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予行演習と1組の団結

運動会本番の1週前の日曜日、予行演習が行われた。


予行演習なので、父兄は都合のつかない人の参加は自由であった。


担任の松本からの連絡ノートでは、純は練習では相変わらず歩いているようで、最初は好意的だったクラスメートも運動会本番が近づいて、家族や近所の人から


『どうだ?』


と聞かれるにつれ不安になり陰で不満を漏らすようになっていた。


それを表に出ないよう抑えていたのは、健一であった。


予行演習での走りは、生徒だけをみると1組が2組を完全に圧倒していた。


但し純以外はである。


純はバトンを受け取ると練習の時と同じようにゆっくりと歩き出した。

そこだけ時間が止まってしまったかのように…。


会場がざわめいた。

子供から話は聞いていたが、本当のことだったんだと言うように。


真由美はそんな娘の姿を目の当たりにして、どうしていいか、ただオロオロするだけであった。



親は全力で走って怪我をすると、運動会当日走れなくなるので、皆セーブして走っていたから、親同士の力の差はよく分からなかったが、1人だけ、2組の木崎の父だけは他の親と比べてあきらかに走りが別格であった。


昨年から速いとは噂で聞いていて、来年やっかいだなと話し合っていた人物である。


なんでも高校の時、長野県の陸上大会で上位の成績を収めていたらしい。

予行演習で力の差を見せつけ圧倒することによって、その段階で1組の戦意喪失を狙っているのは、明らかであった。


事実、健一を含め1組のクラスの大半がショックを受けてしまっていた。


予行演習の結果を参考に、運動会当日の走る順番を変更することは自由で、生徒に任されていた。


予行演習が終わりクラスに戻ってもみんな押し黙っていた。


それほど、木崎の父の走りは強烈であったのだ。


誰かが


『どんな順番にしたってじゅんが歩いて、木崎の父さんが相手なら、もうどうしようもないよ』


と言った。

それがみんなの本音であった。


純は話には加わらず教室の隅で黙ってじっと外を見ていた。

その時健一が


『たとえじゅんが歩いたって、木崎の父さんが早くたって、俺は諦めないよ。

諦めたくないよ。

だって1年の時からずっと一緒にやってきた仲間じゃないか。

みんなとの最後の運動会なんだよ、絶対諦めないよ俺!』


と目に涙を浮かべながら叫んだ。


この小学校は1年の時からクラス替えが無く、ずっと一緒でそれだけに仲間意識が強かった。


『それにもし僕がじゅんと同じ立場だったら、じゅんと同じことをするかもしれないもん』


その時学級委員の山本が言った


『じゅんが歩くことを否定するんじゃなく、じゅんが歩くことを受け入れようよ!

その前提で作戦を立てようよ。

だってじゅんは仲間じゃん。

じゅん、横浜ではじゃんって言うんだよね?』


山本は純を気遣っておどけてみたが、純は相変わらず黙って外を見ていた。


健一は心の中で山本に感謝した。

初めて純がクラスに来た時に、席を譲って貰った時と同様に。


山本の発言を機に、皆の気持ちがまとまった。


もう誰も純のことを責めようとはしなかった。

純をあらためて受け入れたのである。


皆の考えでは、


『2組は必ず木崎親子をアンカーに持ってくる。

じゅんが最初の方でリードを奪われて、最後に木崎の父が控えていることを思うと精神的にきついから、じゅん親子をアンカーにしよう。

そこまでに絶対的なリードを皆で奪おう』


というものであった。

教室の隅で黙って外を見ていた純の頬を一筋の涙が伝わっていた。

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