たことだし……、さてどこに行こうか……」
男性はキョロキョロあたりを見回している、次に行くとこを探しているようだ
「きみ、どこかいい場所ない? いや、きみが行くところに連れてって」
あれ、命令形に変わった!?
「きみが起こしたから責任をとって快適に休めるところを案内して」
まぁ僕が起こしてしまったことだし案内するか
『快適に休めるところ』……休憩室〈あそこ〉でいいか……
「はぁ……、じゃあこの先です……」
僕はちょっと偉そうな男性を連れて休憩室への通路の扉を開け入っていった
休憩室の前につきついてきた男性が口を開ける
「ここ?」
「ここです、外よりかは気軽に休めるかと思いますよ」
「そう、ありがと、じゃあ入らせてもらうか」
言い終えると同時にドアを開け部屋に入った
「ふーん、悪くない」
「所々傷んでいるところもありますが何処も気にならないと思います、あそこにコートかけてください」
僕は入り口付近のコートハンガーを指さした
「……遠慮無く使わせてもらうわ」
男性はしぶしぶ返事をした
あまりコートを脱ぎたくなかったのだろうか
……ん、…………『わ』?
すると男性はコートを脱ぎ始める
口調に疑問を持った僕は男性を確認する
脱いだコートをコートハンガーに掛け、続いて帽子に手をかける
男性が脱帽した時、帽子の中から長い髪がバサッと舞っていった
その瞬間から『男性』は『女性』になった
別に一瞬で性転換したわけではない
ただ『男性』と定義していたものが一瞬にして砕け散ったのである
女性は帽子もコートハンガーに掛け、近くにあったソファーに座った
無言の空間に疑問を感じたのか、女性は驚愕している僕を見た
「どうした、なんで固まっているの?」
「女性の方だったのですね……」
「ん? 誰も男とは言ってないけど……、あー服装か、確かに男っぽく変装したからね」
「確かに男性と決めたのは僕自身ですけど……、え、変装?」
「なんで見ず知らずのきみに言わなきゃならないの?」
………………結構苦手なタイプだな、この女性
「じゃ、おやすみ」
「ちょっ……!」
就寝を告げるセリフを言った女性はすぐさまソファーに寝転んだ
「……………………すやすや……」
「……………………」
寝たよ、この人……
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「………………くしゅんっ……」
まだ10月が始まったばかりといっても夏よりかは寒い時期だ
彼女の服は時期に合わない薄着
変装するための服が少なかったから薄着になってしまったのだろうか
「……………………」
「……………………」
「………………はぁ」
そっと僕のコートを彼女にかぶせた
これで彼女が寒いことはないだろう
小さなミッションを成し遂げた僕はいつもいる定位置いるため振り向き、部屋の奥にある椅子に近寄る
ん? 一瞬視線が……
この空間は僕と寝てる彼女しかいないのに何をおかしいことを感じたのだろうか
そのときは彼女の頭の位置が少し変わっていることに気が付かなかった
4時間ほど経過した時、彼女がはっとお気、身体を起こした
「おはよう」
「お、おはようございます……」
どうやら彼女は寝起きだからか顔を真っ赤に染め、口調まで丁寧になっていた
「ご機嫌はどうかな?」
僕がふといつから立つと彼女はそっとかぶせてあった僕のコートを口元まで引き上げた
「ち、近寄るなっ」
「?」
あれ、僕は何かしたのかな
いや何もしてないはずだ、ずっと読書してたし……
「そこから3歩後ろにさがってくれるとうれしい」
といいつつもコートをさらに引き上げる彼女
ああ、女性は寝起きの顔を見せたくないからか
「わかった、わかったって」
すぐさま3歩下がり彼女の顔を見れないであろう角度に顔を向けた
「その……なんだ、きみは私に興味がないの?」
「興味? 何の? 変装の?」
「変装は関係ない。きみは私を見てなんとも思わないの?」
「あー、一つあるといえば……」
「そうか、あるのか……」
彼女は残念そうに肩を落とした
「正直に言うとわがままな性格ですね」
「え?」
あ、言わなかったほうがいいのかな?
「だからわがままな性格だって言ったんですよ、さっきから僕の返事も聞かないで命令ばっかりしてきたり、自由奔放って言葉がとても合いそうですし――」
しまった言い過ぎたか……
「わ、わがまま!? はじめて言われた……」
ん? 最後がぼそっと言ってたので聞こえなかった
「帰るっ」
彼女はソファーから立ち上がり、コートハンガーに掛けてあった自分のコートを着始めた
怒らせてしまったのだろうか
素早く身支度を済ませた彼女はドアに向かう
ドアの前で立ち止まりこちらに振り向き、
「名前」
「え?」
「名前は?」
「か、片桐。片桐シロウ」
「私は高科リイナ、明日もここに来るの片桐?」
「まぁ、来ると思うけど」
「そう、わかった」
返事をしやた彼女はドアを開き、すぐに帰ってしまった
「………………」
あっという間の出来事に状況把握できない僕だった
これがリイナとの出会い
それからリイナはちょくちょく廃工場に現れ、休憩室に入り浸っては定時になると帰る
そして今に至るわけだ
懐かしいなーと思っていたらあっという間に自宅に到着した
鍵を開け、入り、リビングに向かう
誰もいない、明かりもない、物音ひとつしない
ここはまるで廃工場と同じ……
夕食、入浴、洗濯の順に済ませ就寝につく
こうしてまた同じような生活を送る
翌日、休み中の登校日なので学校に行く
午前中には学校が終わり、昼食を済ませいつものように廃工場の休憩室に行く
入るとリイナが先にいた
「やっときたんだ、片桐」
待ち遠しいかのように声をかけてきた
「待つなんてめずらしいな。なんか用でもあったのか?」
「ない」
「…………あっそ」
僕の勘違いだったようだ
他愛もない会話をし、いつもの定位置で読書を始める
……………………
……………………
……………………
……………………
「あ、片桐」
「なんだ?」
沈黙を破り、リイナがしゃべりだす
「焼きそばパン買ってきて、ダッシュで、今すぐ」
「中坊のパシリかよ……」
「早く!」
「はいはい、買ってきますよ」
僕はすぐさまネネちゃんの働いているコンビニに行った
廃工場を出るときに気がついた
「おっと、財布持ってき忘れた。取りに戻れるか」
リイナに急かされて持ってくるのを忘れたのだろう
もう何回開けたかわからないドアをまた開け休憩室の中に入る
するとそこには……
「寝てる……」
ソファーでぐっすり寝ているリイナがいた
まぁいっかいまさら
「………………」
もう冬前だってのに……、結構な薄着なことで……
全く、風邪ひくぞ……
前にも同じことがあったなと感じつつも自分のコートをリイナにかぶせる
そして財布をとってそっと部屋を出る
既視感を感じたせいか、少し前のことを思い出した
あれは僕が初めてリイナに怒ったことだ
いつものようにリイナがわがままを言い、ちょっとした流れでコンビニに同行することになった
商品を選び、会計をすませ、店を出ようとした時、リイナがレジの後ろの陳列棚を凝視していた
「なんか気になったのあるのか?」
「あれが気になって……」
リイナは陳列棚の上の方に並べてある商品……、いや景品とかの類であろうくまの人形だ
「あれがどうかしたのか? まさか欲しいとか――」
「いやっ、決して欲しくないっ、ほんとに!」
そこまで反対するなよ……欲しいのバレバレだぞっと思いつつ、何のキャンペーンかネネちゃんに聞いた
「あ~、あれですか~。別に余り物飾ってるだけなんで持ってってもいいですよ~」
と、あっけなくくまの人形を手にいれてしまったわけだ
僕はネネちゃんの計らいに感謝の言葉を言う
さすがにわがままを通したリイナでもお礼を……
リイナも言うかと思ったら近くにはおらず、くまの人形を持ってすぐに出ていってしまった
あいつは子供かっ!
「ごめんな、今度お礼言わせるから」
「い~んですよー、センパイが喜んでくれるなら~」
「ありがと。じゃ、また今度」
「ハーイ、待ってまーす」
先に出ていったリイナを早めに歩いているような速度で追いかける
正直言うなら僕はこうゆうことが嫌いだ
他人の好意をもらうだけもらってなんにも返さないってのは
帰り道で追いつけなかったので結局、休憩室でリイナと合流した
「片桐、足遅いね」
「リイナ、まず一つ言うな?」
「なに?」
適当に返事つつ、僕の持っていた袋を目当てに近づいてきた
「まずそこに座りなさい」
説教モードに入った僕はソファーを指さす
「その前にご飯――」
「さっさと座れっ!!」
リイナがビクッとなった
さすがに恐怖を感じたのだろうか、彼女はおとなしくソファーに座った
その正面に僕は仁王立ちし、
「リイナ、そのくまのぬいぐるみはどうした?」
「どうしたって……、片桐もいたから知ってる――」
「いいから言うっ!!」
「……ネネにもらった」
「そうだよなネネちゃんにもらったんだよな? その時何か言うことがあったんじゃないか?」
普通はありがとうとか言ってもいいはずだ
「? 何かって?」
まるで何も知らないという顔だ
「ほんとにわからないのか」
「わからない、教えてよ、片桐」
考えてみればリイナと出会ってから彼女の特徴がわかった
彼女は一般常識がとても皆無ということだ
…………もし例えばの話だが、もしリイナが生まれてから一度も他人から好意をもらうという経験がなかった場合、リイナにとって初めてということになる
僕がご飯を買ってあげてるのはただ僕のやりたいことなので好意ではない
何も知らない赤子は怒れない
これと同じように僕は怒ってはいけないのだろう
「リイナ、次から誰かが自分に何かをくれたり、何かしてもらったら『ありがとう』って言おうな」
「『ありがとう』? ドラマでしか聞いたことない言葉」
そこまで箱入り娘!?
学校とかでも聞いたこ……、確かリイナは学校じゃあまり話さないんだっけか
「そう、『ありがとう』だ」
「ふーん、わかった。片桐の頼みならいいよ」
「よしっ約束な、僕とリイナの」
「ん、約束。じゃああれやろ」
「あれ?」
「ゆーびきりってやつ」
「あぁ……いいよ」
この年になって指切りなんて恥ずかしいな
いつの間にか仁王立ちは解いていた僕と新しいことを知った彼女で小指を結び、
「「ゆーびきーりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます、ゆびきった」」
これがリイナと初めての約束
「……ハリセンボンって飲めるの、片桐?」
「飲めないわっ!!」
最後が台無しだったけどいい話だった
リイナはあの約束を覚えているのだろうか……
あれ以来とくに出来事はなかったので覚えているかはわからない
しかもいい加減な性格のリイナだ、少し無理があったかな
ちなみにいうと今の回想中で僕は買い物をすませ、休憩室に帰還した
「覚えててくれたら嬉しいのにな……」
そんな淡い希望を抱きながらも当事者のいる休憩室に入る
「………………すやすや……」
まだ寝てる……
しかも僕のコートをがっしりつかんでる……
「……………………」
「……………………」
……読書でもして待ってるか
レジ袋のこすれる音と足音をできるだけ最小限にしていつもの定位置につく
そして読書を始める
…………………………
…………………………
…………………………
むくっと眠り姫が起き上がる
「おはよう」
「おはよう、片桐」
「ほれ、買ってきたパン」
わがまま将軍に買いたてほやほやの焼きそばパンを献上する
「いい夢見れた?」
「……ぜんぜん。これ……片桐の?」
リイナはかぶさってあった僕のコートを気にしていた
「ん? ああ、薄着みたいだったからかけといたんだけど……寒かったか?」
「いや……、暖かかった」
今度、休憩室に暖房器具でも置こうかな……
といっても電気が通ってないから壁付近にレンガを積んで暖炉みたいに薪を燃やすだけだけど
……安全に使うのを心がける
「片桐!」
僕が考え事に没頭しているとリイナがいつも以上の声量で呼んだ
「どうした? めずらしいな、リイナが大きい声で――」
「あ、ありがとう……」
は?
あのわがままで傍若無人で子供っぽくて箱入り娘のリイナが感謝の言葉!?
「え? 今なんて……?」
「だから、あ…ありがとうって……」
「リイナの口からそんなこと聞けるなんて……」
正直、驚きの限りだ
「だってゆびきりしたよね――」
ゆびきり――
まだ覚えていてくれたのか
忘れられてたかと思ったのに
「もしかして片桐忘れてたの? はりせんぼん飲むの?」
「僕が忘れるはずないだろう、だから飲まない!」
「そっか、よかった」
今までに見たことのない笑顔をするリイナがそこにいた
その笑顔がどこからきた笑顔なのかわからないがそれを見れてよかったと思う、今まで以上に
けど約束を覚えていてくれたことのほうがとてもうれしい
リイナとの初めての約束なのだから
この約束をいつまでも覚えていて欲しい
僕も覚えているから
「あ…そうだ、片桐」
「なにさ、まさかはりせんぼん飲めとか?」
「ちがうよ、えっとね……焼きそば食べたいな」
いつもの焼きそばパン……じゃなくて焼きそば?
「焼きそば? 焼きそばパンじゃなくて?」
「うん、出来立てのね」
「出来立てって……」
コンビニのやつは工場で作り、できたものを運んでくる
「できたては無理だろ、さすがに」
「たべたいな、片桐」
リイナがうるっとした目で僕を見る
「……………じゃあ、今度僕の家に来ればいい、そしたら作ってやる」
う……つい言ってしまった、僕はリイナには弱いなと思う
「ホントに!? あとで無理とか効かないからね」
「男に二言はありません! どんとこいっ」
「じゃあ、今から行こ!」
「今からっ!?」
「うん、今から」
家には誰もいないし……、いや誰がいないとかやましいことをするため確認しているわけじゃない
「………………荷物まとめな」
「いいの!?」
「もういいよ、好きにしろ」
喜びながら荷物をまとめるリイナ
「太っ腹だね、片桐」
これで今日一日だけでもあの誰もいない家でも少しは賑やかになるかな
「荷物まとめたよ、行こう」
リイナが手を差し伸べた
僕はその手をとり、
「行くか」
僕の嫌いな家へと向かった――
「――で、家どっち?」
「わかんないなら先に行くなよっ!!」