親子リレー…フィナーレ
木崎の息子から父にバトンが渡って、木崎の父が走り出した。
やはり早い!
2組の応援席は勝利を確信して、もうお祭り騒ぎである。
純は木崎から遅れること15メートル。
泣きながら倒れるように
『パパ!』
と父誠にかろうじてバトンを渡した。
観客は先に走り出した木崎の父の走りに目を奪われていたが、誠が走り出して状況は一変した。
誠の走りは音も無く走っているようで、尚且つ美しいフォームであった。
しかも速い!
こんなに速く走れる人がいるのかという驚異の目で皆が見ていた。
健一もその一人であった。
それもそのはず誠はかつて大学、社会人と全日本と名が付く大会の短距離の表彰台の常連であった。
誠は
『絶対に抜く!』
という気持ちで走っていた。
『抜かなかったら、じゅんに顔向けが出来ない』
バックストレートが終わる頃には、差は半分位に縮まっていた。
1組の生徒、その親、応援席が総立ちになって応援していた。
その中には、勿論真由美もいた。
『あなた抜いて!
じゅんのために。
私達のじゅんのために!』
『でもちょっと届かない!』
健一は冷静にそう思った。
健一は純を振り返ると
『ランは来てる?』
と聞いた。
純が
『うん』
と答えると、
『よし、行こう』
と言って純の手を取り走り出しながら
『ダイ!ダイ!』
と大声で自分の愛犬を呼んだ。純はもう恥ずかしくなかった。
純も健一が意図していることが分かり
『ラン!』
と叫んだ。
二匹の愛犬は応援席から勢いよく飛び出すと2人の方へ走って来た。
『おいで』
と健一は言って、ゴールでテープを持っている2人の先生に向かって走って行った。
『それ!』
健一の号令で、ダイとランは2人の先生に向かって、飛びかからんばかりに吠えだした。
2人の先生は犬たちの勢いに気圧されてテープを持ったまま、10メートル位後方に後ずさりした。
『校長せんせい〜』
と助けを求める2人の先生。
すると林校長は
『いいから、そこでテープを持っていなさい!』
と命じた。
『はい〜』
と新しい場所でテープを持つ2人の先生。
今、木崎の父が最後のカーブを曲がって直線に入った。
5メートル後から誠が続く。
木崎の父は今の状況が信じられなかった。
応援席のただならぬ雰囲気によって、間違いなく後ろから刺客が迫って来ているのを感じとって、必死の形相で逃げていた。
こんなはずじゃなかった。
こんなはずじゃ…。
自分の力からして楽勝のリードのはずだった。
悠々とゴールテープを切ってヒーローになるはずだったのに。
『俺は普通通り走っている…なのに。』
直線を向いて誠のギアがトップに入った。
ゴールまであと20メートル、差は3メートル。あと10メートル、差は1メートル。
その瞬間、風がゴールを駆け抜けたように感じた。
手品を見ているように誠と木崎が入れ替わっていた。
誠が木崎をぬ・い・ていた。
終了の合図のピストルが鳴った!
純が誠に抱きつく。
誠は純をきつく抱きしめた。
健一も、山本も、一組の他の生徒もみんな、一斉に誠に抱きついた。
みんなが泣いていた!
その様子を微笑みながら見ていた林校長が独り言のように
『いらっしゃい!
ちょっと時間がかかったけど、立花先生の着任ね。』
見渡せば、信州の山々は真っ赤に紅葉していた。




