表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/25

第8話一緒に泣いて

日の光が真上から射す時間。

静まり返った小屋の中、窓から差し込む光がテーブルの上に柔らかく広がっていた。


「コビーさん…ガットさんは?」


「ガットなら明日の準備をしに出かけたんだ。それとついでに買い出しも」


ふふっとコビーが笑う。

その笑顔に、いつもの穏やかさが戻っていた。


「そう…ですか…」


「どうしたの?元気ないね?」


コビーは椅子を引き、座っての合図を指で送る。

木の脚が床を擦る音が小さく響いた。


セリーナは椅子に座り、視線を落としたまま息を整える。


「やっぱり今朝、ガットと何かあった?」


「いえ…気になることがあって…」


「ガットさんとコビーさんは…何をしようとしてるんですか?」


「何を?…お金のこと?」


「はい…」


ランプの炎がゆらゆらと揺れ、二人の影を壁に映す。

コビーは天井から吊り下がったランプの光を見ながら、ゆっくりと口を開いた。


「うーん…ガットには言わないって約束してくれる?」


「はい…」


「僕たちは遊ぶお金が欲しいわけじゃないんだ…村のみんなに普通の生活をしてほしい。そのためのお金なんだ。」


セリーナの瞳が、わずかに揺れる。


「村の…ために?」


「うん。」


コビーの声はどこか遠くを見つめるようで、

その言葉ひとつひとつが静かに部屋の空気に溶けていった。


「三千万ウィルあれば、種や苗を買って育てることができる。牛や羊…鶏…みんな買える。家の補修だってできる。」


「…」


セリーナは黙ってコビーの話に聞き入る。

窓の外で鳥の声が一瞬だけ響いた。


そしてふふっと笑みがこぼれた表情で、コビーは続けた。


「ガットは言ってくれたんだ。そのお金で村に小さな料理屋作ってやるって。」


「お前が作る料理はうまい!だから村に料理屋作ってみんなに食わせてやれ!って。」


「ガットは強引だから。」


ハハッと笑う。

その笑いには、懐かしさと少しのあたたかさが混じっていた。


(ガットさん…)


「ガットは不器用だけど真っ直ぐな人だから。すごくうれしかった。」


セリーナは黙ってうなずく。

小さく光る瞳が、どこか優しい色を帯びていた。


「今…僕たちがやってることは犯罪…それはわかってる。」


「でも…ガットは村のみんなのために…今動いてる…」


セリーナは小さく確認するように


「はい…」


コビーは立ち上がり、カップを二つ用意して紅茶を入れる準備をする。

ポットの湯気が立ちのぼり、ほんのりとした香りが漂った。


「王女さんは今何歳?」


「私は…十九です。」


「そっか。」


注がれた紅茶の表面が光を受けてわずかに揺れる。


「ガットには娘がいたんだ…」


「プリシアっていうね。」


「今…生きていたら王女さんと同じくらいの年かな…」


コビーが紅茶をセリーナの前に置き、ゆっくりと座る。


「病を患っていたんだ。三年前の流行病…王都に行って見てもらおうとしたら薬だけでも五十万ウィル…とても僕たちが払える額じゃない。」


「ガットは必死に探した…治してくれるとこを…薬が買えるところを…」


「ようやく見つけたんだ。最北端のレイクの街でね。全財産を使って薬をようやく手に入れた。」


「でも…間に合わなかった…」


「…」


外の光が少し傾き、部屋の中に淡い影を落とす。

コビーは小さく息を吐いた。


「ガットに言っちゃダメだよ?」


「はい…」


「だから…こんな…苦労や苦しみをみんなにさせたくないって…」


「ガットは…そういう人なんだ。」


セリーナは泣いていた。

声が震え、涙が膝の上に落ちていく。


「私…自分のことばっかりで…」


「こんなにも…苦しんでる人達がいるなんて知らなかった…」


コビーは微笑みながら、その姿を優しく見つめた。


「でもね、王女さん。」


「今知ってくれた。僕らはそれでいい。僕らのために泣いてくれてる。」


「だから、一緒に泣こう。それで十分だよ。」


「ごめんなさい…」


「王女さんが謝ることじゃないよ。」


「僕は…ガットも、王女さんと話せてよかった。」


「さ、冷めないうちに、どうぞ。」


コビーはそっとカップをセリーナの前へ押し出した。

その仕草には、言葉よりも深い温もりがあった。


「はい…いただきます。」


静かなティーカップの音が、小屋の中にひとつ響いた。


──一方ガット。


ザァァ……ザァァ……


ラスの村近く――海の見える丘の上。

潮風が草をなで、遠くでカモメが鳴く。


プリシアの墓前。

名を刻んだ石が、淡い陽光を受けて静かに光っていた。


「……」


――回想――


(あんたはあまちゃんだよ…)

(お前にはできねぇよ…)


ザァァ……ザァァ……


(お前も…同じなんだよ!)


「プリシア…俺は…」


(あの時の…セリーナの顔…)

(頭から離れねぇ…)


ガットは拳を握り、風の中でただ立ち尽くしていた。


ザァァ……ザァァ……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ