第5話:営業部門システムのセキュリティ障害
午前9時前、タカはビルのエレベーターホールに立ち、少し肩を回す。
昨日の夜、営業部門システム経由でウィルス混入の疑いが出たため、今日は対応状況の確認と対策の打ち合わせだ。
乗り込むと7階のボタンを押す手にわずかな緊張が走る。
会議室に入ると、既に担当者たちが資料を広げて待っていた。
「データベースの暗号化、人質状態は解除されました」
タカは説明しながら差分バックアップ機能の動作確認結果を報告する。
「侵入経路もある程度特定でき、警察と連携して個人情報流出は防止できています」
担当者たちの顔に少し安堵の色が見えるが、タカはすぐに注意を促す。
「今回の件で、全社員向けのセキュリティルールを改修します。定期研修も必須です」
一人ひとりの作業手順を丁寧に確認しながら、民主的に責任分担する体制を強調する。
昼前、タカは外出しタクシーに乗る。
運転手がいつもの調子で訊ねる。
「昨夜の騒ぎは大丈夫でしたか?」
「ええ、社内のシステムはほぼ影響なしです。外部には出ていません」
運転手は軽く頷き、ラジオに耳を傾ける。
タカは窓の外の流れる街並みを見つめ、平穏のありがたさを実感する。
帰宅すると妻が台所に立ち、手を拭きながら言った。
「今日も大変だったんでしょ?」
「うん、でも改修と研修の準備で少しずつ負担は減ってる」
「夜食、食べたの?」
「軽くだけ。君の作ってくれたおにぎりは持って帰った」
「ちゃんと栄養も考えてよ?」
「もちろん。君の分も取ってある」
二人は笑い合い、日常の安心を短いやり取りの中で取り戻す。
午後、オフィスに戻ったタカは、バックアップの確認とログ分析を続ける。
侵入経路や暗号化解除の手順を再点検し、再発防止策を詳細に書き留める。
「こうして手順を文書化し、可視化することで、シンの時の対応状況に近づける」
肩の力を少し抜き、仲間と共有した知識や改善策を胸に、一日の仕事を締めくくる。
夜のオフィスの窓から見える街灯の光が、静かに瞬きながらタカの心を落ち着かせる。




