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【連載版】悪役令嬢に転生したけど、ここ乙女ゲームじゃなくてRPGでした ~それでも、やれることをやるだけです~  作者: スナハコ


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16.最強パーティを助けたら懐かれました

 グローリークラウンがBランク依頼を受けたという話は、ギルドの受付で聞いた。


 セシリアが依頼表を整理しながら、何気なく言ったのだ。


「レオンさんたちが、呪蝕の迷宮に入られましたよ。今朝早くに」と。


 別に教えてくれと頼んだわけではない。セシリアはああ見えて情報通で、パーティ同士の関係性に敏感だ。わたしたちとグローリークラウンの間にある空気を、彼女なりに気にしてくれているのだろう。


 呪蝕の迷宮。名前は聞いたことがある。街の南東。丘陵地帯の下に広がる中規模迷宮。呪いの罠が多く、正面戦闘力だけでは攻略しにくいとされている。Bランク。わたしたちにはまだ早い。


 だが――気になった。


「わたしたちも、今日は南東方面の依頼を受けましょう」


「え」


 ミアが嫌そうな顔をした。


「遠い……」


「丘陵地帯のゴーレム駆除がCランクで出ていますわ。ちょうどいいでしょう」


 ガレスは何も言わずに剣を担いだ。エルトが「南東って結構歩きますね」と地図を確認している。


 ミアだけが「絶対別の目的ある……」と呟いていたが、否定はしなかった。



 丘陵地帯に着いたのは昼前だった。


 ゴーレム駆除は午前中に片付けた。三体。ガレスが正面で受け止め、ミアが関節部を狙い撃ち、エルトが地形の段差で足を取られたガレスを即座に支援する。先日の甲虫戦で固めた形がそのまま機能した。


 問題はその後だ。


 駆除を終えて帰路に就こうとしたとき、丘の向こうから轟音が聞こえた。地面が微かに振動している。魔法の残響だ。大きい。


「あっちが迷宮の入り口……」


 ミアが杖で方角を指した。


 わたしは丘を登った。頂上から見下ろすと、迷宮の入り口付近に人影が見えた。四人。一人が銀髪。間違いない。


 グローリークラウンが迷宮から出てきていた――のではなかった。入り口付近で止まっている。マーカスが盾を地面に突き立てて座り込み、フィンが弓を膝に載せたまま壁にもたれている。カーラが何かの術式を展開しているが、汗が額を伝っているのが遠目にもわかった。


 レオンだけが立っていた。迷宮の入り口を睨んでいる。


「……出られない、ってことは、中に何か残してきた?」


 ミアのつぶやきに、わたしは首を振った。


「逆ですわ。中に入れないのよ」


 よく見ると、迷宮の入り口に紫色の光の膜が張られていた。封鎖結界。呪蝕の迷宮特有の罠だと、事前に読んだ資料にあった。一定の条件を満たさないと解除されない類のもの。


「中で罠を踏んだのね。封鎖結界で分断されて、一度外に押し出された。中にはまだ未攻略の区画が残っている。再突入しようとしているけれど、結界の解除条件がわからないから止まっている」


「どうしてそこまでわかるの……」


 ミアが半目でこちらを見た。


「カーラさんが術式解析をしているのに結界が解けていない。つまり力押しでは開かない。レオンが入り口を睨んでいるのは、戻りたいのに戻れないから。フィンとマーカスが休んでいるのは消耗しているからではなく、待たされているから。姿勢が違いますわ」


「……こわ」


 わたしは丘を降り始めた。



 近づくと、最初に気づいたのはフィンだった。弓手は目がいい。こちらを見て、レオンの肩を叩いた。


 レオンが振り返る。わたしの顔を見て、一瞬だけ表情が固くなった。


「何の用だ」


「ご挨拶ですわね。散歩の途中で通りかかっただけですわ」


「嘘をつけ。この丘陵の散歩で来る奴はいない」


 否定する気もなかった。わたしは封鎖結界に目を向けた。紫の光膜の表面に、古い文字列が浮かんでいる。呪術系の結界構造だ。


「カーラさん、解析はどこまで進んでいて?」


 カーラが顔を上げた。疲れた目をしていたが、敵意はない。この人は魔術師としての合理性を持っている。状況が悪いときに意地を張るタイプではなさそうだ。


「構造はわかった。三層の呪術結界で、外側から解くと内側が強化される。内側から解こうにも、中に入れない。要するに詰みよ」


「外から三層同時に解除する方法は?」


「理論上は可能だけど、三つの解呪点を同時に起動する必要がある。一人じゃ無理。三人いても、位置がかなり離れているから同期が取れない」


 わたしは結界の周囲を歩いた。紫の光膜に浮かぶ文字列を読む。呪術系の知識はない。だが――これは呪術の問題ではない。


「カーラさん。この文字列、順番がありますわね」


「……順番?」


「上から読むと意味が通らない。でも、右下から反時計回りに読むと、起動順序になっていませんこと?」


 カーラが目を細めて結界を見直した。数秒の沈黙。


「……本当だ。これ、起動順が書いてある。一番、三番、二番の順で解呪点を叩けば、同時じゃなくても連鎖的に解除できる」


「ええ。同時に叩く必要はありません。順番さえ合っていれば、一人ずつで良い。間隔は――この文字の配置間隔から推測すると、五秒以内であれば問題ない」


 レオンがこちらを見ていた。何も言わない。ただ見ている。


「ミア、一番の解呪点に氷弾を。カーラさんはミアに続いて三番を。エルト、さらにその後に、二番へ浄化の光を」


「他のパーティに指示出してる……」


 ミアが呆れた声を出したが、杖は構えていた。


 カーラはレオンを見た。レオンが短くうなずいた。それだけで十分だった。


「ミア」


「……了解」


 氷弾が一番の解呪点を撃ち抜いた。紫の光が揺らぐ。三秒。カーラの火が三番を焼く。さらに三秒。エルトの浄化の光が二番を貫いた。


 紫の光膜が、ガラスを割れるように砕けた。破片が光の粒になって消えていく。迷宮の入り口が、暗い口を開けてそこにあった。


 沈黙が落ちた。



 最初に口を開いたのはレオンだった。


「礼を言うべきなんだろうが、先に聞かせろ」


 やはりこの人はそう来る。


「どうやった。あの文字列を読めるのか」


「読めませんわ。呪術の知識はありません」


「文字の配置を見ただけですわ。内容は読めなくても、構造は見えます。どの文字が起点で、どこに向かって流れているか。それは言語の問題ではなく、設計の問題ですもの」


 レオンは少し目を閉じて、すぐに開いた。


 理解しようとしている――だが、理解できない。この人は強い。個人戦闘力なら、わたしたちのパーティ全員を合わせても及ばないかもしれない。だが、強さの種類が違う。レオンは正面から圧倒する。わたしは構造を読む。同じ戦場にいても、見ているものが違う。


「模擬戦の時もそうだった」


 レオンは腕を組んだ。


「お前は――俺たちと違う何かを見ている」


「褒め言葉として受け取っておきますわ」


「褒めていない。わからないと言っている」


 マーカスが立ち上がり。フィンが弓を持ち直した。グローリークラウンが迷宮に再突入する態勢を整えている。カーラがこちらに軽く頭を下げた。レオンは頭を下げなかった。


「覚えておく」


 それだけ言って、レオンは迷宮に踏み込んでいった。三人が続く。入り口の闇に、銀髪が最後まで光っていた。



 帰り道、ガレスが首を傾げた。


「あいつ、礼言ってなかったな」


「言いましたわ。覚えておく、と」


「それ礼か?」


「あの人にとっては、そうなのでしょう」


 ミアが杖を引きずりながら、歩いている。


「ヴィクトリア、あの文字、本当に読めなかったの……」


「読めませんでしたわ。本当に」


「じゃあなんで……」


「パターンが見えただけですわ。迷宮の罠は、設計者が作ったもの。設計者がいるなら、設計思想がある。思想があるなら、構造に癖が出る。わたしが見たのはその癖」


「……ゲームの攻略みたい」


 ゲームの攻略。そうかもしれない。この世界がRPGだと知っているわたしにとって、罠も迷宮も「誰かがデザインしたもの」でしかない。デザインされたものには意図がある。意図がわかれば解ける。


 だが、それをこの世界の住人に説明する言葉は、まだ持っていない。


 エルトがふと足を止めた。


「ヴィクトリアさん。レオンさん、たぶんまた来ますよ」


「なぜそう思いますの」


「あの人、わからないことを放っておけない目をしてました。ガレスさんと似ています」


「俺と一緒にすんな」


「いえ、似ていますよ。方向が違うだけで」


 わたしは前を向いた。レオン・アークライトの視線が、まだ背中に残っている気がした。


 ――面倒なことになりそうですわね。


 内心でため息をつきながら、歩調を速めた。夕方までにギルドに戻れば、茶葉の買い足しができる。昨日ガレスが飲みすぎたせいで、在庫が心許ない。


「あなたのせいで茶葉が減りましたのよ、ガレス」


「俺のせいかよ」


「五杯も飲んだでしょう。味がわからないと言ったくせに」


「……うまかったから飲んだんだよ」


「認めましたわね。次から茶葉代は割り勘ですわ」


「横暴だろそれ」


 ミアが「わたしは一杯しか飲んでない……」と主張し、エルトが「僕も出しますよ」と財布を探り始めた。


 丘陵の向こうに、街の屋根が見えてきた。いつもの景色、いつもの四人。だが昨日と同じではない。少しずつ、確実に、このパーティは形を成しつつある。


 そしてたぶん――わたしたちを見ている目が、一つ増えた。


 それが良いことなのか面倒なことなのか、今はまだ分からない。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


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