Appendix01:P01数時間前
「今月はギガも無いしお小遣いも無いー♫ だからスタパはゆずシトラスティーだけよー♩」
いかにも女子高生といった感じの女の子。変な歌を歌いながら流行りのカフェで注文した品を受け取ると機嫌良さそうに一人空席に座った。カップの中の鮮やかなグラデーションを観察しながら一人で軽く頷いている。
(このスタパは当たりね。濃いとこと薄いとこの層がしっかり分かれてる)
そっとストローを層の境目辺りに入れてから魅惑の液体を口の中に流し込むと、甘いシロップと紅茶が混ざりきらず不規則で複雑な味覚を感じた。
(これこれー。最高に美味しいし、綺麗なグラデーションは崩れないのよー!)
一人笑顔で御満悦だ。二口目を飲む為にストローを咥えようとした瞬間、背後から見知った声が聞こえたきた。
「アリアじゃーん。あ、それ美味しそう。一口ちょうだい」
瞬時に状況を確認。同じ制服姿の少女は空の容器を手に持って立っている。友人のミコだ。いつもお金には不自由してなさそうなので期間限定のフラペチーノなのだろう。
しかし飲み切っているのだから交換は成り立たない。
(こ、こいつ……こちらが一方的に搾取されるだけだと?)
ニコニコで悪気ひとつない友人。既にミコの連れは出口で二人の成り行きを見守っている。ここで躊躇していれば彼女達からもケチ扱いされる絶妙な状況。
(ならば未来に賭ける。いや、この一口は投資だ!)
まずニコリと笑顔を返す。
「いいわよ。今度はこっちが一口貰うからね」
この条件が飲めなければ一口もやらない、そう強い決心で魅惑の液体の詰まったトールサイズのカップを差し出す。
すると友人の顔には明らかに戸惑いが見えた。
(えっ、これでケチ判定なの? あわわわ!)
無駄に焦ってしまうと先ほどまでの決意は消えて取り繕うためのセリフを考えてしまう。
「まぁ、どっちでも良いけど……」
謎な譲歩を中途半端に引き出されてしまう。その瞬間、カップはミコの手に渡ると躊躇なくストローを使って念入りにかき混ぜ始めた。
(あああぁぁぁ……)
「混ぜた方が美味しいんだからね。覚えときなさい」
さも自分がスタパ玄人です、と言わんばかりに自慢げだ。混ざり切るとそのままストローから魅惑の液体を啜る。それも遠慮なく三分の一ほどを飲んでしまった。
「やっぱり期間限定の蜂蜜ミルク桃フラペのエクストラホイップの方が美味しいわね〜。んじゃ!」
雑で嫌味な感想を残して礼もなく友人達に合流するミコ。遠く離れた姦しい集団からは次の目的地の百円ショップの話が聞こえてくる。
そんな後にポツンと一人残されたアリアと呼ばれた少女。今は肩を怒りに震わせている。
「そうよ。悪い子じゃないの。ただデリカシーが無いだけ」
何故か一人で先ほどの失礼な同級生を庇い立てしてしまう。そんな自分に気付くと情けなくて涙が瞳に溜まっていく。涙越しに先ほどまで魅惑の液体だったモノをじっと見つめるが、もはやそれは単なる甘い液体にしか見えなかった。
「はぁ。現実は世知辛いわね……」
小さな不幸と自虐を忘れるために件の液体を啜る。
「……いつもより美味しいわ」




