案件1 「なるほど課長」
案件1 「なるほど課長」
― AI査定システム導入について ―
この時期になると、私の机の上には評価シートが積み上がる。部下の人事評価だ。
まず個別面談をする。
「一年振り返ってどうだった?」
「来期は何を伸ばしたい?」
みんな真面目に話す。私はうなずきながらメモを取る。そして最後に言う。
「なるほど」
中間管理職というのは、基本的に「なるほど」で出来ている。
面談が終わると、評価コメントを書く。これが難しい。あまり褒めすぎると上から突っ込まれる。厳しすぎると部下が落ち込む。
結局、
「今後のさらなる成長を期待する」という魔法の言葉でだいたい片付く。
今年から会社に新しい制度が入った。
『AI査定システム』
社員のメールや会議での発言、社内チャット、PC操作。もちろん成果や目標達成率、チャット返信速度や会議発言まで分析するらしい。
人事部は言った。
「評価の公平性が上がります」
私は心の中で思った。
(ああ、それ最初からやって欲しかった)
部下の評価を書いていると、画面が光った。
「AIがコメントを補正しました」
私の文章が勝手に書き換えられている。
私のコメント
「A君はとても頑張っている」
AIのコメント
「A氏は平均以上の稼働を確認」
さらに補足までついていた。
「会議発言回数 部署平均比130%」
なんか冷たい、人間味がない。
数日後、AIから通知が来た。
「あなたの評価を分析しました」
もうか、早いな。
画面を見た。
「あなたは部下評価において、平均的な管理職です」
まあ、そんなものだろう。
だが次の行を見て、少し止まった。
「あなたの面談発言の62%は、『なるほど』です」
……そんなに言っているのか。
さらに続く。
「『なるほど』は評価情報として無効です」
そして最後の行。
来期改善目標
「なるほど」を半分に減らす
「それはいいね」を月5回使用する
評価コメントのコピペ率を30%以下にする
私は思わずつぶやいた。
「なるほど……」
すぐに画面が光る。
「警告 今ので今月の『なるほど』は19回目です」
その瞬間、新しい通知が出た。
「あなたの上司の評価をAIが再査定しました」
そして結論。
「あなたの上司の発言の83%は『うむ』でした」
会社は現在、AIによる改善を進めている。来年には、「うむ」と「なるほど」の使用回数が、人事評価に反映される予定だ。
私はしばらく考え、そして静かにつぶやいた。
「なるほど」
画面が光った。




