第一話「舞踏会の夜」
---
蝋燭が、千本あった。
大広間の天井から、シャンデリアが三つ下がっていた。
鏡が、壁の一面を覆っていた。
ドレスが、花のように咲いていた。
---
ミナリアは、柱の陰にいた。
十八歳だった。
地方の伯爵家の娘だった。
初めて宮廷の舞踏会に招かれた夜だった。
---
何もかもが、眩しかった。
眩しすぎて、柱の陰へ来ていた。
---
「踊らないのですか」
声がした。
---
男が立っていた。
黒い軍服だった。
肩に、金の飾緒がついていた。
髪が、暗い金色だった。
目が、灰色だった。
---
ミナリアは、その目を見た。
冷たい色だと思った。
しかし、冷たくはなかった。
静かな色だった。
---
「踊り相手がいないので」とミナリアは言った。
「では」と男は言った。「俺が相手になりましょう」
「存じ上げませんが」
「ハルヴィン・ノイマールです」と男は言った。「近衛隊の者です」
---
ミナリアは、その名前を知っていた。
知っていたが、顔を知らなかった。
王太子の側近として名の知れた男だった。
---
「ミナリア・カヴァシェルです」と言った。
「知っています」とハルヴィンは言った。
「なぜ」
「招待客の名簿を、全員確認しています」と彼は言った。「近衛の仕事です」
---
手を差し出された。
ミナリアは、その手を取った。
広間へ出た。
---
音楽が始まった。
---
(第一話 了)
---




