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奇妙な放送

作者: 小雨川蛙

 

『こちらは 防災〇〇です 所在不明者について お知らせいたします 背格好は……』


 友人と昼食中。

 流れてきた放送を聞いて男は怪訝な顔をする。

 この放送はもう五日も連続で流れているのだ。


 初日は気にもしなかった。

 精々、時々聞かなくもないものが流れてきた。

 しかし、珍しいな……と、本当にその程度だった。


 だからこそ、二日続けて流れてきて驚いた。

 おまけに何となしに覚えていた背格好や性別が一致していた。


 そして、三日目になりまたも流れてきた時、放送と共に脳の奥にしまわれていた記憶が飛び出したのだ。


『中肉中背。年齢は36歳。男性。服装は上は青いワイシャツで下が茶色のチノパン……だろ?』


 放送の内容を男は先読みして言う。

 直後、それをなぞるようにして放送される。

 誰だか分からないが早く見つかってほしいものだ。


 そんなことを考えていた事を覚えている。

 だが、流石にそれが五日目ともなると何となしに気味が悪い。


 そんな思いから男は友人に言った。


「またこの放送か。もう五日目だぞ?」


 ただの雑談のつもりだった。

 特に反応も求めていない。


「は? 放送? 何の事?」


 だからこそ、この返答に男は困惑する。


「いや、ほら。今も鳴っているじゃん。中肉中背の……」

「え? そんな放送してる?」


 友人の表情を見て彼が嘘を言っていないと気づいた刹那。


『あっ 聞こえていましたか?』


 不意に放送が変わり、男はビクッと体を震わせる。


「おっ、おい? どうした?」


 友人の動揺と心配が耳に入る中、頭の奥に言葉が響き続ける。


『すみません どうか助けてください 私達 ずっと探しているんです おねがいします おねがいします』


 恐ろしくなりガタガタと男は震えた。

 心配する友人に必死に訴えかけるも友人は困惑するばかりだ。


『おねがいします また会いたいんです おねがいします おねがいします』


 放送は頭の中からずっと途切れない。

 思わず悲鳴をあげた男を見て友人は彼を連れ出して車を走らせた。


「放送が聞こえるんだな!? なら、町を出ればいいんだろ!?」




 幸いなことにこの物語には悪も怪異もない。

 存在するのは痛切な願いだけだった。


 故にその男は今、別の街で暮らしている。

 そして、放送者は今日も家族の手掛かりを求めて必死に放送を続けている。

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― 新着の感想 ―
 悪も怪異もなければ解釈のしようがなく、文字通り奇妙な放送ですね。  凡そは、奇妙だけではと作者的に霊や怪異だを付け加えがちですが、敢えて放置する事で謎に深みをもたせ想像させる造りは余韻が多くなり良い…
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