第12話 プリシア
ラディス山脈中腹の旧保線小屋に向かうコビー。
(あと少しで……村のみんなを助けることができる……)
朝焼けの中、海沿いを走り、山脈へと進路を変える。
(……君の村を守れるんだ……)
(プリシア――あの笑顔が、いまも僕の背中を押している。)
――回想――
「コビー! ねぇ! そこにいるんでしょー?」
納屋の屋根の上で寝そべり、空を見ていたコビーが身を起こす。
「ん?」
下をのぞくと、笑顔のプリシアが立っていた。
「ほーら、やっぱりいた。」
コビーは苦笑して肩をすくめる。
「よくわかったね? ここだって。」
「天気がいいとだいたいここだからね。」
「さすがだ。」
「それより村長が呼んでたよ。」
コビーは背伸びをして、軽く息をつく。
「ん……んー。今行くよ。」
「よっと!」
屋根から飛び降り、村長の家に向かう途中で振り返る。
「あ、プリシア。」
「ん?」
「代わりに納屋の片付け……お願いね。」
「ちょ、ちょっと! んもう!」
プリシアの声が青空に溶けた。
――現実――
ダカッ、ダカッ、ダカッ!
コビーが馬を飛ばす。
(兵士らしい影はない……このまま山道まで!)
――回想――
村の入口で。
「プリシア、どこ行ってたんだい?」
「お母さんのところ。」
「今日は……二十日だったね。」
「うん。」
「二年か……」
(薬さえあったら……シーラさんは助かった……)
――現実――
山道に入り、スピードを落とす。
(この辺は張ってる様子はない……隠れるところもないからね。)
――回想――
「どうぞ、お姫様。」
コビーは手作りの魚の煮込みをプリシアに差し出す。
「くるしゅうない。食べてしんぜよう。」
「ふふっ。ありがとうございます。」
プリシアは、ぱくっ……と一口。
「ん……んー。おいしい!」
「それはよかった。」
コビーは隣に座り、彼女の食べる姿を見つめる。
「ちょっと……そんなに見られてると食べづらいよ……」
プリシアは頬を染めて俯く。
「ん? ああ、ごめん。プリシアはなんでもおいしそうに食べてくれるから、うれしいんだ。」
「だって、おいしいから。」
「そうだ!コビー、料理屋さんやりなよ!」
「料理屋さん? 僕が?無理無理。」
「えー、ほんとにおいしいのに。お客さんいっぱい来るよ?」
「そしてみんなを笑顔にできる!コビーの料理を食べて、みんな幸せになるんだ。」
プリシアの笑顔が、夕暮れにすくわれた。
「ふふっ。僕のお客さんはプリシア一人で十分だよ。」
――現実――
馬を降り、山を登る。
「はぁ……はぁ……」
(一カ所だけ、小屋を中心に周りを見渡せる場所がある。そこから見れば……配置が全部わかる。)
――回想――
ザァァ……ザァァ……
夕暮れの海辺。
プリシアが髪をなびかせ、手で押さえながら海を見つめている。
「私ね……海を見るのが好き。嫌なことを忘れさせて、洗い流してくれるから。」
目を閉じて、深呼吸。
「すぅー……はぁ……」
「ここで暮らせて、ほんとによかった。」
ザァァ……ザァァ……
「村の景色……海の景色……村のみんな……お父さん、お母さん……みんな大好き。」
そして、振り返って笑顔を見せる。
「もちろん、コビーのこともね。」
――現実――
「はぁ……はぁ……あそこだ……」
(あの岩陰から確認できる。)
(プリシア……君の好きだった村や景色……必ず守るから。)
――回想――
村の菜園。
「これも大きい! 取ってもいい? これ。」
「どれ? うん、大丈夫。」
「うん。」
プリシアが熟れたトマトを摘みながら歩く。
「この辺、大きいのいっ……!? ごほっ、ごほっ……」
プリシアは手で口を押さえた。
「プリシア? 大丈夫?」
「!! プリシア!」
押さえていた手を離すと、掌も口元も血に染まっていた。
「コビー……わたし……」
コビーが駆け寄る。
「プリシア! 大丈夫。大丈夫だから!」
「先生のところに!」
コビーはプリシアを抱きかかえ、走り出す。
(シーラさんと同じだ……どうして……なんでだよ……)
(なんでプリシアまで……)
(絶対に…死なせるもんか…)
――現実――
コビーは岩陰に身を潜め、望遠筒を覗く。
(やっぱり……南に五。北に……四。)
視界をさらに遠くへやる。
(あそこにも……二。そうだよね、そこしかないもんね。隠れる場所。)
カチリと望遠筒を縮め、立ち上がる。
小屋へと歩き出す足取りに、迷いはない。
(あんなに……元気だったプリシアが……)
(どうしてさ……)
(プリシアの笑顔、忘れられない……どんなにつらくても、僕たちに笑顔をくれた……)
(だから僕は……プリシアが好きだった場所を守る。絶対に。)
風が吹く。
遠くから、海の音がかすかに響いた。
――波の音は、今も同じだった。




