第17話 王女として…
前日の夜──。
私室で泣いているセリーナ。
「う…うぅ…」
(私は…やっぱり何もできないんだ…)
コン、コン……。
セリーナは必死に涙を拭う。
「はい。」
「私だ。」
その声はナビル王。
「お父様…お入りください。」
ガチャ……。
そこにいたのは、いつもの王の目ではなく、
優しい“父親”の目をしている王の姿だった。
「お父様! ガットさんは!」
「裁きは受けると言った。」
「ダメです…お願いです…お願いですから…!」
嗚咽混じりの声が部屋に響く。
ナビル王は黙ってその場に立ち、
やがて大きく息を吐いた。
「セリーナ…お前にとって、ガットはどういう男だった?」
「ガットさんは…私を…救ってくれた…
私に笑顔をくれた人です。」
「これは誘拐なんかじゃ…ありません…。」
涙が頬を伝い、床に落ちた。
ナビル王はしばし沈黙し、
重く目を閉じたまま言葉を絞り出す。
「すまなかった…セリーナ。」
「え…?」
「私は…お前が見えていなかった。
ガットに教えられたよ。」
「お父様…」
「許してくれ…セリーナ。」
涙で言葉が出なかった。
そして──ガットの言葉を思い出す。
(俺が王にガツンと言ってやる!)
(俺は…お前を守りたい。)
(ガットさん…)
ナビル王の瞳が、ゆっくりと変わっていく。
先ほどまでの“父”の優しさは消え、
そこにあったのは──“王”としての冷静な目。
「しかし、罪は罪だ。あやつもそれを覚悟していた。
罪は法的には裁かねばならない。
国で決めたことだ。」
セリーナは顔を横に振る。
涙の跡が頬に線を描き、
そのまま静かに俯いた。
──翌朝、牢獄。
冷えた石壁の隙間から、淡い朝の光が差し込む。
目を閉じていたセリーナが、ゆっくりと目を開けた。
(王族として…王女として…)
小さく息を整え、震える指で書面を取り出す。
その声には、もう迷いはなかった。
「ガット=ローウェル。
ナビル王国刑律第十二章、国家に対する犯罪の項に基づき、
以下の罪を言い渡します。
一、王族たるセリーナ=ナビル殿下の誘拐および不法拘束。
一、勅命に反する越権行為。
一、王国軍の警備を故意に攪乱した罪。
一、王命違背および国政秩序攪乱。
よって、以上の罪状により極刑をもってこれを処す。」
鉄格子の向こう、ガットは下を向いたまま静かに耳を傾けていた。
その表情に、恐れも迷いもなかった。
「同、コビー=ハンクス。
同章に基づき、以下の罪を言い渡します。
一、王族誘拐への加担および従属行為。
一、国庫金の強要(身代金の要求)。
一、軍事機密区画への不法侵入。
よって、以上の罪状により極刑をもってこれを処す。」
「これは法律に基づいた裁きです。
以上です。」
紙を読み終えたセリーナの手が、わずかに震える。
だがその瞳はまっすぐで、揺らぎはなかった。
ガットは下を向いたまま、静かに目を開ける。
少しの笑みがこぼれる。
(それでいい。自分の道は…自分で決めるんだ。)
(プリシア…)
(ここからは――王女として…人として…私がやります。)
薄明の光が、牢の壁を静かに照らしていた。




