第3話:大規模障害と分割作業
午前7時半、タカはビルのエレベーターホールに立ち、深呼吸する。
今日の作業は昨日の小規模障害よりも大きなものになる。
乗り込むと、7階のボタンを押す手が少しだけ硬くなる。朝の静けさが、心を落ち着かせてくれる。
会議室では各部署の代表が揃い、昨日から続く大規模トラブルの報告が始まる。
「昨日の障害、分割化による原因特定が功を奏しました」
タカはスクリーンの資料を見つめながら、機能ごとに切り分けた箇所を説明する。
会計、在庫、発注の各担当者が順に報告を進めるが、依然として判断に迷う点が残る。
「同じ規模のトラブルでも、今回は人の手を介さず処理できる部分が増えました」
昨日の対処療法だけではなく、分割と自動処理によって少しずつ負担が減っていることを確認する。
タカは会議の隙間に、自分の心理を整理する。
「シンの時なら、もっと速く動いていた……圧倒的だった」
属人化された決断者が不在となり、今は民主的に判断を分担している。
安全性は確保できるが、スピードと確信は失われた。
過去の記憶が脳裏をよぎるたび、少し息苦しくなる。
昼、タカは用事で外出。
タクシーに乗り込み、運転手が軽く声をかける。
「大きなトラブル、落ち着きましたか?」
「ええ、昨日よりはずっと安定しています」
運転手はそれだけ言い、ラジオのニュースに耳を傾ける。
タカは窓の外の車や歩行者を眺めながら、街が普段通りに動いていることに少し安心する。
夕方、帰宅したタカを妻が出迎える。
「今日も大変だったでしょ?」
「まあね。でも、少しずつ分割化で負担が減ってるよ」
「夜食は食べたの?」
「少しだけ。でも、栄養もちゃんと摂ってる」
二人は笑い合い、短い会話の中に穏やかな日常が垣間見える。
夜、オフィスに戻ったタカは、まだ残る小さな障害のログをチェックする。
昨日分割したモジュールをひとつずつ確認し、必要な改修を施す。
「少しずつでも、シンの時の対応状況に近づける」
デスクに向かうタカの肩の力は少しだけ抜け、仲間との会話や助け合いの重みを感じながら、一日を締めくくる。




