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第8話:異能者カイザと勝負(ユウの視点)

(……冗談だろ)


一瞬、何が起きたのかわからなかった。

あのキサラ師範が、膝をついた。

それも、力でねじ伏せられたわけでも、氣で圧されたわけでもない。


だが、その結果が――敗北だった。


道場全体が、ひとつ息を飲んで沈黙した。


(あれが……強さ、なのか?)


ユウの拳が、じわりと汗ばんでいた。

自分はこの剛気館でずっと鍛えてきた。

キサラ師範は、誰よりも尊敬する存在で超えたい壁だった。


その師範が、あんなにあっさりと敗れた。


カイザ。


旅人を名乗って現れたその男は、戦う前も後も、何も変わらない穏やかな顔をしていた。何かを見下すこともなく、ただ静かに勝ちを受け入れた。

それが、逆に不気味だった。


(何者なんだ、こいつ……)


わからない。

この男が何を考えているのか。

何の目的でここに来たのか。


だが、それ以上に――


ユウは、アイリの顔を見た。


彼女の目が、明らかに揺れていた。

母の敗北への動揺だけじゃない。

その目は、カイザを見ていた。


(……興味を持ってる)


直感だった。

いつも冷静なアイリが、感情を揺らしているのがわかった。

そして、それが“自分には向けられたことのない目”だったことも、わかってしまった。


(違う……やめろよ。あんな奴に……)


胸の奥がざわつく。

嫉妬なのか、不安なのか、それとも――恐怖なのか。

わからない。ただひとつ、確かだったのは、


(このままだと、全部壊される)


そう思えてならなかった。


道場も、日常も、

そして――アイリとの距離も。


俺が負けたわけじゃない。

だけど、カイザと今、勝負をしたところで勝つことは絶対に不可能。

それが何より、苦しかった。


拳を握る。

手のひらには、汗がにじんでいた。


(もっと強くならなきゃ……)


アイリの心がカイザに奪われる前に。

何もかも遅れてしまう前に――


(絶対に、追いついてみせる)


ユウは静かに、そう誓った。

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