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貴方とはすでに”他人”ですけれども?

作者: シャチ

説明が足らなかったなぁと思うところを一部追記しました。

主にざまぁの部分と、このダメ男の過去についてです。

 王立貴族学校、この国において貴族なら必ず通う事となるこの学校は数年前から、平民にも開放されている。

 新たな技術が花開き、行政の仕事が増える一方だということで、優秀な平民を通わせ貴族への対応などを学ばせ、王宮勤めとさせるためだ。

 兵士たちには平民の出の者は多かったが、この制度ができてから王宮での事務処理に平民が登用されることが増えていた。

 

 なぜこんな制度ができたかといえば、平和な時代が訪れ貴族の人口が減ってきているから。

 昔は婚姻同盟や政略による婚姻が主流だったし、子供の生存率も低かったため子沢山な貴族家が多かったが、二百年も前に現在の王国に統一されてからは、政略結婚自体が減り技術の進歩で乳幼児の死亡率も低下、特に金を持つ貴族であれば医者に掛かりただしい処方薬によって多くの風邪は大事に至らず、子は健やかに成人を迎えることが多くなった。


 跡取りさえ生まれればよいとなれば、当然出生率は低下する。

 以前は跡取りになれなかった令息たちが城に勤めていたが、それが減り続けることになる。

 しかも、令嬢しか生まれなかった貴族家が婿を探すこともあり、次男以下は婿入りすることが王宮勤めよりも安定した生活で、家を出た後も貴族でいられるという状況により、城で働く令息達は減り続け、ついには令嬢の登用も始まる。

 当初は服装などでもめたし、仮にも貴族令嬢が令息たちと同じ空間で働くのはなどと苦言もあったが、労働力が足りなければそうもいっていられなかった。


 そのため、学校に通いに来る貴族子女達は主に領地経営を学びつつ交流しながら新しい産業や商談を学園内でまとめることがメインとなり、王宮勤めをしようと思うものは減少傾向にあった。

 結果、平民でも試験を受け合格し学校に三年通う事で王宮勤めできるようになったのが、ここ数年というわけだ。

 そこに男女の差はなく、貴族学校には“領地経営科と文官科”があるという状態になっている。


 何が言いたいかというと、貴族と平民が同じ教室で学ぶことはほぼないという事だ。



「お金で彼を縛り付けるなんて可哀そうです! 彼を解放してあげてください!!」


 私は、昼食を食べている向かいの席に了解もなしに座り、いきなり大声で意味の分からぬ非難をしてきた少女にようやく目を向ける。

 相手の着ている制服は文官科の制服。胸元のワッペンには家紋ではなく学校の校章がついてる。

 つまり平民の女子生徒だ。

 私は別に平民だからと見下すつもりはないが、さすがにこの女の言うことには眉を顰めざるを得なかった。


「アリア・テレーズさん、かしら? 突然食事中に意味の分からないことで声を荒げないでくださる?」


 私は彼女のワッペンの下、名前が刺繍されているところを確認し呼んでやる。

 噂には聞いていた。

 仮にも“婚約していた”男の恋人だ。

 それが発覚した瞬間にこちらから婚約破棄しており、奴とはすでに赤の他人なのに、この女は何を言いに来たのだろう?


「意味の分からない事ではないです! シャーロット様がロイドをお金でしばりつけているって彼が!」

「お待ちになって、まさかカルロッソ子爵令息がそのようなことを“まだ”おっしゃっているの?」


 私の言葉にアリアがとまる。

 ピンク髪がふわりと今までの勢いで揺れ目が見開かれた。


「お前はまたアリアを虐めているのか!!」


 そんな動きが止まってしまったアリア嬢の後ろから、聞きなれた声が聞こえた。

 こちらに向かってくるのは案の定ロイドだ。しかし、伯爵令嬢の私に向かって“お前”ですか。

 恋は盲目と言いますけれど、貴族社会の常識も何もかもすっ飛ばしている。

 初めての顔合わせの時の素直な美幼児はどこにも存在しておらず私は冷たい目を向ける。


「カルロッソ子爵令息、私は過去に一度たりともアリア様を虐めてなどいませんよ。それにずいぶんな言いようですわね」


 これで気が付けばいいけれど、まぁ気が付かないでしょう。


「うるさい! アリアの声が聞こえて来てみれば、貴様がにらみつけているじゃないか! これがいじめじゃないとでも」

「私の目付きの悪さは昔からですけれど、先ほどから“お前”とか“貴様”とかずいぶん高圧的な物言いで私を貶めておりますわね? カルロッソ子爵令息」

「そのよそよそしい言い方をやめろ見苦しいぞ!」


 これは、まだ理解していませんか……

 すでに赤の他人なのですが。


「カルロッソ子爵令息、私のことはルッテンバル伯爵令嬢と呼ぶようにと、この間お伝えいたしましたが、もうお忘れですの? その際、書状もお渡しし、カルロッソ子爵へお渡しするようにお伝えいたしましたのに…… まさかお渡しになっていない、なんてことございませんよね?」

「書状? 何のことだ」

「しっかりお渡しいたしましたよ。 皆の前で。 一字一句間違いなくお伝えいたしておりますが、それすらお忘れですのね」

「だから何を言ってる」

「“私、シャーロット・ルッテンバル伯爵令嬢とロイド・カルロッソ子爵令息の婚約は正式に破棄されました。こちらの書状を貴方のお父様にしっかりと渡してくださいまし”と申しましたのに、それすら聞いていなかったのですか? よかったですわねアリアさん、彼を縛るものはすでに何もありません。あとは当人たちでお話ししてよろしくやってくださいませね?」

「は?」

「では失礼」


 私は食べ終わったトレイをもって席を立とうとすると、カルロッソ子爵令息が目の前に立って道をふさいできた。


「俺はそんなことを了承した覚えはない!!」

「それはそうでしょう、だって貴方様は両家の打合せすらすっぽかしたのですから。本人不在でも両家当主のサインがあれば婚約は取り消せます。貴方様に渡した書状は私という婚約者がいる間に浮気をし、両家の契約に泥を塗ったことへの請求書です。写しはすでに子爵家に渡してございますから、仮に捨てていたのだとしたらご両親に確認なさい。まったく、すでに“他人”なのに、何故私がこんな説明をしてやらねばならぬのでしょう」

「ま、まてお前は俺に惚れたから金で婚約したんじゃ」

「はぁ? うぬぼれるのも大概になさい。カルロッソ家の財政が苦しく、災害で領民にも被害が出ているというから次男の貴方が婿入りする代わりに、我が伯爵家が支援しているのだとさんざん説明しましたし、ご両親もあなたに説明したはずですが? それすらお忘れになって遊び歩いていらっしゃったの? わたくしがいつあなたを“愛している”などと言いましたか?」


 私の言葉にカルロッソ子爵令息がうろたえているのがなんとも滑稽です。

 私の言ったことに嘘はありません。

 食堂にいるほかの貴族子女だって私の言葉にうなずいているというのに。

 政略結婚が減ったといはいえ、今もないわけではありません。私とこの馬鹿になった男がそれでした。

 貴族の間でも恋愛結婚が増えたとはいえ、その内容を頭に入れず生活する貴族子女がどこにいるでしょうか?


 私たちが婚約する前、カルロッソ子爵領で大きな土砂災害が起こりいくつかの村に被害が発生し、領内の食糧の枯渇、復旧作業の為の莫大な費用が発生した。

 ある程度の貯蓄があったとはいえ子爵家だけで賄えるような金額ではなく、ましてやしばらく領の収入がなくなる。

 そこで、カルロッソ子爵は学生時代に仲が良かった私の父へ支援を要請。

 伯爵家はカルロッソ子爵家への支援費用を融通する代わりに、私の婿としてロイド・カルロッソとの婚約を結ぶことになった。

 当時私が領を継ぐ予定であり婿が必要だったこと"当時は"ロイド・カルロッソは素直で勉学に励み当主の補佐をするのに向いているだろうという子爵家の家庭教師たちからのお墨付きもあり、婚約したのだ。

 確かに当時はまじめで将来の伯爵家のことについてお茶をしながら二人で話したこともありました。

 ただ、学園に入ってから彼は変わってしまった。

 それまで子爵家の復旧の大変さから社交にあまりかかわってこなかったのもあったと思うが、他の貴族令息達との交流の中で恋愛にあこがれ、溺れ、相手が多少かわいらしい平民だからと手を出した。

 今までの真面目で誠実な彼は社交の失敗によってこうなってしまったともいえる。

 さすがに親でもない私が、婚約者だからと言って学園内での男同士の社交に口を出すことはない。

 徐々によそよそしくなり態度が悪くなっていくのを咎めたのも、口うるさいと思われた要因かもしれないが、反抗期の少年か?という気持ちしかない。

 

「そもそも、貴方様の成績の問題から破棄するかどうかを悩んでいたところに此度の浮気騒動、決定打でした。ですからひと月も前からわたくしと貴方は他人。本日のことは厳重に子爵家に伯爵家として抗議いたしますから、そのおつもりで」


 じゃまでしてよ。とカルロッソ子爵令息を押しのけ私は食堂を後にする。

 いくら成績が悪いと言ってもあそこまで馬鹿だったろうか?

 しかも、自ら首を絞めるようなことをして。


 数日後、カルロッソ子爵令息は学校を退学した。

 いや、退学させられたというべきだろう。

 子爵家の籍を外されたからだ。成績が優秀であれば編入もできただろうが、勉強もさぼり別学科の女の尻を追いかけていればそうなるのも必然だ。


 逆に、平民のアリアはまだ学校にいる。

 恋に溺れたとしても成績も悪くなく、せっかく学園に入ったのにやめるとなれば将来の仕事に困るからなのと、こちらが手を回したからだ。

 彼女からは分厚い謝罪文が伯爵家と子爵家、それに学校に届いた。

 内容を確認し、本人も反省しているという理由で伯爵家より処分は軽いものとするように学校に進言した結果だ。

 こちらから何かしなくても学園で問題を起こした頭だけがいい生徒を採用する貴族家も商家もない。

 そういう意味で社会的責任を取らせるつもりだ。


 しかし、男は恋に落ちるとなぜこうも馬鹿になるのだろうか?

 ちゃんと手順を踏んでいればここまで大ごとにならなかったし、平民落ちもしなかったろうに、彼は私への慰謝料という借金を背負っただけの平民となったわけだ。

 まったく、恋というのはよくわからないわね。

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もしかして、子爵家当主が伯爵家当主の『若かりし頃の失敗』の証拠とか持ってませんか? だからこんな舐め腐ったマネが出来たのかも。 当人同士の厚い友情という名のゆすり集りの影が見えるのは、勘ぐりすぎでしょ…
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 カルロッソ子爵家、ルッテンバル伯爵家を舐めきってますね。爵位が下なのに。  令息がアホで遊びまわってるんだから(それで婚約破棄に至った)、婚約破棄の打合せがある日まで当主は令息を監禁でもして、当日は…
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