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全てを奪われた日、異能喰いに目覚めた僕はすべてに復讐する  作者: 雷覇


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第23話:苛烈な実験

一日目――


ユウは、ひたすらに燃えていた。


実際に火がついているわけではない。

だが、皮膚の内側が焼けるような熱。

血管の一つひとつが赤く染まり、破裂しそうだった。


声も出ない。

呻き声すら、もはや呼吸と区別がつかない。


拘束具が軋む。

無意識に暴れる身体を固定するため、さらなる補助器具が追加された。


「ここまで耐えた人間はカイザ様以来だ。覚醒の可能性がある」


一人の研究員が、ただ記録を続けていた。


二日目――


視界が壊れた。


現実と幻覚の境がなくなり、

かつての道場、アイリの笑顔、道場のみんなの眼差し――

すべてが混ざり合って、何が真実かもわからなかった。


(お前は誰だ)


誰かが問う。

それは自分自身の声か、他人の声か、もう判別がつかなかった。


爪が剥がれ、血が噴き出しても、痛みすら鈍くなっていた。

もはや生きているという実感だけが、唯一の感覚だった。


三日目――

体温が下がり始めた。

しかしそれは、回復ではなく崩壊の兆候だった。


「……このまま、死ぬかもしれません」


リサの部下が淡々と報告する。

だが、彼女は冷たく言い返した。


「それでも問題ない。生き残れば、素材として価値がある。

死ねば、その程度だったというだけの話」



四日目――


ユウの身体は、もはや動かない。


意識もほぼない。

だが、彼の中で――わずかに何かが灯っていた。


その小さな灯火は、名もない異能の核だった。

まだ名付けられていない力。

まだ形を持たない意思。


それだけが、わずかに残った意識の奥で

確かに残っていた。



中央研究所の一室。そこに白衣の者たちが沈黙のまま並んでいた。

中央には、異能適合率の最新分布グラフ。

そこに、部屋の奥から一人の男が足音もなく現れた。


カイザ。


その姿に、室内の温度がわずかに下がったかのような錯覚すら起きる。


「……戻ったか、カイザ」


先に口を開いたのは、実験主任であるアレス博士。

老人だが、その眼光だけは鋭く、かつて国政の影に関与していたとも噂される人物。


カイザは無言で席につくと、ユウの診断データを見つめる。


「……異能反応、安定曲線に達しかけているな。

ただし、負荷値が高すぎる。脳波が焼け落ちるまで持って数日か」


「現在、強制抑制剤で反応を抑えているが限界は近い」


カイザは表情一つ変えずに言った。


「そうか。死ぬなら、その程度だ。また別の実験体を探すまでだ」


「私のもとに、彼女を呼べ。精神の再構築が可能かどうか――試す」


「……まさか、道場の彼女を?」


「そうだ。アイリ。あれは、ユウの心に最も強く刻まれた対象だ。

感情操作の媒介として最適だ」


「だが、すでにお前に染められた女を再接触させるのは、リスクが――」


「問題ない」

カイザの声が、低く冷たく断ち切った。


「この段階において、私の指示を否定する材料は存在しない……違うか?」


アレスは沈黙した。

周囲の白衣たちも、誰一人目を合わせようとしなかった。


カイザはゆっくりと立ち上がる。


「想像以上の成果ではある。ユウは覚醒者となるか、ただの破棄素材となるか。

どちらに転んでも、異能覚醒薬の完成に近づく……」


その声に、誰も言葉を返さなかった。

カイザの足音だけが、無機質な床に淡々と響いていた。


静寂の実験室。

命の残り火のような心音だけが、ユウの耳に響いていた。


視界はまだぼやけている。

薬の副作用、意識の深淵、全身を焼かれた後のような虚脱。

もう、自分がどれだけ生きているのかもよく分からない。


そんな中――足音が近づいた。


コツ、コツ、と規則正しく響く細い音。


誰かが、ガラスの向こうに立っていた。

ユウは、朦朧とした視界を凝らす。

その姿がはっきりと見えたとき――息が詰まった。


「……アイリ……?」


彼女は、そこにいた。

変わらぬ姿で。

整った衣服、凛とした背筋。


彼女は、ゆっくりとユウを見下ろした。

目を細め、優しげに微笑む。

だが、そこには感情の揺らぎがなかった。


「……ユウ。生きていてくれて、良かった」


その言葉は、台詞のようだった。

本心かどうか、もうわからない。

ただ、そう言うように指示されたのように言葉をつなぐ。


「どうして……お前が、ここに……」


ユウの声はかすれていた。

だが、言葉よりも先に、心が叫んでいた。


(戻ってきてくれたのか? それとも……)


アイリは、ふとガラスに手を添える。


「私は、カイザ様の命でここに来たの。あなたの状態を見届けるようにって。

そして、必要なら声をかけろと」


その言葉が、ユウの心に突き刺さった。


「カイザの……命令、で……?」


「ええ」


アイリの表情は揺れなかった。


「私は今、カイザ様に仕える者だから」


ユウの中で、何かが折れた。

心の奥で、なにかが鈍い音を立てて崩れていく。


「……でも、ユウ」


アイリは声を落とす。


「あなたは、まだ終わっていない。

私はそう感じてる。……それが、私自身の意思かどうかは、正直わからない。

でも――どこかで、まだあなたを見ていたいって思ったの」


その言葉に、ユウの瞳がわずかに揺れた。

アイリの言葉は、彼の意識をつなぎとめるかのように静かに続いた。


「もし、あなたが立ち上がれるなら。……その時はまた会いましょう」


そう言い残して、アイリは背を向けた。

何も言わず、何も聞かず。

ただ、カイザに報告するべき任務を終えた者のように、無言で去っていった。


ガラス越しの世界に残されたユウは、

ただ、壊れかけた意識の奥で――その声を反芻していた。


「……もう一度……」


それは、呪いか。

それとも最後に残された祈りか。

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