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ケルベロスと妖精のオルゴール

作者: 夢宮まな
掲載日:2025/12/17

 


 地獄の門は今日も静か……なはずだった。

 その静寂を破ったきっかけは、冥界の王ハデスから下賜された一つの箱──"妖精のオルゴール"である。




「聴いていいよな?」



 ケルベロスの三つの首が箱を覗き込む。右は目を輝かせ、真ん中は首をわずかに傾けて考え込み、左はおずおずと妖精を見る。




「ねじ、回してよ」

 


 右が軽く言うと、箱の中の妖精はぷいっと顔を背けた。



「命令されるの、嫌いなの」




「どうする?」



 右が残りの二首に問いかけると真ん中が低く言う。



「もういいだろ。仕事中だぞ」



「でも!」



「門番が浮かれるな!」



「せっかくハデスさまがくれたのに〜ッ!」

 右の言葉を聞いて真ん中はグルルと唸る。



「やめてよ〜」

 と左が間に入った。



 そのとき、生きた人間が地獄の門へ迷い込んできた。右が一口で噛み砕き、骨すら残さず処理をする。



 右が赤く濡れた口元をぺろりと舐め、

「……異常無し」

 真ん中は淡々と呟く。

 左はふわりとあくびする。



 ケルベロスにとって、人間など取るに足りない生き物だ。しかしオルゴールを前にすると、三つの首は揃ってたじろいだ。どうしたらいいのだろう。



「しょうがないわね」

 妖精は小さくため息をつき、ねじを回す。



「べ、べつにあんたたちのためじゃないし!」



 リンリンと澄んだ音が冥界に広がった。

 右はすぐに歌い出す。



「わっれらの王さまハデスさま〜♪」



「仕事中に歌うな!」と真ん中は叱り、やがて諦めて目を閉じる。しかしそれでも耳は、右の方に傾けていた。



 左は妖精にそっと囁いた。

「楽しいね」



 妖精の頬が赤くなる。

 やがて三つの首の声が重なり、妖精はくるくると回り出す。



「わっれらの王さまハデスさま〜♪」



「つよくてかっこいい!ハデスさま〜♪」



「だっいすき!だっいすき!ハデスさま〜♪」



 地獄の門は少しだけ、優しい音に包まれていた。





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