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哲学と孔雀

作者: 憂媿穎

ある日、孔雀は考えた。なぜ、自分は孔雀なのか、孔雀に産まれなくてはならなかったのか。動物園の堅牢な鉄格子の中で特にすることもないため、考える時間は無限とも言えるほどあった。しかし、孔雀がどれだけ熟考を重ねても、その答えに辿り着くことはできなかった。


周囲の孔雀にも同じ質問を浴びせた。しかし、温室育ちの孔雀たちの中に一羽としてその問いに興味を示すものはいなかった。水遊びや毛繕いに夢中な孔雀たちは不思議そうな顔で哲学する孔雀を一瞥し、忙しそうにどこかへ行ってしまった。


広い世界を知れば答えが出るかもしれない。そう考えた孔雀は、慣れ親しんだ動物園に別れを告げ、摩天楼のそびえる都会へと繰り出していった。


孔雀はそれまでの怠惰な生活を恥じ、職を探した。片っ端から面接を受けたが、孔雀を快く採用してくれる店はなかなか見つからなかった。運よく、人材不足で困っている職場に巡り合うことができた。それは決して楽な仕事ではなかったが、孔雀はどんな仕事にも手を抜かず、全力で向き合った。偶然か必然か、孔雀が働き始めてからその会社の業績は右肩上がりに伸びを見せるようになり、孔雀の噂は上層部にまで届いていた。


やがて孔雀は小さな会社を任されるようになった。仕事をしなくても使い切れないほどの富が転がりこんでくるようになった。しかし、孔雀が欲しいのはそんなものではなかった。孔雀は街角募金にほとんどのお金をぶちこんだ。


孔雀はそれから市議選に立候補し、大多数の賛同を経て、見事市長の座を勝ち取った。身分を得て、人の上に立てば何かが分かるかもしれないと考えたのだ。孔雀が市長になったことに、懐疑の色を示すものもいた。しかし、孔雀は目を瞠るほどの働きぶりでそうした声を跳ね除けていった。


それから孔雀は大統領になった。大統領の仕事は孔雀が想像していた以上に過酷なものだった。眠る時間は仕事に圧縮され、少しでもミスをすれば矢のような罵声を浴びる。


やがて孔雀は働き過ぎで胃に穴が空き、虫垂炎になった。過度なプレッシャーと激務に寄るストレスが原因だった。孔雀の体はもはや限界に達していた。羽はかつての輝きを失い、健康的だった肉体はしなびて生気を保つことができなくなっていた。諦めどきを悟った孔雀は地位を捨て、ただの孔雀に戻ることにした。


帰り道、焼き鳥屋の前を通りかかった。孔雀の目に映ったのは、グツグツと煮えたぎる網の上で炙りにかけられる、かつての同胞の姿だった。 

 

そのときになってようやく、孔雀は自分が何のために産まれてきたのかが分かったような気がした。


孔雀は、吸い込まれるように、金網へと飛び込んでいった。

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